ベイビーステップ(36) (講談社コミックス)

 勝木光『ベイビーステップ』を読み返しています。

 第1巻から始めて、いま、第20巻くらい。全日本ジュニアの全国大会が始まったあたりですね。

 あらためて読み返してみると色々気づくことも多いわけですが、今回特に思ったのは、作劇の方法論がほんとうに独特だな、ということ。

 通常のスポーツ漫画とストーリー展開の方程式が異なっている。非常にオリジナリティが高い。

 通常のスポーツ漫画の代表格として、たとえば『スラムダンク』を挙げたいと思いますが、『スラムダンク』と『ベイビーステップ』の作劇を比較してみると落差が露骨にはっきりしています。

 『ベイビーステップ』のほうが変わっているんですよ。

 いまさらいうまでもないことですが、『スラムダンク』の全体の構成は非常に美しく完成しています。

 各試合が過不足なく描き込まれ、日本最強の山王工業への勝利で終わるという流れ。

 主人公桜木花道は全体を通し一貫して成長していて、その頂点で物語そのものが完結します。

 なんて素晴らしい。

 しかし、逆をいうなら、あまりに美しくできているからこそ次の展開は予想しやすいということもいえるわけです。

 すべてが「物語的必然」に沿ってできあがっているわけで、たとえば湘北が突然無名の高校に負けてしまうなんてことは起こりえない。

 『スラムダンク』の展開は厳密な「漫画力学」にきれいに従っているということもできるでしょう。

 しかし、『ベイビーステップ』は違います。

 主人公であるエーちゃんがだれに勝ち、だれに負けるかが「物語的必然」で決まっていないように見える。

 もちろん、適当に決まっているはずはないのですが、エーちゃんの試合結果は「漫画力学」とはべつの理屈でもって決まっているように思えます。

 予想外のところで勝つこともあるし、負けることもありえる。

 なぜそこで勝ち、負けるのか、「そのほうが面白くなるから」という理屈では説明できない。

 読者から見れば非常に先が予測しにくい漫画といえます。

 まあ、読者の予想を先読みしてあえて外しにかかる漫画ならほかにいくらでもありますが、『ベイビーステップ』の作劇はそれとも違う。

 どういえばいいのか、「こうなれば面白いはず」という期待をかなりの程度、無視しているようなのです。

 典型的なのが