主張

高校教科書検定

政治による教育支配をやめよ

 安倍晋三政権が教科書への統制をエスカレートさせています。2017年度から使われる高校教科書の検定結果では、集団的自衛権の行使容認などにかかわって、文部科学省が政権の主張通りに記述内容を書き直させた事例が続出しました。国民の間で見解が分かれる問題で、政府が自らの言い分を「正解」として教科書に書かせるのは、政治による教育支配そのものです。民主主義社会ではあってはならないことで許されません。

安倍政権の主張にそって

 安倍政権は14年に教科書検定基準や教育内容の基準を改悪し、社会科などの教科書の記述を政府の統一見解にそったものにするように教科書会社に要求しています。

 今回の高校教科書検定で、ある現代社会の教科書は、自衛隊についての記述に「第9条の実質的な改変」とのタイトルをつけていましたが、「自衛隊の海外派遣」に変えられました。「実質的改変」などしていないというわけです。

 別の現代社会の教科書は安倍政権が掲げる「積極的平和主義」について、「アジア地域をはじめとする広範な地域で自衛隊の活動を認めようという考え方」と書いていましたが、「国際社会の平和と安定および繁栄の確保に、積極的に寄与していこうとするもの」と変えられました。これも安倍政権の言い分そのままです。

 日本軍「慰安婦」や戦時下の強制労働など戦後補償問題では「法的には解決済み」との日本政府の主張を書きこませました。「慰安婦」問題で「政府、強制連行を謝罪」との見出しを付けた新聞記事は教科書から削除させました。領土問題でも「日本と中国の間に領土問題は存在しない」との政府の主張を一方的に書かせています。

 関東大震災のさいの朝鮮人虐殺や南京大虐殺などの犠牲者数については、14年の改悪で設けられた「通説的な見解がないことを明示せよ」との検定基準を適用し、人数をあいまいにしました。犠牲をできるだけ小さく見せようという意図であることは明らかです。国家が「通説がない」などとごまかし、事実を直視させないというのは、きわめて問題です。

 戦前の日本は、軍国主義推進の教育をするために、神話を歴史的事実として扱うなど国に都合のいい国定教科書をつくり、子どもたちを戦場に駆り立てました。戦後はその反省から、民間のさまざまな教科書会社や執筆者が、学問の到達点を反映した教科書をつくることにしました。ところが、教科書の内容を検定でチェックし、政権の意向にそって書き直させることがこれまでも繰り返し問題になっています。政権に都合の悪いことは書かせないということでは、国定教科書への逆戻りです。

「国定」への逆行許さず

 今回の検定は、安倍政権が集団的自衛権の行使容認、戦争法の強行など「戦争をする国づくり」をすすめるなかで行われました。教育を「戦争をする国」の「人材づくり」の場にしようという政権の暴走が、検定による教育支配に拍車をかけています。

 学問・研究の成果に立って事実を学び、多様な見解を知って自ら判断する力を養える教科書づくりを保障するべきです。自らの主張だけが正しいかのように書かせる安倍政権に、教育をゆだねることはできません。