主張

刑訴法改悪、参院へ

「国民監視法」は廃案しかない

 刑事訴訟法等「改正」案の参院での審議が始まりました。この法案のもともとの出発点は、厚生労働省の元局長事件など続発する、えん罪を防止するためのものでした。しかし、実際に国会に提出された法案は、当初予定されたものから大きく性格を変え、国民を監視し、抑え込む「治安立法」というべきものとなっています。

えん罪広がる危険も

 法案では、えん罪防止にとって肝心の取り調べの可視化(録画、録音)は、わずかな範囲の実施にとどめられました。それどころか、捜査当局の巻き返しによって、盗聴捜査の範囲の大幅な拡大や、「被疑者」自身の証言を罪の減免の材料にする「司法取引」という新しい制度の導入を盛り込んだ大改悪案です。えん罪の被害者をはじめ救援・人権団体、弁護士、刑事法学者、労働組合などをはじめ諸団体、多くの国民の法案反対の声が高まっています。

 衆院審議のなかで法案の問題点はいっそう明らかになりました。盗聴捜査では、現行法の対象範囲を大きく広げ、強盗や傷害、詐欺や恐喝など多くの一般犯罪にまで対象としています。

 とくに問題なのは盗聴の方法です。盗聴(通信傍受)捜査は強制捜査の一種なので、裁判所の許可(令状)がいるとともに立会人が必要なのは当然です。ところが法案は、通信管理者の立会人を廃止して「通信の暗号化」でよいとします。審議では、この方法をとった場合、警察による傍受結果の乱用を防止する具体的な保障が一切ないことが明瞭になりました。

 「司法取引」に関しては、すでに実施しているアメリカで、えん罪が広がっている深刻な事態が明らかになっています。「共犯者」の証言だけで、事件に何の関係もない人が巻きこまれる、えん罪が続出しているのです。日本でもかつて、単独犯の真犯人が無実の人たちを「共犯」と指名したため死刑・無期判決が繰り返された1950年代の八海(やかい)事件(山口県)があります。司法取引が制度化されれば、このような事態が繰り返される危険が増大しかねません。

 捜査過程を録画、録音する捜査の可視化は、たしかに緊急に求められている課題です。しかし、今回の法案では、その範囲が裁判員裁判の事件など全事件の2%程度しか対象になっておらず、これではいま続出している痴漢えん罪事件などに対応できません。そのうえ対象事件のなかにも例外を認めるなど、本来求められる可視化になっていません。

 録画、録音が全事件、全過程で求められるのは、従来警察がおこなってきた捜査が、脅したり、なだめすかしたりして、警察の筋書きにあった自白を求める手段であったものを、公正なものに改めさせるところに目的があります。

 録画をしなければその間、何をやられているか分かりません。こういうものにこそ隙間のない対応が必要です。

歯止めにならない修正

 衆院では若干の修正や付帯決議がおこなわれましたが、歯止めになるようなものでなく、今回の法案の悪法という本質は何ら変わっていません。この法案の危険な内容をいっそう多くの国民に伝え、法案反対の運動と世論をさらに広げて、参院で廃案に追い込むために全力を挙げましょう。