SOUND OF 009 RE:CYBORG

 映画『009 Re:Cyborg』を観てまいりました。初めに結論を書いておくと、ぼくはおもしろかった。うん、ぼくはね。ただ、これは見るひとを選ぶだろうなあ。たぶんうちの両親あたりに見せたらポカーンとして何が何だか訳がわからないという反応になるのではあるまいか。

 見終わってつくづく思ったのは、神山監督も『ヱヴァ』の庵野監督に負けず劣らず全力投球のひとだな、ということ。何十年ぶりかの『009』の劇場映画を撮るにあたって、「まずは各サイボーグの顔見世を」とか少しも考えていないことがわかる。

 ある意味不親切ではあるが、まあ、日本のアニメファンならこのくらいの不親切は余裕で付いてこれると踏んでいるのかも。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の時も公安九課の面子の説明なんてまるでしなかったものね。まあそういうわけで神山監督渾身の一作となっているわけです。

 物語はサイボーグ009こと島村ジョーが高校生として生活を送っている東京に始まる。かれは世界中で起こっている連続テロ事件の放送をテレビで見ているのだが、かれ自身、事件とかかわりを持っているようでもある。いったいジョーが呟く謎めいた文句は何を意味するのか?

 「いきなりクライマックス!」とタイトルに書きましたが、まさにそうで、この映画、冒頭の時点で謎のテロによって33もの高層ビルが倒壊しており、世界の軍事バランスは崩壊、いきなり人類滅亡寸前。事ここにいたってギルモア博士は世界各地に散ったサイボーグ戦士たちを呼び戻そうとするのですが、いやもっと早くに呼び戻せよという気がしなくもない(笑)。

 そしてしだいにそれら連続性が見あたらない事件の背景に「彼の声」と呼ばれる謎の声が関わっていることがわかってくる。人々を操り、人類をやり直させようとする「彼の声」とは何なのか? 新手の洗脳? 新種のウィルス? 脳そのものの情報? それとも神の声? 謎が謎を呼びながら、物語は凄まじいスピードで展開していく。

 初めに書いた通り、見るひとを選ぶ映画だと思う。おそらく意図的にやっているのだろうが、最後まで見てもいくつもの?マークは消えることはないし、そもそもここにはわかりやすい「敵」すらいない。いかにも石ノ森章太郎的な「悪」らしきものは出てくるのだが、それも中盤であっさり消えていってしまう。「正義」とか「悪」をはっきりと見定めづらい現代社会を投影した作風といえるだろう。

 ひとによってはもっと視聴者に優しい映画を期待したかもしれない。講釈ばかりうるさい駄作と決めつけるひとも出てくるだろう。しかし、加速装置の演出を初めとするアクションは冴えているし、上山佐監督らしいファンサービスも少なくない。

 また、3Dのキャラクターたちには意外に違和感を感じることはなかった。たしかにまだ作画のような繊細な表情を感じることがないことはたしかだが、劇場のスクリーンで見るに耐える画面になっていることも事実。

 とにかく展開も情報もハイスピードで進んでいくのでなかなか付いて行くのが大変な映画であった。シナリオそのものはシンプルなのだが、視聴者が展開を予測してくることを前提としてその上を行こうとするところがあるのだ。普通の映画の方法論ではないことはたしか。

 しかし、島村ジョーはかっこいいし、フランソワーズはエロかわいいので、キャラ萌え的にも楽しめる。オススメはしかねるものの、個人的には楽しめた映画だ。今年の問題作といっていいでしょう。ぼくはこれからも神山監督に付いていきます。