ボクシング界に何が起きているのか――先日スポーツ紙などが一斉に報じた「ボクシング、他競技に門戸開放」のニュース。
全国のボクシング関係者が出席した「他競技・類似イベントに関する全国集会」にて話し合いが行なわれたが、じつはこのミーティングは「門戸開放」がポイントではなかったのだ。一般報道では報じられていないその中身とは――MMAやキックと長年に渡って関わりが深く、今回の集会にも出席したJBスポーツの山田武士トレーナーに話を聞いた。
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――日本プロボクシング協会と日本ボクシングコミッション(JBC)が「他競技・類似イベントに関する全国集会」を行なったそうが、山田さんも出席されたそうですね。
山田 3時間ちょっと話をしましたね。
――そんなに!? 今回は招集がかかったんですか?
――これまで「他競技・類似イベントに関する全国集会」ってあったんですか?
山田 ないです。 ボクシング界もとうとう動かざるをえなかったじゃないんですか。
――2ヵ月前にも非ボクシングイベントに対して共同声明が発表されたじゃないですか。
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山田 ありましたねぇ。世の中からけっこう叩かれてましたけど(苦笑)。
――上から過ぎて評判はよくなかったですよね(笑)。山田さんは今回のようなミーティングが開かれる予感はあったんですか?
山田 ボクは東日本のボクシング協会の人間になるのでちょっとわからなかったんですけど、話を聞くと西日本がけっこう大変らしいんですよ。西の方では類似イベントがたくさんやっていて……山根(明)会長も団体を作りましたよね?(笑)。
山田 そうそう(笑)。あれは有名人の山根会長がやってるから世間でもニュースになってますけど、西にはプロに加盟していない小さい団体がポコポコできてるらしいんですよ。それもあって危機的な状況らしいんです。
――いわゆる「草ボクシング」ってやつですよね。最近になって類似イベントが多くなってるのはどういうことなんですか?
――だからフリーでやっちゃうし、そういう受け皿もある。
山田 西日本がそんな状況になってるとは全然知らなくて。そのへんについて長めの説明をされたんですよ。そのフリーランスボクサーとJBCは個別に交渉はしてるんですけども、「自由にやりたい」ということで決裂してるらしいんですよね。
――いままでは勝手に興行をやる人たちもいないし、フリーでボクサーもいなかったわけですよね。
山田 それはね、天心vsメイウェザーの影響は大きいと思いますよ。
――えっ、そういうことなんですか(笑)。
山田 だってアレもボクシングじゃないですか。ボクシングとは謳ってないですけどね。 JBCが関わらないかたちでやれるんだと思うじゃないですか。
――たしかに法律で禁じられてるわけじゃないですもんね。プロライセンスを持っていない30代以上を対象とした「おやじファイト」的な類似イベントは、00年代中盤から行なわれて人気だったりしますよね。
山田 今回の集会で、あのへんのイベントも「これからどうするんだ?」っていう話になったんですよ。たとえば自分のジムに通っている会員が出るときは所属ジムの名前は表に出せないし、セコンドにはつけなかったんですけどね。いままでなんとなく黙認されてきたのは、出場するのはオッサンで年齢は年齢だし、プロと興行がぶつかるわけじゃないから。でも、類似イベントとキッパリと縁を切るという話になったら「おやじファイト」も入っちゃうわけですよね。
――どこかから線を引けばいいのかと。
山田 今回の集まりでも「おやじファイトはいいんじゃない」「なんでいいの?」とか意見の出し合い。一番わかりやすいのは入場料を取ったら類似イベントです。 スパーリング大会は参加費を払うだけで、お客さんは無料観戦じゃないですか。入場料が発生した段階で興行であると。このへんの話は理事会で揉まれて正式に決まると思います。
――なるほど。那須川天心vsメイウェザーや亀田興毅vs那須川天心というよりも、じつはいままで燻っていた問題がボクシング界にあったということですね。
山田 2ヵ月前の共同声明も西日本に向けてのものだったらしいんですよ。でも、アレが出たのは天心と亀田くんの直前ですよね?
――前日ですね。
山田 だからあの試合に向けてだと思われたけど、じつは西日本に対して……ということだったらしいんですよ。まあ、タイミング的には天心と亀田くんに対してだと受け取られますよね。とにかく西日本にはそういう類似イベントがたくさんあるらしいんですよ。
――それは西日本の協会の力が弱まっていることもあるんですか?
山田 そうですね。昔はそんなことをしたらとんでもないことになったんですけど。10年前ならこうはならなかった。 何をされるかといえば、JBCから絶縁をされるだけで。そんなイベントをやってる奴らはそもそもJBCと関わろうとは思ってないから痛くも痒くもないんですよ。あとこの取材で一番言いたいのは、ニック(永末ニック貴之)問題ですね。
――パーソナルトレーナーのニックさんですね。那須川選手や井上尚弥選手のバンテージを巻いている有名トレーナー。
山田 本来はJBCのライセンスを持ってないとバンテージを巻けないというルールなんです。ボクは以前MMAに関わったことでライセンスが失効したときには、プロボクサーの控室に入れないし、バンテージも巻けなかった。ニックはライセンスを持ってないんですけど、尚弥くんのを巻くし、田中恒成のも巻くし、ボクシングじゃないですけど天心のも巻いてますよね。 もしライセンスを持っていたら天心のバンテージは巻いちゃダメなんですよ。
――ライセンスを持ってないからジャンルを横断できるってことですね。
山田 いまボクはライセンスが復活したので、MMAファイターの川尻のバンテージは巻けないんですけどね。で、今回の集会で匿名の質問として「今後ニックはどうなるんだ?」というのがあったんですよね。なんでニックが許されて、逆は許されないのかと。
――ライセンスを持っている人間が那須川選手のバンテージは巻けないのに、持っていない人間が井上尚弥のバンテージをなぜ巻けるのかと。うーむ。
山田 JBCのスタンスとしては来る者は拒まずだけど、外に関わるのはダメだと。どういうことになったかというと、外国人ボクサーのトレーナーって来日したときに1日だけJBCのライセンスを取るんですよ。それに習ってニックはこれから試合ごとにライセンスを取るみたいですね。井上尚弥の試合の日だけのライセンスを取ってバンテージを巻いて、翌日にはライセンスが切れるから、もし天心の試合があればバンテージが巻けるんです。いわゆる外国人扱いですよね。
山田 そこはね、ボンヤリしてたんですよね(笑)。
――ボンヤリって!(笑)。山田 でも、井上尚弥、田中恒成、那須川天心……これってロイヤルストレートフラッシュですよ。こんな強いカードを持ってるニックをボクシング界が蹴れるのかって話ですよね。ニックがどっちかを巻けないとなったときはけっこうな大騒ぎになっちゃうと思うんです。だから苦肉の策として1日限りのライセンスにしたということですよね。
――落とし所としてはそれしかないと。
山田 ボクも手を挙げて質問したんですよ。興行が重なることがあって井上尚弥の試合翌日に那須川天心の試合があって、どちらにもニックの姿がテレビに映るかもしれない。それを見た関係者は「なんでアイツだけ?」っていう話になりかねないですよ、と。誤解されないためにもこの話は表に出してほしいんですよね。<8000字インタビューはまだまだ続く>
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