多くのMMAファイターをマネジメントするュウ・ヒラタ氏が北米MMAシーンを縦横無尽に語りまくるコーナー。今回も12000字で語ります(この記事はニコ生配信されたものを編集したものです)





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シュウさん、今日もいろいろとお話をおうかがいします! まずは業界大注目のUFC集団訴訟の件はどうやら和解のほうに進みそうですね。

シュウ 私からしたら、はっきり言ってガックリですねぇ。14年近く訴訟をやっていたのに結局お金の額も大したことなければ、あの和解案は選手のための業界再編まで至らなかったわけですよね。たとえばランキングを第三者でコントロールできないとか、チャンピオンでも1年以上は拘束できないとか、選手のためのルールを全部ギブアップしたわけですから。

――そこまでの権利を勝ち取るにはまた時間がかかるから、今回の決断はベストじゃないけど、ベターみたいな感じですかね。

シュウ それは「誰にとってベターなのか」って話ですよね。その昔、それこそすごい安いお金で試合させられた選手たちにとってはいいかもしれないですけども。全体的に選手たちの立場がアンフェアだからということで始めた訴訟なわけであって、その肝心の部分をギブアップしたということは、この決断を下したの原告側は、これからの選手のケアは「皆さんでまたやってくれ」「また訴訟を起こせばいいじゃん」って感じなんじゃないですかね。今回は判例が作れたのではなく示談なんで、今後の訴訟はまた可能なのかもしれないですけど、そのあたりは専門家に聞かないとわからないですね。

――賠償金は約500億円のようですね。

シュウ いまのUFCからすれば大したことないですよ(笑)。

――そうなんですよね(笑)。

シュウ 想定されていた額と比べたら大したことないですよ。これを原告の選手1200人でどうやって割るんですか?って話じゃないですか。

――話によると均等ではないらしいですけどね、試合数やキャリアによって金額は違ってくるとか。

シュウ それに税金も引かれるんですよ。

――UFCもこの賠償金は税金として処理できる話も出てますから、そこまでダメージはないという。

シュウ まあ思ってるよりダメージはないですよね。税金の処理でいえば、原告サイドの水垣(偉弥)さんにもどれくらい戻ってくるかで、税金はどうなるのか。しかもその年の分はもう申告しちゃってるわけですからね。経費として扱えるのか、そこはちょっと気になりますね。税理士の先生に任せるしかないと思っています。

――これを受けてUFCが多少なりとも何かやり方を変えることはありえますか?

シュウ 結局この裁判に関してはこれでもう決着、おしまいだと思うんですよ。将来的に何か不満を感じた選手や関係者たちが集まってアクションを起こすことはあるのかもしれないですけど、エンデバー体制となる2017年までのことは一応これで決着ってことなのかもしれない。ぶっちゃけのところいまや政治家の須藤元気さん。彼がUFCでマイク・ブラウンとかやったときなんて2000ドル+2000ドルでしたからね。

――めちゃくちゃ安すぎます(笑)。当時のUFCってPRIDE以下の規模で。

シュウ そうなんですよ。しかもそこから3割の連邦税が引かれますし。2000ドル+2000ドルでやってた人にとっては、たとえば1000万という金額がポンって入ってくるのは悪くないなとは思うんですね。実際に1000万円かはわからないですけど。業界のルールを変えるという軸の部分はもう全部ダメになっちゃったってことですよ。

――ただでさえ現在のUFCは「ダナ・ホワイト・コンテンター・シリーズ」や「Road to UFC」(以下RTU)で勝ち上がってきた選手を安く契約して使う戦略になっているから、選手たちにとっては良くない流れですね

シュウ そうなんですよね。これはボクが前に言ったように、UFCがチャンピオンでも何年も拘束することができなくなって、たとえば榊原さんや他のプロモーターがお金さえあればUFCの王者を簡単に引っ張ってこれる夢はもう当分なくなりますよね。

――榊原さんがダナ・ホワイトと何か交渉をしてますけど、その企みもあまり良くない方向に進む可能性もありますね。

シュウ 結局UFC一強じゃないですか。UFCがどこかと対抗戦をする必要なんてまったくないんですよね。UFCが「どこかのチャンピオンがほしい」と思っても、契約がまだあるなら待つ。わざわざその団体にお金を払って選手を引っ張るてみたいな政治的なビジネスはやらないと思うんですよね。以前オランダのゴールデングローリーというチームの勢いがすごかったじゃないですか。あのときゴールデン・グローリーがUFCに要請していたのは日本の芸能事務所と同じように、ファイトマネーはいったんグローリーに払いなさいと。そしてグローリーが選手に払うと。でも、UFCは絶対にOKしなかったんですよ。UFCは選手としかやり取りしない。面白い例があるんですけど、選手が税金対策で自分の会社を作ったりしますよね。その会社にファイトマネーを振り込んでもらうとしても、UFCは「その会社の株式を100%あなたが持っていることを証明しなさい」と言ってくるんですよ。

――100%!

