ポジティブ心理学が1冊でわかる本

 ポジティブ心理学をご存知だろうか。

 「なんでもポジティブに考えればうまくいく」という思想のこと「ではない」。

 それは、鬱や病といった人生のネガティヴな側面を注視する既存の心理学と異なり、幸福や活力といったポジティヴな側面に目を向けようとする心理学のことである。

 この新しい学問が誕生したのは1990年代のことで、爾来、いろいろな成果を積み重ね、いまでは心理学の大きな支柱のひとつとみなされるに至っている、らしい。

 「らしい」と書くのはぼくもくわしい知識を持っていないからだが、興味は大いにあるので、イローナ・ボニウェル『ポジティブ心理学が1冊でわかる本』を読んでみた。

 タイトル通り、実に多岐にわたるテーマが語られている本なのだが、個人的に興味深かったのは、そのなかの第13章「ポジティブ心理学を暮らしに活かすには」の結論だった。

 そこにはこう書かれていたのである。「自分自身についてよく考え、得意なことをし、人生のよい面に意識を向け、他者に親切にしましょう」。

 著者自身が書いているように、「あまりにも単純すぎるようにみえ」る結論なのだが、結局、これしかないらしい。

 幸せになるためには、もっとポジティブになることが大切だという結論なのだ。

 しかし、どうだろう、この種の理屈を鼻で笑ってしまう人は少なくないのではないだろうか。

 ポジティブ・シンキングをすれば幸せになれるとは、ようするにひとに脳天気であれといっているようにも思える。

 そんなふうにして幸福になるくらいならいっそ不幸であるほうがいい、そういうふうに思う人は大勢いるのではと思うのだ。

 ぼくたち、と大きな主語を使っていいのかどうかわからないが、少なくともぼくのような人間は、口先では幸せになりたい、幸せになりたいといいながら、しかし、幸せという状態をどこか軽んじているところがある。

 なんといっても、人間の苦悩の底知れない複雑さにくらべて、幸福はいかにも単純ではないだろうか。

 それはまたどことなく軽薄であり、深刻さを欠いているように思える。

 四六時中機嫌がよく、なんの悩みもないように見える人物は、友人としては最適だが、しかし、あまり強く尊敬する気にはなれない。

 何かしらの悩みと苦しみこそがひとを複雑な存在にする――そうではないだろうか。

 しかし、これは一面的な見方である。最近、ぼくはそう思うようになった。

 幸せが単純だと、いったいだれが決めたのだろう?

 まさに