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キックぼんやり層に優しい! ムエタイハンター鈴木秀明さんによるONE日本大会解説です!(聞き手/ジャン斉藤)


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――
鈴木さん、おひさしぶりです!

鈴木 そうですね(笑)。天心くんがキックにいた頃は、Dropkickでちょくちょく解説してましたけど、天心くんはボクシングに転向して。ボクシングはボクシングの人が伝えるのが一番いいですからね。

――
キックが中心のONE日本大会がおおいに盛り上がったので、「キックぼんやり層」が集うDropkickユーザーへの解説をお願いします!まずはリング外のスキャンダルなんですけど(笑)。グレゴリアンの計量オーバーにより海人選手の試合が中止になりました。最近は計量失敗が頻繁に起きるんですが……キャッチウェイトを拒否した海人選手を批判する声も散見されます。

鈴木
 ご存知のようにONEの計量システムは独自です。過度な水抜きができないようにハイドレーションのテストもあるので、そこで引っかかったら水分を取って塩分濃度を薄めなきゃいけない。水分を取ることで体重が増えてしまうことが多いんですよね。ボクがONE中継の解説に入らせていただいたりしているときでも、直前にキャッチウェイトに変更したり、試合がなくなってしまうこともまあまああります。

――
今回の日本大会でもキャッチウェイトに変更された試合はいくつかありましたね。

鈴木
 よくあることになってますね。ホントはやっちゃいけないんですけど。

――
まず外国人って計量オーバーを大きな問題として捉えてないようなふしがあるんですけど、鈴木さんが現役のときはどうでした?

鈴木
 タイの選手なんかはオーバー同士が「いくつオーバー?500グラムオーバーでいいじゃん」って話し合ってオッケーにしちゃうことがあるんですよ。

――
オーバー同士の談合ですか(笑)。

鈴木
 片方がオーバーだったら「スタジアムを3周したらいいよ」とか、選手・関係者同士が話して切り替えることもあります。まず試合を行なうことを第一に考えたりすることが多いですね。

――それは賭けの対象だから試合成立が優先されるんですか?

鈴木
 それもありますし、あとは試合をしないとファイトマネーが入らない。練習で作り上げて体重も落としたなら、試合をしてお金をもらったほうがいいって考える選手もいますよね。ただ、今回はONEという大きな団体のことなので、そこは事情が違ってくるのかなとは思います。

――
現時点の情報でいうと、グレゴリアンが規定時間に計量しなかったことがポイントなんじゃないかなと。

鈴木
 完全にそこが問題だと思います。海人選手本人の性格や所属ジムの姿勢としても、ちょっとのオーバーなら試合をするタイプなんですよ。キャッチウェイトだからって回避することはないです。断ったのはオーバーしたからではないというのがボクの意見です。結局のところ計量時間内に現れなかったし、具体的な情報もなかった。グレゴリアンはその後に計量したんですけど、海人選手サイドはチェックをさせてもらってない。そういう積み重ねが大きな不信感を生んでしまったんじゃないかと思いますね。

――
規定時間に来なかったうえに、目の前で計りに乗ってないことは大きいと。

鈴木
 ちなみにボクもタイで大きな試合に出たときに相手がオーバーしたんですよ。1・2キロくらいだったかな。計量後にいまから落とすってことになって、ボクはご飯を食べてホテルの部屋に戻ったんですけど、しばらくしたら対戦相手が部屋にやってきたんですよ。何かといえば「いまから体重を測るんで一緒にきてもらっていいですか」と。その選手と一緒にエレベーターに乗ってロビーまで行って体重を確認したことがありました。そういうことが大事だと思うんですよ。選手がいなくてもジムの関係者が同席して体重を計る。海人選手は今回ONE初参戦でしたし、ONEではあたりまえでも、初めての選手にとっては違うことも多いじゃないですか。

――
海人選手って日本大会の特別参戦で、複数回契約ではないはずだから疑心暗鬼になりますよね。ボクがびっくりしたのはグレゴリアンだけではなく、ONEのCEOチャトリもキャッチウェイトを受けなかった海人選手に批判的だったことですね。

