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渡辺華奈は「世界」とどうやって戦ってきたのか■上田貴央のコーチ論
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渡辺華奈は「世界」とどうやって戦ってきたのか■上田貴央のコーチ論

2024-05-01 00:00
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    渡辺華奈、久保優太などを指導する上田貴央氏インタビュー! コーチ、経営論の13000字です!(聞き手/ジャン斉藤)


    【1記事から購入できるバックナンバー】

    ・MMAでも天才か? 久保優太「斎藤裕選手を乗り越えられる自信はあります」





    ――
    上田さんはコーチとして渡辺華奈選手や久保優太選手をサポートしてますけど、渡辺選手のPFLデビュー戦は対戦相手のシェイナ・ヤングが計量オーバーしたことで舞台裏は大変だったみたいですね。

    上田 いろいろありましたねぇ……(苦笑)。

    ――
    計量オーバーはどれくらいのタイミングで聞いたんですか? 

    上田
     渡辺は午前10時頃に計量クリアしたんですけど、そのあとですね。10時から12時の2時間のあいだにクリアすればOKだったんですけど、11時に電話がかかってきて。「このタイミングで電話って、もうアレの話に決まってるじゃん」と思ったら、案の定「相手、落ちないから」と。でも、まだ計量時間終了まで1時間もあるんですよ!

    ――
    12時すぎてから連絡が来るならまだしも!

    上田
     だから「え? リミットまで落とさないんですか?」と聞いたら「もうやらないです」と。早々に諦めることって日本だとなかなかないじゃないですか。それに渡辺側の選択肢は「試合をするか・しないかのどちらかだけだ」と。つまり、キャッチウエイトを拒否したら渡辺の棄権になる。

    ――
    ホントにどうかしてますよ、そのシステム。

    上田
     渡辺が棄権を選ぶなら代替選手は計量クリアしてるから、その選手が渡辺の代わりに出るからと言われて。こっちからすると「その代替選手が計量オーバーした選手の代わりじゃないのかよ」って感じなんですけど、それはコミッションが認めた話だからということで、ボクらはふたつから選ばざるをえない状況でした。

    ――
    計量オーバーでも何キロまでOKという基準はあったんですかね?

    上田
     いや「何キロまで」というのは基本ないです。そういう場合って、コミッションがその場その場で独自に判断するんですよね。だから、SNSでも「なんでルールブック読んでないんだ」みたいな批判が飛んできたんですけど、そんなことはどこにも書いてないんですよ。どうするかはその場のコミッションの判断だし、その結果、今回は途中で水抜きを放棄した1.2キロオーバーでもOKという。

    ――ルールが違反者を味方するなんて……。

    上田
     ちなみに、今回はフライ級で57キロ契約だったんですけど、ヤング選手は前日夜の時点で63キロ以上あったみたいなんですよね。途中で水抜きを放棄してリカバリーされたら当日は絶対に64キロまで増えてくる。渡辺が計量後に戻すのはいつも2キロぐらいなんで、間違いなく5キロ差はあるなと。

    ――
    実質的に1階級差の試合ですよね。相手選手には何かしらペナルティもあるわけですよね?

    上田
     ファイトマネーの数パーセントをボクらが受け取れるのと、ヤング選手は今リーグのレギュラーシーズンでのポイントがマイナス1ポイントになるだけです。PFLってファイトマネーが高いイメージありますけど、実際に罰金の額を聞いたときにもそんなに高くなかったんですよ。

    ――PFLは優勝賞金が高いことで有名ですけど、ファイトマネーが高いのは一部のファイターだけですね。

    上田
     渡辺自身もよく「PFLでファイトマネー上がったでしょ?」と言われますけど、じつはまったく上がってないです。まあ、ベラトールがPFLに買収されたときに契約を切られた選手もいるから、こうやって試合ができるだけでありがたいことなんですけどね。

    ――
    罰金が入ってくるにせよ、なかなか納得はいかないですね。

    上田
     ボクらは「お金なんかいらないから」と最後まで言ったんですよ。裏ではずっと「金はいいからリカバリー制限つけさせてくれ」とか言い続けたんですけど、何もボクらの意向は通りませんでした。で、もうひとつのペナルティというか、ヤング選手はマイナス1ポイントになったんですけど、これって渡辺個人にとってはなんの意味もないですよね。リーグに参戦している全員が得するだけで。

    ――
    それだったら渡辺選手がプラス1ポイントとかにしてほしいところですよ。

    上田
     戦う我々だけは、ただただ計量オーバーの重い相手と無理してやらなきゃいけないという。だから不満はありましたよ。でも、ほかに選択肢もないし、聞けば聞くほど「これ試合を黙って受けるしかないじゃん」という。

    ――
    だからこそ、本当に勝ってよかったです!

    上田
     本当ですよ。始まってみたらテクニック差がだいぶあったので「これ全然大丈夫だな」と。あとは一本獲れるかどうかでしたけど、相手もディフェンスに全振りしてくるんで。たぶん、ヤング選手は打撃なら渡辺に勝てると思っていたんでしょうけど、序盤で渡辺がけっこうパンチを当てて血の海になっていたじゃないですか。相手も「これ、打撃でも先手が取れないな」と慌てたはずですよ。もちろん寝技ではこっちが上を取られることはないですからね。

    ――
    渡辺選手ってあらためて打撃も凄く成長してますよね。

    上田
     でも、渡辺ってどんだけ打撃を当てても「打撃は下手」という印象が強すぎて褒められないですよねえ(苦笑)。

    ――
    結果は判定決着で渡辺選手は3ポイント獲得。現状は同点5位という順位ですけど、同点の場合の順位決めってどういうルールなんですか?

