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「シャーデンフロイデの謎 2・人とサルの違い」
真ん中に穴が開いています。このアルミでできたトークンをオマキザルに渡して、いろんな果物と交換してあげたんですね。
すると、オマキザルたちは、リンゴの交換所に列をなして、リンゴばかりを欲しがるようになりました。
つまり、トークンの交換率が変わることによって“損得勘定”というものを理解するようになったんです。
こんなふうにして、段々と実験のレベルは上がっていきました。
すると、オスのサルは、メスザルにトークンを渡してセックスをさせて貰うということがあったんです。
やはり、人類最古のビジネスは売春であったという、そんなすごい実験なんですけど。
ちなみに、そのメスザルはトークンを受け取ると、すぐにブドウを購入するための列に並んだそうなんです(笑)。
あとは、トークンと交換できるものとして、果物の他にも、キュウリも出してたんですよ。
そのスライスしたキュウリは、ちょっとアルミっぽい色に光って見えるので、一生懸命、噛んで真ん中に穴を開けて“偽造貨幣”を作ろうとするサルも現れたそうです(笑)。
ただし、これをやってしまったおかげで、オマキザルの社会はすごい勢いで崩壊したそうです。
野生のオマキザルが持っていた社会性は、貨幣という概念が1つ入ったことで変質していって、オスとメスとが互いに交尾相手を見つけるのも上手く行かなくなり、あっという間に社会が崩壊してしまいました。
そして、この1組のペアに、それぞれ1匹ずつ、違う条件を与えるんです。
両方に、「トークン1枚を持ってくると、その度にキュウリを与える」という、同じ条件を与えると、オマキザルは喜んでキュウリを食べるんです。
彼らにとって、キュウリというのは、好物というわけではないんですけど、おやつとしては美味しいから、パクパク食べるんですよ。
でも、オマキザルが一番好きなのは、ブドウなんですね。
トークンを持ってきた時に、ペアになった2匹のオマキザルに、ブドウ1粒ずつあげると、すごく喜んで食べるんです。
さて、ここからが実験です。
では、一方にだけブドウを与えて、もう一方にキュウリを与えるとどうなるのか?
ブドウを貰ったオマキザルは喜んで食べるんですけども、キュウリを貰ったオマキザルはすごく不思議そうな顔をするんですね。
そして、もう一度、人間の方に手を出して「俺にもブドウをくれ」という顔をするんですよ。
でも、与えない。
これを何度も続ける内に、どんどんストレスが溜まってきて、ついにはオマキザルは不思議な行動を始めるんですね。
そのトークンという貨幣を持って交換に行くと、自分とペアのヤツはいつもブドウが貰えて、自分はキュウリしか貰えない。
すると、ストレスが溜まったオマキザルは、最終的に、キュウリの受け取りを拒否するんですよね。
両方共、キュウリを貰った時は喜んでキュウリを食べていた。
だから、キュウリが嫌いなわけじゃないんですよ。
だけど、自分だけブドウが貰えないということに怒ったオマキザルは、人間の顔にキュウリを叩きつけたんですね。
「俺を公平に扱ってくれないんだったら、こんなキュウリなんかいらねえよ!」って、すごく人間っぽいことを始めてしまった。
これがノー・フェア実験です。
シャーデンフロイデの概念を説明する前に話しておくべき、すごく大きい実験ですね。
では、何が違うのかというと、違うところが2つあります。
1つ目は、「サルは目の前の結果だけで怒る」というところ。
2つ目は、「サルは、自分が損をしたことには怒るけど、得をした者が罰せられても別に喜ばない」というところ。
ここが違うんですね。
1つ目の「サルは目の前の結果で怒る」ということについて。
これは、同じくノー・フェア実験の中でわかったことなんですけども、この実験に掛けられたオマキザルは、「目の前の相手がブドウを貰って、自分はキュウリしか貰えなかった場合」には怒ったんですけど、「何十匹というサルの中で、ある者はブドウを貰って、ある者はキュウリを貰う場合」には、ここまで極端な反応は出なかったんですね。
どういうことかというと、オマキザルには “みんな“ という概念が無いんです。
目の前の結果だけにしか目が行かない。
だから、ノー・フェア実験では、彼らの目からも差異がハッキリわかるように、ペアを組まされたんですね。
その中から、ホモ・サピエンス種という種族が発生したのは、わりと新しくて、7万年から8万年くらい前と言われています。
たとえば、「俺達は~」っていう言い方がそうです。
「うちの学校は~」でも、「日本人は~」でもいいです。
こういった抽象概念の共有というのを始めたのは、ほんの7万年前。
しかし、これを始めてから、ものすごい勢いで、他の種族を駆逐していったんです。
つまり、これがホモ・サピエンス誕生のきっかけと言ってもいい。
僕らが思っているより、人類の歴史というのは思いっきり浅いんですよ。
ホモ・サピエンスは、民族とか神様というような抽象概念を作ることによって、お互いが面と向かって顔を合わせたことのないような群れでも、「同じ仲間だ!」というふうに同一視が出来るようになりました。
たとえば、ネアンデルタール人のような他の人類というのは、1つの群れの人数の上限が100人とか150人くらいなんですね。
それ以上の数になってくると、“我々”という仲間意識を共有できなくなるからです。
ところが、ホモ・サピエンスに限っては、もっと多い、200人、300人、400人という、顔を覚えきれない人数でも、“我々”と考えることができる。
なので、たとえば、遠く離れた群れ同士でも物を交換できたり、国家という巨大な集団を作ったり、100人以上を使った狩りとかが出来るんですね。
これによって、他の種族に対してすごく有利な位置に立てたんです。
「チームのために死ねる!」とか、「民主主義のために死ねる!」、「正義のために死ねる!」という、こういう活動が出来るようになりました。
これが、ホモ・サピエンスの強さなんです。
いいことがあれば悪いこともあるんです。
どういうことかというと、なまじ “みんな” という概念がわかってしまったことによって、「みんなと比べて俺は~」ということまでわかるようになっちゃったんですよ。
メスの取り合いをしている時に目の前の他のオスザルに負けて、「俺はこのメスザルからフラれた」ということはわかるんですけど、「みんな、そこそこ彼女ザルがいるのに、俺はこの歳になってもいない」なんて悩みを、オマキザルは持たないんです。
彼らには “みんな” という抽象概念もなければ、“男たち” という抽象概念もないから、こういうシンドさみたいなものを持たないんですね。
ほとんどの個体は平均以下になるわけで、これによって、多くの個体が苦しむことになったんですね。
まとめると、人類は、“みんな” という概念を理解できたおかげで、「俺達」とか「グループ」とか「仲間」という巨大な集団を形成できるようになったんですけど。
そのおかげで、「自分は仲間の中でどの辺にいるのか?」ということを考えるようになり、平均以上じゃなきゃ苦しいから、大半の人は苦しむことになるという、そんな代償を受け取ってしまいました。
シャーデンフロイデが 分からないわけですね。
あくまでも、自分が損をした事にだけ怒るんですよ。
こういった、不公平に得をした感じがする者に対して、そいつが罰を受けたら喜ぶという感情が、今回のテーマであるシャーデンフロイデです。
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