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田中はもともと胸焼けがするほど甘ったるい「ラブラブエッチ漫画」の描き手だった。作者自ら「同じようなもの」と呼ぶまさに変わりばえしないラブストーリーを、延々、数十作(もっと?)も描いているはずだ。
その、ちょっと男性向けエロ漫画のイメージとはかけ離れた暴力性のかけらもない世界は、ある種、無二の存在感を持っていた。しかし、田中は『愛人』で一時、エロ漫画を離れ、ほろび行く世界を描くことに没頭した。
そうしてできあがった『愛人』は素晴らしい作品だった。完結までに長い時間がかかったが、まさに待つだけの甲斐がある作品に仕上がっていた。あえて分類するなら「セカイ系」ということになるのかもしれないが、ただそれだけのものではなく、世界の肯定と戦いの信念が描かれた傑作だった。
続く『ミミア姫』は、エンターテインメントとしては際立って抽象性が高い作品だった。田中ユタカは「美少女エッチ漫画」を卒業してはるか前人未到の領域にまで到達したように見えた。しかし、いま、かれは「美少女エッチ漫画」に帰ってきた。『初愛』はその成果の結晶である。
感嘆のあまり、言葉もない。際立ったアイディアがあるわけではなく、重厚な物語があるわけでもない。何組かの恋人たちの「始めてのセックス」を短編の形で描いた、ただそれだけの漫画。それなのに何か圧倒的なものに出逢った感動を感じるのはなぜなのだろう。突き詰めて行けば「美少女エッチ漫画」はここまで到達することができるのだという、その感動だろうか。
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