    上田
     ああ、それも詳しく送ってもらったんですよ。同点の場合はまず直接対決の勝者が上。あとはフィニッシュの数、勝率が高いほう、勝った試合の総時間数が短いほう、負けた試合の総時間数が長いほう、判定勝ちのジャッジのスコア……と、いろいろ続く感じですね。

    ――細かい!(笑)。そういう条件の中で何かしら順位がつくという。

    上田
     ただ、ボクはそのルールに対しても思うところがあって。ボクは、MMAは早くフィニッシュすることに価値があるとは思ってないんですよね。なので、いままでボクがずっと渡辺に指導してきたことが100パーセント活かせるわけではないなと。時間をフルで使って判定で勝つことも強さだし、長期戦での強さも必要だと思うし。だから、短期決戦はちょっと価値観が違うなあ、と。

    ――
    それって、単純に寝技が得意な選手に不利なシステムでもありますね。

    上田
     まあだけど、ボクらがやることはフィニッシュを取るかどうかだけなんで。同ポイントになったときに、3番目や4番目の勝ち基準のために動くことはないですよね。

    ――
    次の試合でプレイオフに進めるかどうかが決まるんですよね。

    上田
     次はフィニッシュが取れれば確実に勝ち抜けられます。ほかの選手が全員1ラウンドでフィニッシュしないかぎり、1ラウンドじゃなくても渡辺がフィニッシュを取れればおそらく勝ち抜けられると思います。


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    ――
    次のマッチメイクはどうなりそうですか?

    上田
     そこは団体側も1戦目が終わった時点でのポイントを見て、どうすれば興行が面白くなるかというのを判断しながら決めるみたいですね。つまり、消化試合が起こらないようにするという意図で「この選手はこうすれば点数が入って、まだ可能性あるよね」みたいなのを判断しながら組むみたいです。……と言いながら、じつはもう裏では相手は決まっていて、あとは発表を待つだけなんですけどね。変更もあるかもしれないので、まだちょっと言えないんですけど(ベラトール女子フライ級王者リズ・カモーシェとのリマッチが決定)。

    ――そうなんですね。しかも、優勝すれば賞金100万ドルですからね。

    上田 まあ、100万ドルはオマケですよ。お金がもらえなくても、彼女はやります。無人島でも、ファイトマネーなしでも。それぐらい世界最強と戦いたいし、チャンピオンになりたい。きれいごとじゃなくて、彼女ははじめからそう言ってます

    ――
    プレイオフ参戦や優勝はもちろんですけど、この先にUFCも充分に狙えますし。

    上田
     だから無理して失敗して黒星をつけるぐらいだったら、無理をしないというのもひとつの選択なのかもしれないです。だけど、渡辺にとってはこのリーグで優勝するしかUFCのタイトルマッチを最速でやる道はないんですよね。リーグ戦はここからあと3戦だから、全部勝てば16勝2敗。しかも直近5連勝でPFLチャンピオンとなると、たぶんUFCに行けたら1戦目からいい選手と試合させてもらえる可能性が高いと思います。さらに2戦目でタイトルマッチとか。マイケル・チャンドラみたいなルートでいける可能性もありますよね。あと5年かければコツコツとUFCを目指すこともできるけど、渡辺にはもうそんな時間もないので。

    ――
    UFCを目指す意味でも、ベラトールやPFLを経由していろいろ経験できているのは大きいですね。

    上田
     平良達郎くんもいますけど、最近では一番安定的に北米で試合してるひとりじゃないかなと思いますね。まあ、こうやって海外で戦えてるのはたまたまかもしれないですけど、北米に行っても勝てるという積み上げ方をしてきたという意味では、そこは自信を持って言えますからね。だって……めちゃくちゃ練習しましたもん。

    ――
    唸るように言いましたね(笑)。

    上田
     ホントに。みんな柔道の力で勝ててると思ってるかもしれないけど、誰か同じレベルの柔道家を連れてきても、絶対に同じことはできないと思います。もう吐き気がするくらい練習してますから(笑)。

    ――
    外国人相手にここまで結果を出している女子ファイターは見当たらないですし、とくに打撃は本当に変わりました。

    上田
     柔道からMMAに転向した人間がいきなり打撃からやっちゃうと、この戦績はつくれないとボクは思っているんですよ。最初から打撃専門家のところでやらせたほうが強いかといったら、それは絶対にNOかなと。まずはグラウンドコントロール、パウンドの打ち方、サブミッションを全種類できるようにというのが最初でした。それが全部クリアできて11~12勝までいってから、次のステージとしてレスリングと打撃に着手したんで。だから、いまはほとんど死角はないと思いますよ。

    ――ベラトール参戦以降はレスリングのタックルを使えるようになったのも凄く大きいですよね。


    ・世界と戦うためにはまず「寝技」
    ・チャーリー柏木さんの存在の大きさ
    ・PFLで優勝してUFCへのアピール
    ・久保優太との関係
    ・プロ育成は儲からない
    ・格闘技で数千万円も溶かしている!?……13000字インタビューはまだまだ続く

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