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荒川弘『銀の匙』がいま凄いことになっている。主人公である八軒の友人、駒場が実家の事情により物語から退場してしまったのだ。この先、ふたたび戻ってくることがあるのかわからないが、どこまでも現実的な事情が主人公に立ちふさがる少年漫画としては異色の展開だ。
八軒がそのことで相談に行くと、多くのひとが「こればかりはどうしようもない」という。じっさい、そうだろう。「お金がない」ということはだれもが直面する可能性があるリアルな問題であるだけに、安易な解決が許されないものがある。
もちろん、漫画的でトリッキーな手段でお金を稼ぎだす作品はいくらでもあるが、この漫画はそういう手法を採らないだろう。いままで積みあげてきたリアリティを台無しにしてしまうからである。
ひょっとしたらシビアに「どうしようもないことはどうしようもない」というまま物語が進んでいくのかとも思ったが、どうやら少なくとも解決への道は探られるようだ。作家がどこに落としどころを見つけ出すのか、期待して待ちたい。
ここで八軒が遭遇しているのは、社会的に「どうしようもないこと」と考えられがちな出来事である。じっさい、作中でも大人たちはそういうふうに言う。ふつう、少年漫画の主人公たちはその「どうしようもないこと」を勇気と情熱でもって切り抜けていくし、そこにカタルシスがあるのだが、ほんとうに「どうしようもないこと」はどうしようもないのだと思う。
そこをご都合主義的にかい潜ってしまったなら、漫画の世界そのものが途端に胡散臭く見えてくる。しかし、ほんとうは「どうしようもないこと」などめったにないことも事実である。「どうしようもないこと」は、どうしようもないとあきらめた瞬間に、ほんとうにどうしようもなくなっていくのだ。
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「大人」を演じることで、解けない問題を解かなくても良い問題にすることができる。
解かなくても良い問題を解こうとするなら、今までにいなかった新しい「大人」を演じなければならない。ということだろうか。