弱いなら弱いままで。
異色、異様、異形、異常――幾原邦彦、狂騒と耽美の最新作『ユリ熊嵐』を見ろ!
やあみんな、殺戮と学園と女の子のアニメのお時間だよ! というわけで、幾原邦彦監督の最新作『ユリ熊嵐』が始まりました。
ユリ熊嵐! タイトルからしてまともじゃねえスメルを放ちまくっているわけですが、まあ、アニメは見てみるまでわからないものです。
寡作ながらオリジナリティあふれる作風で知られる鬼才イクハラの最新作ということで、放送前から一部で熱烈な注目は集まっていたわけですが、じっさい放送されたものがどうだったかというと――うん、やってくれたね!
凄い、凄い、凄すぎる。これぞまさにわけがわからないよアニメ! 平行して放送しているほかの傑作駄作がみんなまとめて凡庸に思えて来る異形の設定、異色の演出、まあとにかく凄いとしかいいようがありません。
具体的にどこが凄いのかというと、えーと、どこだろうね。正直よくわからないというか、何がどうして面白いのか、いやほんとうに面白いかすらさっぱりわからないのだが、とにかく凄いことは違いない。クマショーック!
というわけで、衝撃的な作品ではありました。まだ見ていない、録画もし忘れたという方は、近日中にニコニコでも放送されるので、ぜひ、ぜひぜひ見てみてください。ちょっとほかに類例のないイクハラワールドが味わえます。うん、頭おかしい。
それはまあ、『少女革命ウテナ』を初めて見た時にはこれ以上のショックがあったかもしれない。『輪るピングドラム』の言語センスはもっととんがっていたかもしれない。
そういう意味では本作が特別新しいとはいえないかもしれない。いつものイクハラアニメ、イクハラワールド、そういって済ませることもまあ不可能ではないだろう。
しかし、現実にそこにある映像のインパクトは、ありとあらゆる小賢しい理屈を吹き飛ばす! 何なんだよこれは! 新しいとか古いという以前に、独創的すぎてほかの作品と比べることすらできない。まさに幾原邦彦独創の世界。
「ユリ」と「熊」と「(透明な)嵐」が三すくみで関わりあう話になりそうなことはわかるのだが、逆にいうとそれ以外は何ひとつわからない。
並の監督なら説明に何話かかけそうなめちゃくちゃ設定をAパートだけで終わらせて、Bパートではその設定が崩れていくさまを描く、このパワフルなスピード感! 視聴者がついていける限界寸前のラインだろう。
良くも悪くもマイルドなエンターテインメントに収束しつつある最近のテレビアニメではめったに見られない代物だ。いや、ほんと、何を食べているとこういうことを思いつくんでしょうね。思いついたとして、どうやってスタッフにアイディアを伝えているのであろうか。
とにかくひとついえることは、この異才に常識などというつまらない言葉は通用しないということだ。この人は自分がやりたいようにしかやらないのだ。
くり返すが、耽美なようでもあり、お笑い以外の何ものでもないようにも思えるその独自な世界は、ある意味で見なれたものだということもできるだろう。
庵野秀明は『エヴァ』テレビシリーズから『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』へ移り変わるその間に変わったように思える。それに比べれば、幾原邦彦はある意味で何も変わっていないかもしれない。
奇妙奇天烈でわけがわからない、アニメーションならではの荒唐無稽な世界――ひとことではいえない暗黒と残酷と耽美とギャグが入り交ざった空気。あいかわらずの幾原だ。そういうことはできる。
でも、これはやっぱり凄すぎだろ。エンターテインメントとして面白いのかどうかははっきりいえないけれど、何このアヴァンギャルド。娯楽作品としてギリギリのところを遊泳するぼくたちのイクハラが還って来たのだ。素晴らしい。
まあ、趣味が合わないという人はたくさんいるだろうけれど、ぼくは大好き。この残酷さ、このエロティシズム。
きゃりーぱみゅぱみゅも裸足で逃げ出すというか、狂気と前衛がいい感じにミックスされた世界は、たしかに十年一日で変わっていないかもしれないが、それにしてもちょっとだれにも真似できない作風である。そこらへんのエロ同人誌が束になってもこのエロさは出せないだろうなあと思う。
断絶のコートのジャッジメント――ライフ・セクシー、ライフ・クール、ライフ・ビューティーって何なんだよ。意味がわからねえよ。いいかげんにしろ!
いや、ほんと、いち視聴者としてはひたすらそのとんがりまくった才覚に翻弄されるのみ。どこからこういう発想が出て来るのか、天才とは恐ろしいものです。
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