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「実は国生さゆりもいた!」
今や一部で伝説となったこのフレーズは『くりぃむナントカ』(テレビ朝日)の「ビンカン選手権in箱根」で飛び出したものだ。
2007年4月に放送されたこの番組は多くの視聴者を驚かせた。
小説などには「叙述トリック」という手法が存在する。小説という言葉だけの表現だからこそ生まれる錯覚などを利用したトリックのことである。
「ビンカン選手権in箱根」はまさにテレビであることを利用した見事な「叙述トリック」だった。
「ビ ンカン選手権」は様々な場所にロケに行き、その場所にあるビンカンポイント(間違い)を探し、獲得した得点を競うというもの。ビンカンポイントは「司会者 がタモリの扮装をしている」という簡単なものから、東京ムツゴロウ動物王国での出題で「ここはムツゴロウ王国ではない」という超難解なものまで様々。得点 はもちろん難易度に応じてマイナスポイントから100ポイントを超える高得点まで設定されている。
「箱根」の回ではそのビンカンポイントのひとつがまさかの「実は国生さゆりもいた!」だったのだ。
その答えが発表されても視聴者はもちろん回答者である出演者もピンと来ない。
なぜなら、国生さゆりはずっと出演者たちと一緒に回答者としてロケに参加していたのだ。
そして番組は編集を駆使して国生さゆりの存在を画面に写らないようにしていた。
その説明を受けて回答者はようやくその違和感にハッと気付く。
ベテランである国生さゆりの席がなぜか端っこであったこと、(カットしてもいいような)的はずれな回答を繰り返していたこと、番組に積極的に参加していないようなやる気のないと思われるような言動だったこと……。
そして視聴者も自分の記憶と照らしあわせてハタと思い至る。
席 がひとつ余分だったり、出演者以外の笑い声が聞こえたり、その背中が見切れていたり、ビンカンポイントがいつの間にか開いてあったり……。でもそうした違 和感は、ロケ番組を見ていればよくあることだ。テレビをよく見ていれば見ているほど、「編集上の都合かな」というふうに、気にならないものだった。
出演者も視聴者も気持ちいいくらい鮮やかにダマサれたのだ。そしてこれは最高のメディアリテラシーを育む番組でもあった。
『く りぃむナントカ』はその後ゴールデンに昇格し失敗。レギュラー番組としての『ナントカ』は終わり、改編期における特別番組として度々放送されている。しか し、同番組の看板企画である「ビンカン選手権」は行われることはなく、『ナントカ』らしいバカバカしい企画が特番感皆無で行われていた。それはもちろん楽 しいものだったが「ビンカン選手権」を待望する声は依然として多かった。
そして遂に2012年9月。4年ぶりに「ビンカン選手権」が開催された。
回答者はくりぃむしちゅーの上田晋也に加えて常連である土田晃之、次長課長。そして『くりぃむクイズ ミラクル9』などで“天然おバカ枠”で活躍しているAKB48の大家志津香が抜擢された。
番組は4年ぶりとは思えないほど常連達によって当時の「ビンカン選手権」の楽しげな空気がそのまま再現された。しかし、それにアクセントを加えるようにその天然っぷりでかき回したのが、抜擢された大家だった。
まず最初のステージは屋形船。
司 会の有田と前田アナが上田の扮装をしていたり、「ビンカンオールスターズ」のゆうたろうが銃口を構えて狙っていたり、分かりやすいビンカンポイントは1度 しか回答権がないためスルーされ、屋形船の外の橋の上に誰かがいることに気付いた面々が「誰だ?」と目を凝らす中、「キャー」と大家が悲鳴。大家はたまた ま足を伸ばした先に畳の下に顔だけだして隠れていた大久保佳代子を踏んでしまったのだ。大家は奇跡的に「畳の下に大久保さんがいる」というビンカンポイン ト10Pを獲得した。
続く舞台はスポーツジム。
そこで運動をしている面々の中に明らかに見覚えのある顔。そう、あの「金メダルをなくした」ことで有名なレスリングの小林孝至だ。
も ちろん男性回答者陣はそれに気付いていたが、低得点とみてスルー。しかし、大家はその隣で運動する女性を凝視。「見たことがあるんです、この方……。ス ポーツ選手の方、シンクロの選手!」と。そのおバカ発言に対し「そうじゃねえ人(小林)いるじゃん」と土田がツッコむとおり有田は大家に「ドンカン!(不 正解)」を宣告する。
しかし、しばらくすると次長課長の河本は「とんでもないこと」に気付く。実は運動をしている著名人は小林だけではなかったのだ。なんと「運動している全員が元メダリスト」だった。先の大家はおバカ発言でもなんでもなく、限りなく正解に近いニアミスだったのだ。
最後は水族館。
そこで大家は「ビンカン選手権」特有の大オチのビンカンポイントを狙って「そもそもビンカン選手権のオンエアなどない! 全部スタッフも偽物。カメラも回ってない」と回答。さすがにそれはドンカン。
が、正解の中に「実は最初からカメラの1台は回っていなかった」という100Pのビンカンポイントがあったのだ。またもある意味でニアミス!
各ステージで天然特有のおバカ発言がまさかの展開でミラクルを起こし続ける大家。
『ミラクル9』で培われた力はホンモノなんだな、やっぱり“持っている”タレントは“持っている”もんなんだな、と視聴者も回答者も思い始めたところでまさかの回答が明かされるのだ。
それは「実は最初から大家は正解を全部知っていた」。
大家が起こしたミラクルはすべて台本通りだったのだ!
