エロマンガ先生 (5) 和泉紗霧の初登校 (電撃文庫)

 伏見つかさ『エロマンガ先生』の最新刊を読みました。

 ベストセラーになった代表作『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』に続く新シリーズであるわけですが、前作に負けず劣らず面白いです。

 始まったときは「ちょっと守りに入っているんじゃないの?」などと思っていたのですが、なかなかどうして、ここまで堅実に続けられると降参するしかない。

 圧倒的な完成度に全面降伏です。

 『エロマンガ先生』の主人公は高校生ライトノベル作家。

 そこそこ才能があり面白いものを書いてはいるものの、あまりヒット作には恵まれていないという状況。

 かれには義理の妹がひとりいるのだけれど、自室にひきこもって出てこない。

 ある日、ささいな偶然から、その妹が自作に絵を付けてくれているイラストレーター「エロマンガ先生」であることがあきらかとなるのだが――と話は進みます。

 人気作家やらイラストレーターがことごとく中高生であるあたり、荒唐無稽といえばそうですが、ライトノベルとしては十分に「あり」な設定でしょう。

 偶然にも、というか必然なのかもしれませんが、平坂読が同時期にやはりライトノベル作家を主人公にした『妹さえいればいい』を書いています。

 ぼくはどちらも好きなのですが、じっさい読み比べてみるとかなり作家性の違いを感じます。

 ネタがかぶったりしているから非常にわかりやすい。

 あえていうのなら、『妹さえいればいい』はわりに現実的な年齢の作家を主役に据え、徹底的にディティールに凝って見せているのに対し、『エロマンガ先生』は完全にファンタジーに走っている印象がある。

 いや、もちろん『妹さえいればいい』も非現実的な話ではあるのだけれど、そこにはひとさじの「毒」が垂らしてあって、奇妙にリアルに思えてくるのです。

 まあ、『エロマンガ先生』に毒がないわけでもないけれど、その毒は慎重に量が測られていて、決して一定のレベルは超えないよう調整されている、という感じを受ける。

 根本的に世界がひとに優しいというか、あまりひどいことが起こらないよう守られている世界なのだと思うのです。

 いや、物語の始まる前には交通事故で主人公の義母が亡くなっているので、何もかも幸福な世界、というわけではない。

 それなりに一定のリアリティに配慮が行われているのはたしかなのだけれど、それでも登場人物がみないい人で、深刻な裏切りがないという意味で、牧歌的な世界ということができると思います。

 それを指して、甘ったるいファンタジーに過ぎないという人はいるかもしれません。

 しかし、作者はこのファンタジーを成立させるためにどれほど繊細な努力をしていることか。

 それはなんというか、ほとんどジャック・フィニィあたりのファンタジー小説を思い起こさせるほどなのです。

 いや、ぼくもみんなが幸せで、みんなが互いに思い合っていて――というのは、やはりウソであるとは思うんですよね。

 でも、