主張
住宅扶助費の削減
「住まいの安心」を掘り崩すな
生活保護を利用する人たちにアパートなどの家賃費用として支給される住宅扶助費の上限額大幅見直しが7月から強行され、多くの利用者が扶助費削減による新たな苦難を強いられています。住み慣れたアパートからの転居や家主との家賃値下げ交渉を迫られるなど住まいの安心を揺るがす事態も生まれています。厚生労働省は、猶予を設けるなどの「経過措置」をとるよう区市町村に通知しましたが、自治体によって対応はバラバラで混乱を引き起こしています。暮らしの実態を無視した住宅扶助費削減は中止すべきです。
いきなり転居を迫られて
住宅扶助費は、地域や世帯人数を区分して、国が上限額の基準を決めています。今回の見直しは、一般低所得世帯の家賃と機械的に比べ、扶助費上限額が「高い」地域があることなどを理由に実行されました。月1万円もカットされた2人世帯、月6000円もカットされた3人世帯など全国各地で多くの世帯が減額されました。
安い家賃のところへ引っ越すよう求められたり、大家と家賃の話し合いをし、話がまとまらなければ転居することを要請されたりするケースが相次いでいます。「母子家庭はなかなかアパートを貸してもらえず、子どもの学校の近くでやっといまの場所を見つけた。ここから引っ越すとなると子どもの通学はどうなるのか」という母親、「長年住み慣れた地域で、顔なじみもたくさんいる。いまになってなじみのない地域にはとてもいけない」と語る高齢者など、利用者の苦悩と不安は深刻です。
乱暴なやり方に批判が広がるなか、厚労省は今年4月、見直し実施にあたり、通勤・通学や通院などに支障がある場合は従来どおりの扶助費で、それまでのアパートに住み続けることができるなどの「経過措置」をとるよう自治体に通知しました。しかし、自治体によっては通知内容を利用者に知らせず、一律に転居を迫るなどの事例が少なくありません。国は自治体任せにせず、生活保護の利用者の権利と利益を優先した対応をするよう徹底すべきです。
住宅扶助費削減自体になんの道理もありません。安倍晋三政権の社会保障削減路線にもとづく生活保護大削減の具体化の一環として、「削減ありき」で強行されたものです。2015年度から18年度にかけて総額190億円(15年度は約30億円)の住宅扶助費カットは、保護世帯の3割にあたる約44万世帯にのぼります。生活保護の分野では、すでに食費・水光熱費にあたる生活扶助費の3年連続引き下げ(総額740億円)が強行され、今年11月からは寒冷地の冬季加算の縮減も行われようとしています。
生活困窮者に苦難と犠牲を強いる生活保護費の相次ぐ削減は、「社会保障拡充のため」などという消費税増税の口実がまったく成り立たないことを示しています。
逆行やめて拡充こそ
今年5月、川崎市で生活保護利用者が犠牲になった簡易宿泊所火災は、生活困窮者に安全な住まいを保障することの必要性を浮き彫りにしています。多くの生活保護利用者に劣悪な住まいしか提供できていない現状をあらためることこそ政府の責任です。
住宅扶助費削減という逆行をやめさせ、安心の住まいを確保させる政治への転換が急務です。