大友啓史監督、主演・神木隆之介さんで実写化される人気コミック『3月のライオン』。2017年に【前編】【後編】2部作での公開が決定しています。
「3月のライオン」は多くの女性から共感と絶大な支持を得ている人気漫画家・羽海野チカ先生の作品。2007年「ヤングアニマル」(白泉社)で連載が開始した本作は、将棋を描いたマンガながら大きな注目を集め、2011年に「第4回マンガ大賞2011 」大賞と「第35回講談社漫画賞」一般部門、2014年に「第18回手塚治虫文化賞・マンガ大賞」、そして2015年に「ダ・ヴィンチ BOOK OF THE YEAR 2015 (コミックランキング 1位)」を受賞するなど、数々の漫画賞を総なめにし、男女問わず幅広い世代から圧倒的な人気を獲得しています。
今回、筆者はこの『3月のライオン』の撮影現場に潜入。どうやってこの映画が出来上がるのか、一部を先行して見させていただきましたよ〜!
筆者が見させていただいたのは、とある2人の棋士による対局を神木隆之介さん演じる桐山が解説する場面。東京・文京区にある「椿山荘」には、テレビで観た事のある様なシーンが再現されていました。
撮影現場では、対局を見守る観客や将棋雑誌の記者までもがエキストラさんだったわけですが、記者のエキストラさんにヘアメイクさんが「将棋記者の方がこの場面だったら、忙しくてもっと髪の毛がボサボサのはず……」と物語さながらのこだわりを見せていました。
また、公開前なので写真には収められませんでしたが、対局のポスターも完全に映画仕様になっていて、細かな所へのこだわりをひしひしと感じました。
撮影中の忙しい合間をぬって、大友監督が質問に応えてくださりました!
Q:監督を引き受けた理由について。
大友監督:この企画はかなり前からいただいていたのですが、『るろうに剣心』シリーズが終わったタイミングで、自分の中でこれは面白いかもなと思いました。(これまでは)映画だと大画面で見るときに、アクションやガジェットなど何かプラスアルファの要素がいると思い、そこにとことんこだわってきましたが、シンプルに「そういったものに頼らないドラマがやりたい」と思ったんです。アクション勝負の『るろうに剣心』シリーズや『秘密 THE TOP SECRET』、『ミュージアム』のような作品は、物語や人間ドラマの構築以上に、アクションやガジェットなどに対する配慮と手間暇が、僕の性質上(笑)とんでもなくかかるので、この辺りでシンプルなドラマに還ってみたいなと。とりわけ、世の中の大きな出来事や社会性とはかけ離れた市井の人たちの話に取り組みたいと思ったんですね。引き受けるに当たっては他にも色々なことを考えましたが、とにかく多くの引き出しを要求される素材なので、自分のキャリアを考えるとタイミング的にも面白いかなと思いました。
将棋は勝負師の世界ですから、駆け引きやその世界ならではの独特のルールやマナーがある。一方で本作は家族の話でもあり、一人の男の子がどうやって自立していくかの青春物語でもある。幼くして孤児になった主人公の桐山零は、好きでもない将棋と向き合い、幸田家という他者の家で必死で生きていかざるを得ない。まるで僕らが夢中になっ、昭和の劇画世界を彷彿させるような、根っこの深い疑似家族の愛憎を孕んだ話でもある。そういったことを複雑な要素を堂々と描けるのは、とても魅力的でした。一方で、川本家という朝ドラみたいなテイストの“かしましい”部分もあって、一本の映画の中にいろいろな要素があります。なので、(それぞれのシーンの)立ち上げが、毎回毎回違うテイストのドラマを撮っているようで、とてもフレッシュで(笑)。いま将棋シーンを撮影していてこれから川本家のシーンになりますが、別のドラマを立ち上げる気分です。
Q:撮影について。
大友監督:初めは色々工夫したほうがいいかなと思っていましたが、小さな将棋盤を挟んで、大の男が人生背負って向き合うこと自体が潔くて面白いなと思い、その潔さを素直に撮ろうという気になってきて。結局余計なことをしなくていいかなと思ったんです(笑)。棋士たちの話ですから、物語のクライマックスは当然名人戦などのような闘いになっていきますが、漠然と盤上を撮っていても、将棋を知らない人にとっては起承転結やクライマックスはもちろん勝敗の行方自体がさっぱり分からない。どちらが有利でどちらが不利かを、語り口を規定して「説明する」のではなく、棋士たちの感情や表情をしっかり押さえていけば、それが自然と現れてくる形にできないかなと。そのため、俳優たちには一手一手の意味をしっかり理解してもらい、それがどんな局面に繋がっていくのか、それに対してどんな感情を棋士として持たなければいけないのかをしっかり理解して、撮影に臨んでもらいました。ま、ぶっちゃけニュートラルに撮るだけ撮って、後でじっくり考えようかなと(笑)。
Q:二部作とした理由。
大友監督:一人一人の人物が背負っているものが重いので、簡単にいうと1話で収まらない、それ以外の理由はないんです。普通でいくと、連ドラにできる話ですよね。登場するキャラクターも多彩で魅力的だし、その豊かさの背景が深い深いドラマなので、丁寧に描こうとすると易々と2クール分ぐらいになってしまう。そう考えると、映画2本分にはめ込むのがいかに大変かわかってもらえると思います。
Q:原作が未だ終わってないことについて。
大友監督:脚本の段階で映画のスタンスである決着点を見つけないといけないので、羽海野さんと話をして納得していただきながら作り上げました。
Q:神木さんを主役に抜擢した理由について。
大友監督:(桐山零の)役が神木くんのキャリアとハマるのではと思いました。プロフェッショナルになるとはどういうことか?に、僕はそもそも興味があります。零くんは中学生の頃からプロ棋士で、一方の神木くんは中学生に入る前から子役俳優としてプロでやってるわけで。成長していく過程で、挫折してしまう子役もたくさんいます。でも彼の場合は、いい感じでキャリアを積み、いい仕事やいいスタッフに出会い、素晴らしい俳優になって活躍している。普通は思春期になってどういう道に進むかを選択しますが、自分の意思で決める前に、零くんは将棋のプロとして「それしかない道」を選択します。まるで俳優が天職であるかのように見える神木くんにも、そんな零君と重なるところがある。
『るろうに剣心』のとき僕は、「彼はフィクションの申し子だ」と痛感しました。呼吸をするように芝居をしていて、演じることで救われたり、そこに何かを託してきたんじゃないかと思う瞬間があります。そういう彼が(零を)演じて(役と)重なり合うことで、「フィクションの申し子」の実の顔がチラッと覗かないかなと思っています。ルックスが近いということだけではなく、彼自身と桐山零くんのプロフィールとが重なるので、ものすごい強靭な芝居が撮れる予感がしている。そういう意味では、『桐島、部活やめるってよ』以上のハマリ役になるのではないでしょうか。彼もストレスなく演じてくれていると思いますしね。熱心に将棋を練習してるし。棋士の先生たちが、「プロ棋士と比べても遜色ない」と驚くくらい、打つ手や佇まいが自然な形で身についている。相変わらず神木隆之介は面白くて、凄くて、刺激的ですね。おっと、あまり褒めて甘やかしちゃいけませんね(笑)。
2017年【前編】3月18日(土)【後編】4月22日(土) 2部作全国ロードショー!
http://3lion-movie.com