フェイクとドキュメントとの狭間で揺れ動く極上のエンターテイメント。
またも僕らは鮮やかにダマサれ快感に浸っているのだ。
(文・てれびのスキマ @u5u http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/)
今や一部で伝説となったこのフレーズは『くりぃむナントカ』(テレビ朝日)の「ビンカン選手権in箱根」で飛び出したものだ。
2007年4月に放送されたこの番組は多くの視聴者を驚かせた。
小説などには「叙述トリック」という手法が存在する。小説という言葉だけの表現だからこそ生まれる錯覚などを利用したトリックのことである。
「ビンカン選手権in箱根」はまさにテレビであることを利用した見事な「叙述トリック」だった。
「ビ ンカン選手権」は様々な場所にロケに行き、その場所にあるビンカンポイント(間違い)を探し、獲得した得点を競うというもの。ビンカンポイントは「司会者 がタモリの扮装をしている」という簡単なものから、東京ムツゴロウ動物王国での出題で「ここはムツゴロウ王国ではない」という超難解なものまで様々。得点 はもちろん難易度に応じてマイナスポイントから100ポイントを超える高得点まで設定されている。
「箱根」の回ではそのビンカンポイントのひとつがまさかの「実は国生さゆりもいた!」だったのだ。
その答えが発表されても視聴者はもちろん回答者である出演者もピンと来ない。
なぜなら、国生さゆりはずっと出演者たちと一緒に回答者としてロケに参加していたのだ。
そして番組は編集を駆使して国生さゆりの存在を画面に写らないようにしていた。
その説明を受けて回答者はようやくその違和感にハッと気付く。
ベテランである国生さゆりの席がなぜか端っこであったこと、(カットしてもいいような)的はずれな回答を繰り返していたこと、番組に積極的に参加していないようなやる気のないと思われるような言動だったこと……。
そして視聴者も自分の記憶と照らしあわせてハタと思い至る。
席 がひとつ余分だったり、出演者以外の笑い声が聞こえたり、その背中が見切れていたり、ビンカンポイントがいつの間にか開いてあったり……。でもそうした違 和感は、ロケ番組を見ていればよくあることだ。テレビをよく見ていれば見ているほど、「編集上の都合かな」というふうに、気にならないものだった。
出演者も視聴者も気持ちいいくらい鮮やかにダマサれたのだ。そしてこれは最高のメディアリテラシーを育む番組でもあった。
『く りぃむナントカ』はその後ゴールデンに昇格し失敗。レギュラー番組としての『ナントカ』は終わり、改編期における特別番組として度々放送されている。しか し、同番組の看板企画である「ビンカン選手権」は行われることはなく、『ナントカ』らしいバカバカしい企画が特番感皆無で行われていた。それはもちろん楽 しいものだったが「ビンカン選手権」を待望する声は依然として多かった。
そして遂に2012年9月。4年ぶりに「ビンカン選手権」が開催された。
回答者はくりぃむしちゅーの上田晋也に加えて常連である土田晃之、次長課長。そして『くりぃむクイズ ミラクル9』などで“天然おバカ枠”で活躍しているAKB48の大家志津香が抜擢された。
番組は4年ぶりとは思えないほど常連達によって当時の「ビンカン選手権」の楽しげな空気がそのまま再現された。しかし、それにアクセントを加えるようにその天然っぷりでかき回したのが、抜擢された大家だった。
まず最初のステージは屋形船。
司 会の有田と前田アナが上田の扮装をしていたり、「ビンカンオールスターズ」のゆうたろうが銃口を構えて狙っていたり、分かりやすいビンカンポイントは1度 しか回答権がないためスルーされ、屋形船の外の橋の上に誰かがいることに気付いた面々が「誰だ?」と目を凝らす中、「キャー」と大家が悲鳴。大家はたまた ま足を伸ばした先に畳の下に顔だけだして隠れていた大久保佳代子を踏んでしまったのだ。大家は奇跡的に「畳の下に大久保さんがいる」というビンカンポイン ト10Pを獲得した。
続く舞台はスポーツジム。
そこで運動をしている面々の中に明らかに見覚えのある顔。そう、あの「金メダルをなくした」ことで有名なレスリングの小林孝至だ。
も ちろん男性回答者陣はそれに気付いていたが、低得点とみてスルー。しかし、大家はその隣で運動する女性を凝視。「見たことがあるんです、この方……。ス ポーツ選手の方、シンクロの選手!」と。そのおバカ発言に対し「そうじゃねえ人(小林)いるじゃん」と土田がツッコむとおり有田は大家に「ドンカン!(不 正解)」を宣告する。
しかし、しばらくすると次長課長の河本は「とんでもないこと」に気付く。実は運動をしている著名人は小林だけではなかったのだ。なんと「運動している全員が元メダリスト」だった。先の大家はおバカ発言でもなんでもなく、限りなく正解に近いニアミスだったのだ。
最後は水族館。
そこで大家は「ビンカン選手権」特有の大オチのビンカンポイントを狙って「そもそもビンカン選手権のオンエアなどない! 全部スタッフも偽物。カメラも回ってない」と回答。さすがにそれはドンカン。
が、正解の中に「実は最初からカメラの1台は回っていなかった」という100Pのビンカンポイントがあったのだ。またもある意味でニアミス!
各ステージで天然特有のおバカ発言がまさかの展開でミラクルを起こし続ける大家。
『ミラクル9』で培われた力はホンモノなんだな、やっぱり“持っている”タレントは“持っている”もんなんだな、と視聴者も回答者も思い始めたところでまさかの回答が明かされるのだ。
それは「実は最初から大家は正解を全部知っていた」。
大家が起こしたミラクルはすべて台本通りだったのだ!
フェイクとドキュメントとの狭間で揺れ動く極上のエンターテイメント。
またも僕らは鮮やかにダマサれ快感に浸っているのだ。
(文・てれびのスキマ @u5u http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/)
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