鈴木
 チャトリさんはどこまで状況を把握したのかわからないと思うんですよね。

――
あー、チャトリがあいだに入っていたわけじゃないですし。昔から日本で試合をする外国人って「オーバーしても試合はするだろ……」って高をくくっているように見えるんですけど。

鈴木 まあ、そこは人によるんだと思いますよ。外国人でもきっちり守る人もいますし、守らない人もいる。いまはやっぱり水抜きという方法の定着が大きいですよね。直前に2キロ、3キロ落とせるけど、そこで失敗してしまう。だからオーバー自体は昔のほうが少なかったかもしれないです。いまはみんな減量で有利になりたいので、ギリギリまで攻めるんですよね。水抜きがうまくできるようになってから、減量幅が大きくなっているので。

――
だからギリギリを攻めるぶん、計量オーバーも多発しているってことですね。

鈴木
 ボクらの時代は基本的に当日計量だったんですよ。朝10時に計量して、夜に試合。大幅な水抜きをやると、夜までに身体が戻らないんです。いまは一晩寝れるし、試合によっては24時間以上あったりしますよね。だから無理して落とすんだと思いますね。

――
今回は「たった300グラム」という声もあるんですけど、数の話じゃなくて、そこに至るまでの対応が問題だった。信頼関係がないとリングに上がりたくない気持ちはわかりますか?

鈴木
 はい。やっぱり命を預けるわけなので、海人選手の気持ちもすごくわかります。

――
ONEの計量ってオリジナルじゃないですか。身体に合わない選手もいるんですか?

鈴木
 そこは水抜きの仕方だと思いますよ。極端な話、ギリギリを攻めなかったら大丈夫なわけだし、自分に合う階級に出ればいいわけで。自分が有利になろうとするために、減量失敗しやすくなってるわけですからね。

――
水抜きがマスト化しているから、計量オーバーは今後もずっと起き続けるんでしょうね。

鈴木
 と思いますね。いっそ前日じゃなくて当日計量にしちゃえば無理に落とさないのでは?と思っちゃうんですけど。当日計量で試合がなくなったときに対応が難しいから、それも大問題になりますからね。あと当日計量で失敗してリカバリーまで時間がかかった場合、身体が戻らない。昔は計量失敗した選手の腹を狙えって言われてたんです。減量で弱って脱水症状になって、水分を吸収しづらい状態で、腹が弱くなってるという見方をしてたので。前日計量だと時間があるから回復できるんですけど。

――
そうやってリカバリーできちゃうから、キャッチウェイトに不公平感が出ちゃうわけですね。

鈴木
 そうですね。だから体重は守るべきだと思うんですよね。

――
当日計量のデメリットってなんですか?

鈴木
 当日計量のデメリットは身体が回復しきれないので、パフォーマンスがちょっと落ちてしまうこと。やっぱり戻った状態のほうがパフォーマンスは上がると思います。あとは減量中は会見なんかに出られない。

――
PRをやっている場合ではない。

鈴木
 それと計量オーバーして中止になった場合、当日だと対応がうまくできない。そこは興行としては痛いと思いますよ。

――
中止の発表もギリギリになるから、会場で事実を知るお客さんもいるかもですね。

鈴木
 興行を打つ側からしたら、当日計量はいろいろとバタバタしてしまうんじゃないかなと思いますね。キックボクシングでも当日計量でやっている団体もあるんですよ。午前10時に計量して夕方から試合。タイでは朝6時7時に計量して夕方から試合をやってるし、アマチュア競技なんかも10時に計量して12時から試合をやっています。競技的にはいいんですけど、それはそれでキツイから選手もやりたがらないと思うんですよ。

――ONEのハイドレーションテストはいろいろ言われがちですけど、計量のあり方としてはひとつの策ではあると思うんですよ。ただどんなシステムでも完璧なものはなく、何かしらトラブルは起きるし、隙をついてうまくやろうとする人が出てくるわけですね。

鈴木
 何をやっても裏をついてくる人たち、ギリギリを攻める人たちは出てきますよね。当日計量でも水抜きをやってくるかもしれないし、脱水症状でその日の夜に打ち合うのは身体にめちゃくちゃよくないんですけど。

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