「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
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 今回は、2019年10月8日(火)配信その2をお届けします。

 次回は、2019年11月26日(火)20:00の配信です。

 お楽しみに!

2019/10/08配信のハイライト(その2)

  • 『ジョーカー』の気になったところと日本から見た「アメリカの豊かさ」
  • ビジュアルを頑張った『HELLO WORLD』と世界をスキャンするための壁
  • ギグエコノミーからわかる「レギュレーションの意味」と「法とアーキテクチャ」

『ジョーカー』の気になったところと日本から見た「アメリカの豊かさ」

【00:57:44】

山路:映画『ジョーカー』、弾さんが昨日メッセージ送って来て『ジョーカー』できれば見ておいてと。私も見ようと思ってたんで行ってきたんですけど。これ凄いですね。

小飼:いちおうちょっと聞いてみましょうか。『ジョーカー』を見た、あるいは見る予定という方、ノシして、もし『ダークナイト』をまだ見てない人は『ジョーカー』見てからにしてください。

山路:あ? そう?

小飼:時系列的に。

山路:ああ、なるほどね。

小飼:はいはい。ちょっと『スター・ウォーズ』みたいになってますね。4、5、6のほうが1、2、3よりも先に出たという。

山路:『バットマン』って何回かリブートとかしてたりするから、直接の話がピタッと繋がっているわけではないんだけど、話的には上手く、結果的に繋がってますよね。

小飼:だけれども、まあ21世紀の『バットマン』に直接繋がるのはこっち。

山路:いわゆる『ダークナイト』3部作というのかな。

小飼:そうそう。20世紀のやつっていうのは、それに比べると本当に何と言えばいいのかな、おこちゃま向けコミック。

山路:1作目とかジャック・ニコルソンとか出てますが。

小飼:あのね、でもやっぱりジャック・ニコルソンの無駄遣いとまでは言わないけども。

山路:確かにな。

小飼:やっぱり、じゃあどっちが映画史に残るって言ったら21世紀版のほうですよね。

山路:昨日改めて『ダークナイト』見直したんですけども。

小飼:いや、でも見たくなるよね。でも『ジョーカー』を見た後、立て続けに『ダークナイト』見たらかなり辛くなるよね。

山路:なんか思想的に汚染されしまう感じが相当、この『ジョーカー』ってけっこう、映画の『ジョーカー』アメリカでも非常にこう作品の評価とは別に映画館で厳戒態勢が敷かれたりとか、映画館自体が子供にはもう見せないで下さい、絶対に見せないで下さいと言っている。

小飼:21世紀の3部作の、3作目の『ダークナイト・ライジング』の時に映画館での乱射事件があったじゃないですか。

山路:はいはい。ただこれ自分が見て思ったんですけど、そうですね、じゃあ簡単にストーリー言っておいたほうがいいのかな。これ、本当にストーリー自体は非常にじつはシンプルなんですよね。

小飼:うんというのか、もうネタバレというよりも。

山路:予告編である意味、全部語られているといえば語られているんですよね。

小飼:うんうん。

山路:一番有名な悪役のジョーカーが、一体どういう生い立ちで、どんなふうにその悪のカリスマみたいになってしまったかっていう。

小飼:そう、アーサー君が母ちゃんを介護して、心優しいピエロのアーサー君がいかにしてジョーカーになるのかというそういうお話ですけど。

山路:本当にもう話としては、それだけとも言える話なんだけれども。

山路:いちおうじゃあこのネタバレ中……R-15指定じゃないと確かになんか描けないというのは暴力シーンが酷いとかっていうことではないんですよね。

小飼:ない。

山路:暴力シーンの酷さ自体は他の映画のほうが、もっとアクション映画だったりとかそんなんのほうが遥かに酷かったりする。むしろそのそういう暴力のシーンはあるんだけど、決してそれがメインではないんだけど、思想的にヤバい感じになる、非常にこうジョーカーの一人称に観客もついなってしまうような、そういう映画の作り方をしてて。

小飼:ただ凄い上手いなと思ったのは、僕の最初の感想というのは『ダークナイト』ほどじゃないよね。

山路:そうですか。

小飼:うん、だからホアキン・フェニックスのジョーカー素晴らしかったけれども、ホアキン・フェニックスが道化師で、師は師匠の師で、道化師だとしたら、ヒース・レジャーのジョーカーはもう道化神だなと。

