弱いなら弱いままで。
アメリカのドナルド・トランプ大統領の扇動にもとづく市民の議会突入が話題になっています。それに関連して8800万人ものフォロワーを擁する大統領のTwitterが永久凍結され、大統領が世論を左右する要素が大きく失われたことも大きな話題になっていますね。
この問題をどう捉えるかはむずかしいところで、トランプは暴力行為を煽ったのだから凍結は当然だという人もいれば、「言論の自由」の観点から見て私企業が個人の政治的意見を抑圧するべきではないという人もいる。
いずれも一理あるように思われ、ぼくはまだ何がより正しいことなのか判断できていません。
たとえばネット論客の青識亜論さん(@BlauerSeelowe)などは例によって「言論の自由の原理原則論」に立つようで、このいわゆる「垢BAN」を批判的に語っています。
青識さんの云いたいことは、もちろんわかる。確かに今回の件を「あくまで私企業の自由」で済ませてしまえば、その「自由」はどこまでも拡大し、いわゆるリベラルサイドの言論をも抑圧することになるかもしれない。
その意味では「あくまで私企業なので恣意的にアカウントを凍結するのは自由」だと擁護することは問題含みでしょうし、だからリベラルサイドこそあくまで「表現と言論の自由」を擁護することに注力するべきだという理屈には説得力がある。
しかし、その一方で実際にこれほどの大事件が起き、死者すら出ていることはやはり看過できないのではないかとぼくなどは考えるわけです。
青識さんの意見は「原理原則論」としてはいかにも正しいでしょう。ですが、問題を現実的に考えるとき、「あらゆるきわめて影響力の大きい人物の言論」を一切無制限に許容するべきかというと、それはさすがに無理ではないかと思います。
今回、よく取り上げられているスティーヴン・キングのツイートにある通りです。おそらく、青識さんも、今回の件はともかく、あらゆる場合においてどこまでも無制限に自由を認めろとは云わないでしょう。
だから、もしそうであるとするなら、青識さんには「どこまでを許容し、どこからに反対するのか」、そのラインを示してほしいと思ってしまいます。
極端な過程であることは十分に承知して述べますが、たとえば大統領のTwitterでの扇動によって核戦争が起き、人類が滅亡することは現実にありえる。
そのような直接的な危機が目前に迫った場合でも、絶対に言論は弾圧されるべきではないとはあきらかに行き過ぎでしょう。「人類の存続より言論の自由が大事」とはあまりにもばかげている。
このような極限的なシチュエーションにおいては個人の自由が制約されることも容認されるべきであるという考え方は、大半の人が正しいと考えると思います。
もちろん、その場合でも「ほんとうにその危機が目前に迫っているのか」について果てしない議論が繰り広げられることにはなるだろうけれど、それはここでは措いておくとします。
とにかく「放っておいたら人類が滅亡する」場合は私企業によって個人の自由が抑圧される正当性があることはほとんどの人が認めるだろうと考えます。
それでは、その場合を極北として、具体的にどこまで「私企業による言論の自由の抑圧」が容認されるべきだと考えるか? これはおそらく人によって相当のばらつきがあると思うのですね。
たとえば戦争やテロによって百万人単位の死者が出る可能性はどうか? それはさすがにダメ? それなら数万人では? 数百人とか?
そういうふうに考えていくと、今回の「数人の死者が実際に出てしまった」状況はどうなのかということについてより多面的に考えることができるのではないかと思うのです。
この場合の「さすがにこれは凍結されるべきだろう」という「線」の引き方は完全にロジカルに決定することはできず、どうしても恣意的になってしまうわけで、各自が自分自身の恣意性を開陳するべきだと思うわけです。
それは自分の「絶対的な正しさ」ではなく「主体的に拠って立つ立場」を明確にすることでもあります。
とにかくTwitterでは、まあFacebookとか他のSNSでもそうでしょうが、「自分だけは客観的に正しい正義を代表している」と考える人たちがその絶対的な「正義」をぶつけあってより「対立と分断」を深め合う方法にしか話が進まない傾向があるように思え、正直、いいかげんうんざりしています。
「自分だけは客観的、論理的、絶対的に正しい。対立者はただのバカ」と考える人たちがお互いに相手をばかにし、揶揄し、嘲弄しあう。いずれが「ほんとうに」正しいかとはべつに、そういうやり取り自体がもうどうしようもなくうんざりなんですよ。
男であれ女であれ右であれ左であれツイフェミであれアンチフェミであれべつに良いのだけれど、「正当な批判」という都合の良い表現でもって他人をばかにして悦に入るのをやめませんか、と云いたい。
ハルマゲドンもラグナロクももう十分。とにかく「ネット上のコミュニケーション」を次のレベルに上げたいですよね。
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