先日、NHKのドキュメンタリー番組『プロフェッショナル』が、サッカーの本田圭佑選手を特集していました。現在はロシアのチームに所属している本田。はるかな異国の地のサッカークラブで、かれがいまどのようにして戦っているか、そのプロセスが克明に描かれていて素晴らしかった。
大きな怪我をして、そこから何とか立ち直ろうとしていることは知っていたけれど、チーム事情という側面から見ても苦労しているみたいで、まあ神さまはよくもまあこの男に試練を与えるよな、と。
もちろん、本田が常人ならとっくに挫折している「壁」を乗り越えていく男だからこそ、かれの前に新たな壁が現れてくるわけなのでしょうけれど。そういった無数の壁を前にしながら、あきらめることなく立ち向かっていく本田の絶対に揺らがない姿には勇気づけられます。
いや、ほんとうは揺らがないわけじゃないんだろうけれど、それを外に見せないんですね。サッカーの「プロフェッショナル」として、強靭なメンタルで自分を徹底的に律しているのだと思う。そういう本田はほんとうに格好いい。いまの日本人アスリートのなかでも、トップクラスに格好いいと思います。
ただ、本田は生まれつき天才的な才能に恵まれていたわけではないようです。信じがたいことに中学生の頃までは足が遅く、「並か、それ以下」の選手だったとか。それでもかれはその頃すでに「世界一の選手になる」という夢を周囲に語っていたといいます。
常識で考えれば論外の夢です。「並以下」の選手が「世界一」を目ざすということは、上に何百万人もいるわけで、そのすべてを追い抜かなければならないわけです。「日本一」の選手が「世界一」を目ざすというのでもむずかしいのに、「並以下」の選手が目ざすというのは、もう、滑稽ですよね。
滑稽だし、哀れですらあると思う。あたかも風車に立ち向かうドン・キホーテのように。しかし、それでも本田はあきらめなかった。そして現実に日本代表のユニフォームを着て、ビッグクラブへの移籍を目ざすまでになったのです。
いまもかれは夢の途中で、現状に満足しているわけでは決してないでしょう。かれもまた、いつか夢を追いながらその途上で斃れることになるのかもしれません。それでもなお、ひたすらに自分を信じて絶望的な現実に対峙する本田ほど素晴らしい人生を送っている男はめったにいないでしょう。
何かで本田の発言が中二病めいていると書かれているのを見かけたことがありますが、とんでもない話で、本田が生きている世界は中二病なんてまったく通用しないウルトラリアリズムの世界であるわけです。
かれの世界で意味を持つものは「実力」、ただそれだけであって、中二病的な妄想だの夢想はまったく通用しません。本田の発言が中二病的だとすれば、それはぼくたちがそういうふうにしか理解できないというだけのことです。