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記事 6件
  • 第5章 カグラヤ怪奇事件ファイル

    2018-12-07 11:00  
    ついに来た! いよいよ来た! やっと来た! 乾坤一擲(けんこんいってき)、天王山、関ヶ原の戦い……徳若実希(とくわか みき)にとって、確実に人生の転換点となるであろう、この記念すべき日が! 土曜日、午後一時五〇分。 思えば、大学入学のため三重県に引っ越してきて一ヵ月。慣れない独り暮らしに戸惑い、大学では打ち解けられず、ゴミ出しの分別の甘さから大家さんに叱られ、ホームシックで泣きそうになって……それでもどうにかやってこられたのは、『カグラヤ怪奇探偵団』のおかげだ。 オカルト、心霊、超常現象、UMA……この世には、いまだ科学では解明できない、恐るべき謎がひしめいている。類まれなる知性によってそれらを解き明かし、人々を救わんとする怪奇探偵、その名も『かぐりん』! そして、彼によって運営されるホームページこそが、カグラヤ怪奇探偵団である。かぐりんのSNSには、怪奇事件に悩む人々の書き込みが後を絶た
  • 第4章 番組やらせてたいま!

    2018-11-30 11:00  
    やっと来た。このときが……本当に、やっと。 石川県白山市徳光町、日本海沿岸を走る北陸自動車道の途中に位置する、徳光パーキングエリア。駐車場に車を停めると、そのまま海辺まで歩いて行けるという好立地に加え、様々なレジャー施設が近くにあるため、夏には多くの観光客でにぎわう。しかし、シーズンオフの今は、穏やかな空気が流れていた。 金曜の午後七時過ぎ。 二階、無料休憩所の一角にしつらえられた放送ブース。「……はああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ」 ブース内、PA機器やノートパソコン、マイクに囲まれた放送席で、ガールズラジオ、チーム徳光のメインパーソナリティー、手取川海瑠(てどりがわみるう)は、深い深い息を吐いた。若干十五歳、中学二年生の少女とは思えないほど重い吐息。人生に疲れ切ったサラリーマンが、場末の居酒屋で吐くような。 記念すべき第一回の放送が、やっと始まろうとしている。どうにかここまで漕ぎつけた。これ
  • 第3章 ねえしのために

    2018-11-23 11:00  
    いきなり来た。来てしまった……姉が。「──ちょっとカナ! 聞いて聞いて、えれぇことよ!」 バーンと勢いよくドアを開け、花菜(かな)の部屋に飛び込んできたのは、長女の彩美(あやみ)だった。花菜は勉強机で宿題をしていたところだったが、別に驚きはしなかった。彩美がいきなり騒ぎ出すのはよくあることだったから。 花菜は漢字ドリルから顔を上げ、「なぁに? みーちゃん」 姉が来たので宿題は切り上げだ。 来年、中学受験を控えた身ではあるが、花菜自身は、別にピリピリしてはいない。思えば今まで、勉強というものをした覚えがなかった。家族やクラスメイトと話して、先生の言うことや授業を聞くうちに、興味を持ったことは自分で調べる……ずっとそれで、クラスのトップを取り続けている。「コレ見てよ、コレ!」 彩美は興奮しながら、スマホの画面を見せてきた。某SNSアプリのユーザーページが開かれている。「あの『かぐりん』からフォ
  • 第2章 チームだもんでよ

    2018-11-16 11:00  
    ついに来た。このときが。 十分な準備はしてきたし、脳内で何度もシミュレーションしてきた。それでも、いざとなるとやっぱり緊張する。 いよいよ始まるのだ。年魚市(あゆち)すずにとって夢への第一歩、未来への試金石(しきんせき)。後の世に伝説の始まりと謳われる……予定の、ガールズラジオ第一回放送が。 舞台は、静岡県富士市。駿河湾に注ぐ富士川と、東名高速道路が十字に交わる地点に位置するサービスエリア『EXPASA富士川』。二階にあるオープンカフェは、名物の大観覧車と、晴れた日には遠く富士山を望む絶景が自慢だ。その片隅に、立派な機材に囲まれた放送ブースが特設されている。 マイクの前に座ったまま、虚空を睨み付けているすずに、ふと声を掛けてくる者があった。「年魚市。顔が怖いよ? もうちょっとリラックスしたら?」 ビジネススーツを着込んだ、メガネの似合う知的な風貌の美女だ。ガルラジチーム富士川の参謀役、金明
  • 第1章 ラジオしよまい!

    2018-11-09 11:00  
     ついに来た……来てしまった。このときが。 金曜日、午後七時二〇分過ぎ。 大多数の人にとっては、何の変哲もない日のはずだった。冬の寒さが厳しくなるにつれ、町をゆく人も車も、どこか忙しなくなり始めているが。 愛知県岡崎市の北端に位置するサービスエリア、『NEOPASA岡崎』には、そんなうわついた気配が漂っていた。新東名高速を利用する旅行者や長距離ドライバーだけでなく、一般道からは地元民も多く訪れ、この時間でも結構なにぎわいを見せている。 そうした週末の喧騒(けんそう)の中心、吹き抜けになった小広場の片隅。二階のルーフガーデンへと続く回り階段の下に小さな特設ブースがあって、二兎春花(にと はるか)はそこにいた。マイクスタンドが置かれたテーブルの前に腰を下ろして、小さくなっていた。(ど、どっ……どどど、どうしよう!? まーかん、どらやばい……!) 内心、焦りまくっている。 もうすぐ七時半になる。
  • プロローグ

    2018-10-30 11:00  
    某月某日、都内某所。 近未来を感じさせる、円筒状の部屋。カーテンが閉め切られ、ライトの落とされた、薄暗い室内。中央の四面モニターが青白い光を放ち、その周囲をぐるりと囲んだドーナツ型の円卓に座す人影たちを照らし上げている。 席数は十二。うち半数が埋まっていた。最も奥まった席、卓上に組んだ両手を乗せた初老の男が口を開いた。「さて、いよいよだね」 それほど大柄というわけではないが、切れ長の瞳が並々ならぬ気迫を感じさせる。「いよいよ、計画を実行段階に移す。失われた黄金の時代を再び取り戻し、停滞した世界を変革する時だ」 中央のモニターには、履歴書然とした年若い女の子たちのバストアップが、数名分映し出されていた。画像にはパーソナルなデータも書き込まれている。下は小学生から上はOLまで、年齢層は幅広い。 居並ぶ影たちは、たくらみの気配を漂わせていた。いったいどういう集団なのか? 何をする組織なのか? 全