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パワーインフレを止められるか? 岐路に立つ『HUNTER×HUNTER』の選択とは。(2152文字)
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パワーインフレを止められるか? 岐路に立つ『HUNTER×HUNTER』の選択とは。(2152文字)

2012-12-08 11:01
    HUNTER×HUNTER 31 (ジャンプコミックス)

     『HUNTER×HUNTER』第31巻が発売されました。続けて第32巻もすぐに出るようです。ぼくはもちろん『ジャンプ』で連載を追いかけていますが、単行本であらためて読むのはやはりいいもの。

     とくに『HUNTER×HUNTER』は複雑きわまりないバトルの連続なので、連載で読んでいるとわからなくなってしまうところもあります。まあ、単行本で読んでいてもわからなくなるときはわからなくなるのですが。

     しばらく前に刊行された第30巻と、この第31巻、続く第32巻は、キメラアント編の後始末ともいうべきエピソードです。人類を凌駕する恐るべき生物キメラアントの「王」メルエムが死したあとも物語は続いていき、キメラアントとの戦いで傷ついたゴンを助けようとするキルアを中心に展開していきます。

     注目するべきなのはいったんネテロ会長とメルエムの対決という「頂上決戦」を描いたあとに、より「弱い」キャラクターたちの戦いに焦点が移っていること。連載初期で出てきたキャラクターであるヒソカが再登場したりしているわけですが、メルエムという最強キャラクターを見せられた後だと、かれの天才と狂気ですらごく人間的なあたりまえのものに見えてくることは否めません。

     つまり、物語そのものがスケールダウンしているわけです。ふつうならそれは即座にインパクトの弱さへとつながり、なんだかおもしろくなくなったという漠然とした印象を与えることになるわけですが、もちろん『HUNTER×HUNTER』はそれほど単純な作品ではない。

     バトル全体がスケールダウンしているにもかかわらず、スリリングな展開の連続は注目を惹きつづけるのです。じっさい、これは『ジャンプ』のバトル漫画でもちょっと例がない展開なのではないかと思います。

     たしかに『ジョジョの奇妙な冒険』などは、いわゆる「パワーのインフレ」に対する対策として、物語の舞台そのものをスケールダウンさせ、単純な「強さ」「弱さ」では表現し切れないバトルを描くという巧みな手段を採用しました。

     しかし、これは『ジョジョ』が「スタンドバトル」というアイディア勝負的なバトルを採用していたからこそできたこと。同じようにアイディア勝負的な側面を持ちつつも、やはりパワー勝負の側面が強い『HUNTER×HUNTER』では話が違います。

     『HUNTER×HUNTER』においてはやはり、より一般のバトル漫画に近い形で、主人公は成長しつづけ、強くなりつづけ、そのたびに最強の敵と出逢っているわけです。その作品で、一度拡大したスケールを縮小しているということは驚くべきものがあります。

     しかもそれによって何ら作品のおもしろさが損なわれていないとは、まさに驚異的なストーリーテリングというしかありません。だから、物語のこの時点では「ああ、こういうふうに無理に作品世界をスケールアップさせつづけることなく、冒険と駆け引きの物語を続けていくのかな」と思わせました。

     
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