多くのMMAファイターをマネジメントするシュウ・ヒラタ氏が北米MMAシーンを縦横無尽に語りまくるコーナー。今回も11000字で語ります(この記事はニコ生配信されたものを編集したものです)
――各団体でショッキングな計量失敗が起きちゃったので、最近の計量失敗事情を語りたいと思います。ベラトールハワイ大会の堀口恭司vsレイ・ボーグは、レイ・ボーグの失敗で試合中止。最近の中ではいちばん大きい事故になっちゃいました……。
シュウ じつはレイ・ボーグってもともとUFCのフライ級で何回もミスってて、それがもとでリリースされてるわけじゃないですか。つまりフライ級でのマッチメイキング的に初めから無理があったんじゃないかって意見は出てますよね。
――そもそもレイ・ボーグ本人が「フライ級のオファーがあって驚いた」って言ってるぐらいですからねぇ。キャッチウェイトは確信犯だったんじゃないかなと。そのキャッチも守れず、バンタム級のリミットも無理で、計量会場に姿を見せず試合中止。
シュウ 最終的に7ポンド(3.17キロ)オーバー。最初は落とせるとは思ったんでしょうね。じゃなかったら試合は受けないと思います。ただ、問題はマネジメントが「ちゃんと落とせるのか」を確認したのかな? そしてファイトウィークの前から、そんな選手の状態をコーチ陣と共に把握してた? それをちゃんとモニターしてたの?と。ベラトールレベルの団体になっちゃうと、やっぱり団体側も試合を成立させる努力をそれなりにしなくちゃいけないわけでして。たとえば選手が試合現地に着いたその日に体重確認して、選手が宿泊するホテル内に24時間好きなときに使える練習場を設置してくれて、マットが敷かれてサンドバッグやタオルや水が山ほどあるだけでなく、顔と手を出して座ったまま入れるサウナ、部屋に持って帰って寝転びながら入れるサウナ、発汗クリームなど、全部用意してくれるんですね。そこでマネジメントがどれだけアシストしたのか。いろいろ検証しなくちゃいけないのかなと思いますよね。ただ欧米の多くのマネジメントは、現場のことに関しては選手とコーチ陣の責任だからタッチしないと、ボクからしたら責任から逃げるスタイルのところもいるんで(笑)。
――堀口選手はベラトールでフライ級お披露目マッチだったのに災難ですよね。
シュウ そうなんですよ。今回は堀口選手のためにフライ級の試合を組んだようなもんですからね。ボクがマネジメントさせてもらう選手が明らかに体重オーバーしそうなときは、前の週の時点でマッチメーカーに連絡しますよ。そうなるとキャッチウェイトの話もできるし、最悪の場合、他の相手も探せるじゃないですか。今回のハワイだったら、あまり大会がないので、試合したくてウズウズしてる選手って山ほどいると思うんですよ。しかも軽量級の数がそれなりに多いはずですし、一番近いカリフォルニアにも選手はたくさんいるんで。
――スコット・コーカーは「前日だとさすが探すのが難しい」と言ってましたけど、前の週だったら、もしかして……ということですよね。
シュウ そこはマネジメントの役目だと思うんですね。やっぱり試合を成立させることが仕事ですから。たとえばファンにキャッチウェイトを怒られようが試合を成立する・しないのでは、えらい違いですよね。代替選手を探すとしても、その選手は、アスレチック・コミッションからファイター・ライセンスを取得するために、MRIや眼検査や血液検査などいろいととやらないといけないんで、その検査結果が出るまでの時間も考えないといけないんですよね。ですから「試合のできる」状態の選手を1~2日で揃えるのって本当に難しいんですよね。
ただ、私がスコットだったら事前に代替選手を用意してましたね。けど、それをしなかったと言うことは、そこまでこの試合へのバリューをスコット自身が感じていなかったのかもしれないですし、もしかしたら、この試合が飛んでも日本でまた組めるという打算も頭の隅にはあったのかもしれないですよね。プロモーターですから。堀口選手のバリューが一番あるのは、アメリカではなく日本だと言うのを理解しているわけですし。ただプロモーターからしても、試合が不成立になるというのは最悪の結果でもあるんで……。
――団体もメインカードの消滅は避けたいですよね。
シュウ そこはレイ・ボーグとコーチ、それからマネジメント、団体、みんなで反省しなきゃいけないところがあったんじゃないんですかと思うんですけどね。さすがに堀口選手にはギャランティーは出ると思うんですけど。もちろんレイ・ボーグは一銭ももらえないで帰る。レイ・ボーグは2ヵ月間練習したのに稼ぎなし。ファイトキャンプの費用やコーチにお金も払えなくなるから借金ができるだけですよ。ただ、これはレイ・ボーグの責任ですから受け止めなきゃいけないですよね。ただですね、いま日本の某団体の計量失敗のペナルティはちょっと異常だと思うんですよ。
――日本国内団体は昔から「選手のミスとはいえ、ちょっとペナルティの負担が大きすぎるんじゃないか……」って話はよく聞きますが、ここ最近は選手や関係者がSNSで異常さを匂わせていますね。<11000字インタビューはまだまだ続く>