2010/08/08
1:45 pm
先週木曜日、中野ザ・ポケットで「Good+Will...中野支店」を観て来た。
渡航輝くん、瀬戸祐介くんの出演だ。
この芝居、僕がいつも舞台上にあってほしいと願う熱い空気、
題材の社会性が、非常に分かりやすく存在していて、とてもやる意味があると思った。
瀬戸くんは、出ずっぱりでも滑らかな台詞、立ち居振る舞いの若々しさ、好感が持てた。
でも、お芝居そのものはとりとめのない平板なものだった。
どうしてこうなってしまうのだろう。普通は、脚本を、書いた本人以外が客観の目で読み、
何が書かれていて何が書かれていないのか、
結果、書くのは作家だけど、プロデューサーも自分たちは何を書きたいのか、を話し合う。
だけど、たぶんそれがなされていなかったのだろう、脚本としてはやっつけ仕事の部類に入る。
扱っている事柄は、「グッドウィル」事件だ。
派遣会社のグッドウィルが多くのフリーターたちにとって、いかに彼らの普通の生活への希望だったか、
いかにその意味で頼りになる会社だったか、
そんな会社がどんな風にピンはねし、法律に違反して潰れていったか、
潰れたことによってそこに働いていた若者たちが行き場をなくし途方に暮れたか、が描かれている。
この事件を演劇で取り上げる視点、とても優れていいと思う。
事件から2年、今が取り上げ時だろう。
一緒に観に行った人は、自分もグッドウィルに登録して働いていた、
中野支店のエピソードは、うんうん、あるある、あんな話あった、
自分もデータ整備費返してもらった、と納得顔だった。
僕も昨年の夏、この会社の社長の持っていた軽井沢の大邸宅に泊ったことがあり、
屋内プール・ボーリング場・サウナなど何でも装備した豪奢そのものが
こうした悪事の結果だったのかと腑に落ちた。
但し、この事件を誰の、どういう視点で取り上げるか、が定まっていない。
働いている人たちがフリーターから定着生活に移行する生活設計物語、
働く人たちの仲間意識の物語、
会社が悪いという視点、このような視点が右往左往する。
中野の支店長がエピローグで叫ぶ「バーカ、バーカ、バカバカバカ、会社の馬鹿」という言葉が
だれに向かって叫ばれたのか、支店長がなんで叫ぶ心境に陥ったか、
会社側と働いている雇用人との中継役の悲哀,
こうしたことが何も描かれていなくてただ最後に取ってつけたように、
会社が悪い、これだけの人間から働く場所を奪ってしまうのは許せない、
という観念論で、会社に向かって「バカ」と叫ばせる。
ドラマの構成を無視した安易な、とってつけたような終わり方をした。
物語の大部分を占める働く仲間の交流は舞台上でも気持ちよく温かく出きているのに、
中心線は何なのか、をラストのセリフが理解不能にした。
脚本は最後にどこに到達するか、を決めて書くものだ。
頭から調子よく書いていって、お終いをつけられないからと言って、
最後の場面で、このドラマで言いたかったことを台詞にしてただ叫ばせるというのは、芝居が安い。
最後に「会社のバカ」と叫ばせると決めて書いて行ったら、
支店長のキャラクターも台詞も、起こる事件ももっと違ったものになっただろう。
惜しい芝居だ。
渡くん、プロデューサーとしての成功の1歩手前の落とし穴、だと思う。
君の熱い思いは十分舞台にあった。
頑張ってほしい、これからが楽しみだ。
このブログへの投稿コメント
2010/08/26
秋村 はじめまして、こんばんわ! 私はテニミュから舞台にハマリ、ディアミュや、マグダラなど片岡さんが携わられた作品から多くの元気を貰っています。 地方在住なので、あまり沢山の作品が観れる訳ではないのですがお芝居ってとても楽しいです。 「Good+Will...中野支店」も観劇させて頂きました。 片岡さんの感想を読んで、人の感想というのは自分と視点が随分違うのだなあと感じたりしています。 そこもお芝居の面白い所ですね。 支店長の最後の台詞。 最後ギリギリまで仲間の為に頑張った、あの和やかな空間を維持する事が出来なかった悔しさが、日常と地続きであるからこそ胸に響きました。 なんというか、落差に、人間の多面性の愛おしさを感じたと言うか。 感じた事を言葉にするのはとても難しいですね。 舞台に携わる方々には、いつも胸の熱くなる思いを頂いていてとても感謝です。 これからも素敵な舞台を楽しみにしていますね! それでは。
片岡義朗 秋村さん コメントありがとう。「テニミュ」から始まっていろいろな舞台をご覧頂いていること、こちらもありがとうです。 感想は観る人によって違うことは普通のことだろうと思います。 僕は、この舞台、このようにすればもっと良くなっただろうにという、プロデューサーの視点で書いているつもりです。 この芝居では、僕は、たぶん好みなのかもしれませんが、最後のセリフは言わないでおくことが、芝居の品なのだ、と思います。 言わなくても、十分会社がバカだ、ということは伝わっています。静かに支店長が去るだけで、あの舞台素敵に終われていると思うのです。 そうすれば、中心がなくてもそれぞれの登場人物にそれぞれ思い入れをする、という群像劇として十分に良い芝居だった、と感じるのです。 これからは、ニコミュを作り、地方の方に東京に出かけて来れない時でも、舞台の雰囲気を伝えられるような、そういう舞台を作りたいと思っています。12月22日~「クリスマスキャロル」ぜひ観ていただきたいです。
2010/08/28
秋村 わ、返信ありがとうございます。コメント拝見して、なんとなくですが、捉えるテーマの違いによって受ける印象が変わるのかなと思いました。きっと私は人の感情に一番重きを置いて芝居を観ているのだと思います。伝わる熱を、出来る限り吸収したいのかもしれません。ニコミュはとても画期的な試みですね!もちろんお芝居は実際に肌で感じる事が一番楽しめると思いますが、私を含め遠方などの観劇に厳しい環境にいる人間には敷居がぐっと低くなるものだと思います。動画からでも伝わる熱を、とても期待しております。そこからまた芝居の素晴らしさが沢山広まっていけば素敵です。クリスマスキャロル、楽しみにしていますね。それでは、丁寧な返信をどうもありがとうございました。