*ニコニコチャンネル停止中の7月5日にnoteに掲載された原稿です。
――KNOCK OUT代々木大会めちゃくちゃ面白かったです!
山口 ありがとうございます!
――ボクはキックはそんなに詳しくない「キックぼんやり層」なんですけど、KNOCK OUTは企画が豊かだからか、非常に見やすかったですね。
山口 それでいえば、今回のコンセプトはいかに環状線の外側の人たちに届けるかってことだったので。
――猪木さんの「環状線理論」ですか!(笑)。Dropkickで何度も掲載している那須川天心のたとえをここでも触れると……
①天心vsロッタン 環状6号線(自分から情報を集めるファン)
②天心vs堀口恭司 環状7号線(興味はあるが運営側が仕掛けないと見ないボンヤリ層)
③天心vsメイウェザー 環状8号線(格闘技に関心がなく強引に仕掛けないと振り向かない層)
――そんなコンセプトがあったから、キックファン以外も見たくなるイベントだったと。
山口 純粋なキックを追い求めるのもいいんだけど、やっぱり試合を見てもらわないと始まらないなあと。賛否両論はありましたけど、大会を配信したU-NEXTさんからの報告ではU-NEXTで立ち技史上歴代ナンバーワンの視聴者数だったそうです。
――おお、まさに「環状線理論」で成功したと。
山口 そうなりますね(笑)。キックファンは当然ですけど、いかに外側の人たちに見てもらえるかってことはすごく意識してたんで嬉しい結果です。
――やっぱり大注目はメインの鈴木千裕vs五味隆典のボクシングルールですけど、試合前から大変だったんじゃないかなって。
山口 いやあ、めちゃくちゃ大変でしたね。いまでも面白がってる部分はボクはあるんですけど、「これが五味隆典か!?」って感じでしたねぇ(苦笑)。
――要はリングの外でも“戦い”があったわけですよね。
山口 五味くんとは昔からの付き合いだったんですよ。以前は吉祥寺の近くにジムがあったじゃないですか。
――いまは東林間ですけど、吉祥寺から2駅の久我山にありましたね。
山口 その頃はちょこちょことご飯を食べる機会があって。五味くんの面白さって言葉のセンスですよね。たまに吐く珠玉のセリフ。やっぱり一番痺れたのはPRIDE時代の「俺にはわかる。夜も眠れないはずだ」ってやつですね。
――2006年大晦日PRIDE男祭りの石田光洋戦・煽りVで飛び出したやつですね。
山口 俺もその頃は現役だったのかな、もう違うかな。こんな言葉を吐けるファイターはすげえなって痺れちゃって。
――今回の五味選手は事前の記者会見から言葉がキレキレだったんですよね。一部のファンから「朝倉未来の名前を出すな!」ってバッシングされてたんですけど(笑)、いま会見で最も面白い格闘家ですよ。
山口 千裕は会見のときから押されてたんですよねぇ。あのセンスはまだ千裕にはないですよね。
――そこは千裕選手も熟成されていくと思いますよ。
山口 千裕もこれからなんですかねぇ。
――川尻達也もKNOCK OUTの実況席に呼ばれて、しゃべりで盛り上げてましたけど、2人とも時間をかけてメディア慣れしていったと思います!(笑)。
山口 そこはベテランの味に千裕は遊ばれたというか。そこはボクも含めてですけど、最初から最後まで五味くん劇場にやられた。真っ直ぐなバカの千裕なんてやっぱり遊ばれちゃいますよねぇ。でも、千裕にとってすごくいい経験になったと思いますよ。だって五味くんは打ち合うような煽りだったけど、まったく打ち合うつもりはなかったですよね(苦笑)。
――「拳と拳のロックショーを見せる」と予告してましたね(笑)。
山口 タックルは見せましたけど(笑)。かっこいいこと言うからガンガン攻めるのかなと思ったら、そこは勝負師ですよね。そこは千裕の力不足なところもあったんですけど、千裕はどこかでやっぱり萎縮しちゃった部分があったのか……会見でも思ったんですけど、五味くんが目の前にいると何も喋んなくなる。千裕は先輩・後輩とか上下関係をすごく意識するから。
――千裕選手は「記者会見の出席にうるさい男」ですから、礼儀をわきまえているというか。このオファーに五味選手は当初から乗り気だったんですか?
山口 そうですね。今後の自分の道としてボクシングのスーパーファイト、レジェンドマッチを考えていたみたいで。
――五味選手はヒザが悪すぎてMMAはもう難しいみたいですね。
山口 でもRIZINからその手のオファーはない。最後の試合から2年も時が経っちゃって、もう動けなくなる歳に近くなってる中だったこともあって、千裕戦のオファーもすごく喜んで。最初はすごくいい関係だったんですよ。
――ええと「最初は」ですか?