シュウ そうなんです。そういう会社って10%お父さん、10%お母さんが持っていることがあるじゃないですか。それだったらUFCは「払いません」って言われます。それぐらい徹底している会社なんで、何かルールをちょっと曲げて他団体とイレギュラーなことをやるってことは「ない」と思ってるんですよね。しかも親会社は上場企業、パブリック・カンパニーですから、たくさんいる株主の利益を最優先に考えないといけない中、特定の会社や個人のためにルールを曲げる可能性は極めて低いと思います。

――UFCはヒョードルvsレスナーをやりたがっていたけど、当時ヒョードルをマネジメントしていたM-1のワジムさんがいろいろと要求してきたこともあって、UFCは断念したわけですよね。合同興行はまだわかるんですが、ロシアのスタジアムを建設しろとか(笑)。

シュウ あれと同じですね。とにかく他の団体には基本的に噛ませないんですよ。逆にそのM-1と合同で大会開催するから、そしてヒョードルだけでなくM-1にもお金払うからということで、ヒョードル獲得に成功したのが、もうみなさん忘れているかもしれないボードッグ・ファイトですしね。

私はあのとき、ボードッグファイトのファイトチームでマッチメイキングの仕事をしてたので契約書を読んでいますけど、UFCの出したオファーよりも低い額のファイトマネーで合意できたのは、そういう理由もあったからなんです。

ですから日本のファンにとって気になってる堀口恭司選手や朝倉海選手も、自分のマネジメントがUFCと交渉して合意したら契約するっていう流れにしかなくなっちゃうことですよね。1年に1回ぐらいRIZINに戻ってきて試合したりとかは厳しいってことです。この訴訟問題でしっかり頑張って戦っていれば、いま言ったような団体の行き来も可能だったと思うんですよ。そういった夢も一気に潰れたなって思います。

――RIZIN神戸の話ですが、シュウさんがマネジメントしている井上直樹選手が佐藤将光選手に競り勝ちました。

シュウ 直樹くんは途中で目にアクシデントがありまして。佐藤選手はベテランですし、オールラウンダーなんで。そんな相手に勝てたことは大きいと思います。この試合の1ヵ月前に直樹くんと「どうやって勝つの?」と聞いたんですよ。そうしたらチェール・ソネンと同じことを言ったんです。どういうことかといえばソネンは「試合前は常に判定で勝つことを考えてる。チャンスがあったらフィニッシュするんだ」と。直樹くんも同じこと言ってたんですよ。今回は判定でしっかり勝つことを考えて、フィニッシュを狙える場面があればフィニッシュすると。

――1ラウンド飛ばし過ぎだった反省が活かされてるわけですね。

シュウ 直樹くんが失速するって扇久保(博正)選手とやったときのイメージがみんな残ってるじゃないですか。でも、これって試合途中に鼻を骨折し、指をケガしちゃったからだし、アーチュレッタ戦に関しては、いいのを一発もらっちゃったから流れが変わって。スタミナだけに問題があるわけではなくて、そっちだとボクは思ってるんですよね。要は戦いの中でダメージをもらったのがスタミナの失速に繋がった。だから「勝負でも負けた」ということかと。

――今回もアクシデントがあったけども、3ラウンド目にテイクダウンを取って勝負を決めることができたってことですね

シュウ あそこでテイクダウンが取れて肩固めのようなかたちに持っていけたことが、ジャッジにとって一番大きかったんじゃないですか。今回は「チェール・ソネン化」がちょっと嬉しかったかもしれないですね。冷静に戦えるように成長できているってことですから。

――井上選手は控えめに朝倉海選手の王座挑戦を表明しましたけども。朝倉海選手はRIZINで防衛戦をするかどうかちょっとまだ不明ですけど、シュウさんにはどういったお話が入ってるんでしょうか?


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・女子MMAシーンの朗報
・大谷翔平と水原一平の件……12000字インタビューはまだまだ続く
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