山路:アハハ。神のほうの。

小飼:なんだけども、これ続き物として見た場合というのは、ジョーカーの強さっていうのは、凄いピッタリと来るんですよ。だから自然とアーサーだったジョーカーが完全体になった頃というのが『ダークナイト』の頃で、その前のお話だっていうのが。

山路:ああ、なるほどね。

小飼:まだ人間の面影がある人間といっちゃああれだけども、残ってた頃だったんですよ。だからそうやって考えると、ヒース・レジャー以上のジョーカーを演じちゃったらおかしいよね、順番逆だよね。

山路:パワーダウンしちゃうことになっちゃうからっていう。うんうん。

小飼:だからジョーカー耄碌したなっていうことになっちゃうので。シリーズとしてのバランス、これでよく取れたなっていう。

山路:うんうん。このジョーカーの主張っていうのが、けっこうその単純な悪役のつけたセリフというよりも、刺さってくるセリフ、首尾一貫してるんですよね。『ジョーカー』で言って語っていることと『ダークナイト』で言っていることっていうのが、ちょうど。

小飼:うん、首尾一貫してないところでも、首尾一貫してるよね。あくまで誰をどう弾くというのは、アトランダムなので。だから皆殺しする人ではないよね。

山路:これやっぱり重要なセリフっていうのは『ダークナイト』に出て来る「The thing about chaos」なのかなと。
 なんかカオス、「社会をカオスにするのは何だと思う?」っていうそのジョーカーの問いかけというのが、その『ジョーカー』でも『ダークナイト』でもけっこうでかいテーマになっているのかなと。

小飼:いや、だけれども主義主張はないわけです。

山路:ジョーカーは。

小飼:本人が。

山路:それに共感したまわりが、寄ってくるっていう?

小飼:そうそう。だから『ジョーカー』何が怖いかっていったら、本人以上に狂気が伝染するところが怖いんですよね。

山路:映画のジョーカーってまさに今弾さんが言ったように、怖いなと思ったのが『ジョーカー』の映画って、今回の今上映中の映画って、かなり暗い話なんですけど、見た後になんかカタルシスがあるんですよね。そのカタルシスを感じる自分が怖いなみたいな、そういうところがありますよね。「狂気、何するかわからない的な」(コメント)そうなんですよね。これはちょっと見ておく、これたぶんアカデミー賞とりますよね。

小飼:まぁとるだろうね。

山路:少なくとも主演男優賞は確実だなと思うし、これアメリカとかで非常に劇場とか警戒していることに関して、どう思います?

小飼:いちおう『ジョーカー』というのが『バッドマン』という話舞台というのは、ゴッサムというあくまでも架空の都市です。ニューヨークがモデルだとされているけれども、あくまで架空の都市なんですけれども、じゃあどの国にあるかっていったらこれは、あのねU.S.A.以外にはありえないというのがわかる映画でもありますよね。

山路:USAとは言ってないんでしたっけ?

小飼:ぜんぜん言ってないんだけども、これまさにネタバレのところでいうと、ジョーカーの最初の殺人というのが、何でなされるかっていうと、同僚が普通にくれた拳銃なんですね。
 普通に拳銃をくれるというね、それこそクシャミをしたらクリネックスを出すようなそういう気軽な感じで、拳銃をあげてしまうという、これは他の国ではちょっと成り立たないだろうという。
 最初の下馬評見た時には、これ誰でもプリキュアになれる感覚で、誰もがジョーカーに慣れるっていう映画って聞いて、そうか、観客にも狂気が伝染するタイプの映画かなと思って見たんですけども、まあそうでもないというのか、確かにジョーカーになり得るんだけども、ジョーカーにやっぱり成り切るためには、ホアキン・フェニックスくらいの才能がいるというのも、だから誰でもジョーカーになれるわけではないという、だからそこのバランスも凄い絶妙だなと。

山路:ああ、なるほどね。闇雲に見た人がそういうテロを起こすっていうことではなくて、ちゃんと選ばれた人っていう。

小飼:そう、テロリズムを喚起する映画ではないですよね。そこはルワンダのラジオ局とはちょっと違いますよね。

山路:ちょっと1、2年前かな、流行った言葉でインセルってあるじゃないですか。

小飼:はいはい。

山路:Involuntary celibate、非自発的禁欲を強いられている人々みたいな、要は非モテって言っちゃっていいのかな。

小飼:もうキモくて、金のないオッサンという。

山路:そうそう、彼らが自分達のことをそういうふうに言って、ある意味そういう主義者だみたいなことを言って、銃乱射事件を起こしたりとか、そういうのが話題になってたけど、彼らとかなんかに凄い、彼らのツボにハマる映画かなと思っちゃったんですけど、そんなことないですか?