山口 RIZINで千裕のパッキャオ戦が発表されるまでですよね(苦笑)。そこからまったく連絡が取れなくなったんです。
――うわー、そこから雲行きが怪しくなったわけですね(笑)。
山口 あとで会ったときに「LINEブロックしてたんだよ」と言ってましたけど(笑)。RIZINのパッキャオ戦の発表は「ルール違反だ」って言われて、そこはKNOCK OUTじゃなくてRIZIN側の都合で発表してるわけですし。発表直前までボクもRIZIN側には「ちょっとやめてくれ」という話はしてたんですよね。やっぱり五味くんに対して失礼だし、パッキャオ戦の前座みたいになっちゃうわけですから。でもRIZINさんにも都合があるわけで。
――パッキャオ戦は山口さんのほうから五味選手に伝えたんですか?
山口 そうです、発表前日に。悩んだんですけど、あらかじめ伝えたほうがいいなと思って「気分が悪いかもしれないけど、ごめんね」と送ったら「なんだかな」「とりあえず明後日(の公開練習)は行かないわ」って。公開練習前にリアリティ番組『THE KNOCK OUT FIGHTER』のチーム鈴木千裕vsチーム五味隆典の試合があるから、来ないのは困るんだけど、返信は返ってこない。電話しても出ない。
――そこでキャンセルしかねないのが五味隆典の恐ろしさ。普通は嫌がりながらもしぶしぶ来ますよ(笑)。
山口 まあまあ面白いですね。そこは諦めるしかないというか、やっぱりトップに行くファイターは普通じゃない。そこはある意味で千裕もそうだし。
――そこは理屈じゃないと?
山口 そういう選手だからこそお客さんを狂わす試合がやれるかもしれないですよね。俺は社会規範を守る人だったから、やっぱり凡人の選手で終わったというか(笑)。人を熱狂させるって、たぶん普通の人じゃできないんですよね。矢沢永吉とかもそうですよ。
――五味選手もPRIDE武士道のエースだった男ですから、そこはよくも悪くもネジが飛んでるんでしょうね。
山口 確実に五味くんは世界で一番だったときがあるわけじゃないですか。そういうスーパートップと仕事をするのは初めてっちゃ初めて。だから勉強になったし、RIZINの榊原さんも大変なんだろうなって思いました(笑)。
――結局、五味選手と直接会って試合出場を取り付けたんですか?
山口 五味くんのジムで3時間ぐらい話をして。それでも話がつかなくて「1回持ち帰ります」と。ジムの近くの喫茶店でどうしようかと3時間くらい会議しました。ボクの周りからは「違う相手を用意すれば」という声もあったんですよ。でも、千裕の「先生とやりたい」という希望を叶える企画だったし。対戦相手が五味くんだから意義がある。またジムに戻って五味くんと話をしたんですよ。まあ、なんとか……いろいろと大変でしたけど!(笑)。
――ビンビン伝わってきます!(笑)。正直パッキャオ戦はKNOCK OUTは関係ないですよね。
山口 関係ないっちゃ、関係ない。でも、五味くんの中ではRIZINさんとグルになってるぐらいのイメージがあって。
――「鈴木千裕にそういう試合を受けさせるのはおかしいだろ」という感情もあるでしょうね。
山口 それはあるでしょうね。でも、俺がやらせたくないと選手の耳に入る前に断っても、いまは情報化社会だから選手に届いちゃうんですよ。
――そこは昔と違いますよねぇ。
山口 そこを俺の判断だけで断っていたら、やっぱり選手は心が離れるし恨みますよね。
――「他にもそういうことがあるんじゃないか」って疑心暗鬼になっちゃいますよね。
山口 俺の立場だったらそりゃあやらせたくないですよ、あのパッキャオですからねぇ。でも、そこは止められない。千裕がやりたいなら、やるしかないよねって。
――いろいろと苦労されて五味戦は実現した甲斐はありました?
山口 あったかなと思いたいです(笑)。
――ハハハハハハ!
山口 試合内容は全然、雷は落ちなかったんですけど(苦笑)。メインイベントまでお客さんが帰らずに、煽りVの後に試合への期待感から歓声が沸き上がって。これっていまの日本格闘技界でできてるのはRIZINだけじゃないですか。五味くんと千裕の試合は批判されるカードでもあったんですけど、あの光景を作り出せたなって。
――RIZINファンは慣れてるから気がついてないんですけど、MMAやキック、ボクシングって手売りによる選手の応援団的ファンが多いから、お目当ての試合が終わったらメインを見ずに帰っちゃうのは珍しくないんですよね。
山口 そうそう、普通はみんな帰っちゃうじゃないですか。今回はプレリミナリーからのお客さんがメインまで残ってたんで。五味くんと千裕を軸にKNOCK OUTをより多くの人に知らせることには成功したんじゃないかなと思うんですよね。
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