年金は物価・賃金の変動に応じて毎年度改定。「マクロ経済スライド」は、少子高齢化による年金財政への影響分(調整率=15年度実施は0・9%)を差し引いて支給額を抑える仕組みです。ただし、物価上昇が調整率より低い場合は物価上昇分だけを削減し、物価下落時は下落分だけを削減して調整分は実施しないルールとなっており、これまでは物価が上がった15年度しか実施されていません。法案では、未実施の調整分を翌年度以降に繰り越し、物価上昇時に繰り越し分の調整率を加え、まとめて実施できるように見直します。
物価・賃金がともに下がった場合の改定ルールも見直し、物価より賃金変動が大きい場合、賃金変動にあわせて改定します。低い賃金にあわせて年金を引き下げるねらいです。
さらに、保険料を月100円引き上げて負担増を強いることも盛り込んでいます。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)については、株式・債券以外の金融商品への投資や短期資金の貸付などを規制緩和。株式売買を自身で行う「自家運用」など運用拡大については3年をめどに検討する規定を設け、危険な運用拡大に道を開くことをねらっています。
解説/物価スライド停止ねらう
安倍内閣が閣議決定した年金制度改定法案は、消費税10%で物価が上がっても年金は上げない“物価スライド停止”法案とも呼ぶべき重大な改悪です。年金は、物価が上がると、生活を維持できるように引き上げる「物価スライド」を導入しています。
2017年度から消費税が10%になると2%近く物価が上がるとみられています。「マクロ経済スライド」による年金給付抑制=「調整率」を15年度と同じ0・9%と仮定すれば、現行では差し引き1・1%の引き上げとなります。
しかし改悪案では、17年度に「調整率」が実施できなかったとすると、それが繰り越され、18年度の「調整率」とあわせて1・8%の引き下げです。消費税増税で物価が2%上がっても年金は0・2%しか上がりません。給付総額は約1兆円も消え、家計と経済に重大な影響を及ぼします。
さらに来年度改定のように物価が上昇して賃金が下落した場合、これまでは改定なしだったのが、賃金下落に合わせて削減できるなど改定ルールを見直します。どんな局面でも年金は上がらず、抑制と削減を徹底することが可能になるのです。
政府は、少子高齢化のもとで「制度の持続可能性」を理由にあげますが、国民の生活と経済が持続できなくなってしまいます。自公政権は2004年にマクロ経済スライドを導入したとき「100年安心」と自画自賛しましたが、破綻は隠しようがありません。
国民の年金積立金を株価維持のためにつぎ込み、老後の支えとなるべき年金制度をズタズタに切り裂く―。暮らしの問題でも国民生活を無視した安倍政権の暴走に対して厳しい批判は免れません。 (深山直人)