小飼:うん、だからツボにうんとハマりすぎて、本当に現実を動かす、現実に本当に動かすピエロの仮面を被った人たちが、現実に乱射事件を起こすタイプの映画かと思ったけれども、その辺のバランスは絶妙だったなと。

山路:ああそうか、インセルの人が見てもそこまではならないんじゃないか。

小飼:だから実際のインセルの皆さんの、どれくらいがホアキン・フェニックスばりに。

山路:演じられるのかっていうことですよね。

小飼:そうそう、自分をジョーカーに仕立てあげられるのかっていうことですよ。だからやっぱり、お前もホアキン・フェニックスになれるかっていったら、ほとんどの人はなれない筈です。そもそもあそこまで身体を絞ってない、ほとんどの人は。

山路:アハハ、なるほどね。

小飼:ホアキン・フェニックスとあとデ・ニーロ。ロバート・デ・ニーロの、だからこの2人の演技だけでも、役者好きの人というのは。

山路:うんうん。堪能できますよね。

小飼:堪能できるんですけど、だからこそ気になったのが、原作の荒っぽいところがそのままだったところ。

山路:荒っぽいというのはつまり、よく出来てないという意味の荒っぽいという。

小飼:よく出来てない、そう雑なところ。現代日本語でいうと雑なところ。

山路:どの辺がですか?

小飼:何がが雑かと言ったら、バットマンの話を皆知ってるのであれば、じゃあなんでブルース・ウェインがバットマンになったのかっていったら、大金持ちの両親が。

山路:殺されちゃって。

小飼:そうそう殺されちゃって、しかも街の観劇の後に、劇場を出てきたところを刺されて殺されちゃって、全権株をまだ子供のうちに相続したからっていうことになっているんですけれども、超大金持ちですよ、ウェインは。その頃から超有名な執事であるアルフレッドがそばにいるわけですよ。なのになんで殺された時にはボディガードがいないの?

山路:まあね。

小飼:凄い雑なの、だから、あんなあっさり殺される訳ないんだがなと。
 それこそジョーカー、本物のジョーカーが爆発するくらいでないと、そう簡単に殺されねえんじゃねえと。でも実際にはその辺のモブに殺されている訳ですよね。

山路:まあな、そこはまあ確かに仰る通りではあるんだが、そこんところにちょっと尺を割けなかったのかなと、事情のほうをなんとなく慮っちゃったりしましたけどね、私は。

小飼:でもジョーカーに関して一番の注意喚起というのは、Batmanは出てきませんというのは。

山路:ああバットマンね。

小飼:はい、あるんですけども、ブルース・ウェインは出てくるんですよ。これもネタバレっちゃあネタバレか。

山路:それは大丈夫じゃないかな。ブルース・ウェインはいちおう出てはきますよね。

小飼:そう、じつは裏ではジョーカー誕生の物語ではあるんですけども、ブルース・ウェインがBatmanになるきっかけが、ちゃんと映像として出て来る物語でもある。

山路:そういう『バットマン』シリーズとして見た場合でも、カチッとハマる押さえるべきポイントというのは、かなり押さえてて良かったなと思いますけどね。

小飼:いや、だからアルフレッド。

山路:あれアルフレッドなのかな、本当に。

小飼:いちおうあちこち調べてると、あれがアルフレッドだったというふうに出てます。

山路:じゃあそうなのか。

小飼:あのショボいおっさんがアルフレッドなのかという、そこはなんか一番あれだよな。

山路:納得いかんところはあるけどな。あとこの『ジョーカー』でやっぱりズキッと来たのが、ちょっと同じ階に住む可愛い。

小飼:はいはい。

山路:黒人女性いるじゃないですか。あの辺りの話とかっていうのは相当。

小飼:それもある。たぶんね日本の視聴者のかなりの割合が、アーサー恵まれてるじゃんって思うよ。

山路:思いますよね、その後の、ああこれはちょっとネタバレになるから言わんとこうかな。

小飼:実際にアーサーの住まいというのは薄汚れてますし、そこに要介護の母親と一緒に住んでるんで、悲惨に見える一方で、たぶん日本の基準からいくと、そんな悪い部屋じゃないんじゃねっていうふうに言えると思うんで、少なくともレオパレスよりは立派な部屋ですよね。これが一番のネタバレだったりして(笑)。
 デジタルデバイス以前の時代ではあるんですけども、留守電もあったでしょう。