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2012年のK-1ブランド、そのプラスとマイナス■橋本宗洋の『格闘技酔拳批評』
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2012年のK-1ブランド、そのプラスとマイナス■橋本宗洋の『格闘技酔拳批評』

2012-10-20 00:09
    10月14日、日本で久々にK-1が開催された。そう書くのがいいんだろうか。それともやはり、新生K-1初めての日本大会が開催されたと書くほうがい いんだろうか。実感としては、後者だろうと思う。でも、前者の気持ちで会場に行ったり、ネット中継を見た人も多かったはずだ。
     正直に言って、この日、両国国技館で行なわれたのはかつてのようなK-1ではなかった。それどころか、“メジャー興行”としてはかなり不充分なものだった。

      たとえば、パンフレットは販売されておらず、A4サイズの紙を三つ折にした簡易版のみ(無料配布)。そこに対戦カードと魔裟斗エグゼクティブ・プロデュー サーの挨拶などが載っている。煽りVもなし。入場前に選手のファイティングポーズ&シャドーおよび一言コメントの映像が流れるだけだった。ま、こういうの が一番、後手に回りがちではあるんだと思う。

     全盛期のK-1やPRIDEでそれをやっても、大きな問題にはならなかったはずだ。ファン はほとんどの選手のことを知っているわけだから。でも今回のK-1に、ファンがよく知っている選手は少ない。過去のK-1ワールドGPで優勝した選手はゼ ロ。紹介なしでもわかるのはミルコ・クロコップと天田ヒロミくらいか。ポール・スロウィスキーやヘスディ・カラケス、サビッド・サメドフは以前から期待さ れていた選手だが、それにしたってよっぽど熱心なファンじゃないと覚えてないだろう。

     そういう状況なのに煽りVがなく、簡易パンフにも選手の名前と国名しかない。見ているほうからすると“取っかかり”がないわけだ。ただただ試合を見るしかない。
      試合に関して言えば、これはまあ、おもしろいものもつまらないものもあった。身長差のある相手を見事に倒してみせたサメドフはよかったし、スロウィスキー を下したカタリン・モロサヌの豪腕ぶりも魅力的。逆にワンマッチではグダグダの試合もあった。キックファンには梅野源治の敗戦が最もインパクトを残したは ずだ。そういう様々な要素が、しかし100%は楽しめない。逆に言うと、試合を100%楽しませるための要素を、主催者側が作れていなかった。

    運営上の疑問はいくつもある。マスコミ用資料がカード表だけだったとか、物販でアンディ・フグのメモリアルTシャツを売ってたが、もっと充実させられなかったのかとか、そういったようなことだ。ニコ生で有料中継があったのに、USTREAMで無料で見られたのもまずい。

      ただ、そういったバタバタ感みたいなものは、よくあることと言えなくもない。観客に不親切な進行、知らない選手の多さ。試合のクオリティのばらつき。これ が“最近出てきた海外のキック団体”の興行だったら「ま、こんなもんかね」で済む話ではある。後々「そういえば日本でもやったねぇ。あれ、なんでわざわざ 日本でやったんだろ」と言われる感じだ。で、結局はこういう話で終わる。「まあ初めての国、初めての会場でやるとなったらこれくらいのバタバタ感になるよ ね」。

     新生K-1だって同じなんだろうと思う。いまのK-1は“海外の団体”であり、事実上の新団体。大会はスペイン、アメリカに続い て3回目でしかない。日本に帰ってきたのではなく、初めて日本にやってきたのだ。そう考えれば「ま、こんなもんかなぁ」である。おもしろい試合もあったわ けだし。
     でもやっぱり、これはK-1なのである。FEG時代と同じロゴを使い、魔裟斗がいる。アンディ・フグのメモリアルセレモニーもあって、 そこにはアーネスト・ホーストも登場した。オープニングVでは歴代王者のファイトシーンが流れた。その“積み重ねたK-1の歴史とブランド”と、実際に会 場で行なわれていることの落差が戸惑いを生む。

     実際、いまK-1を運営するのは相当に大変だろうと思う。特に日本では。頭では「これは 新生K-1なんだ。いままでとは別物なんだ」と思っても、なかなか気持ちと身体がついてこないというか。誰もが知っているK-1というブランド。それは強 みであると同時に、足かせになってしまってもいる。求められる水準はどうしたって高くなる。人によってはK-1というブランドを“終わったこと”にしてし まったりもする。

     いまK-1がやらなきゃいけないのは、新世代の選手の魅力、いまのK-1のおもしろさをコツコツと浸透させることだ。 そう考えると、新生K-1にとって最大の重荷はK-1というブランドなのかもしれない。とはいえ、K-1というブランドを復興させることが、たとえば魔裟 斗にとって最大のモチベーションのはず。いや難しい。難しい中で、とにかく続けていくしかない。

    (橋本宗洋)
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