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黒田東彦日銀総裁 [Photo] Bloomberg via Getty Images

消費税引き上げをめぐって、政府与党内の議論が激しくなってきた。安倍晋三首相や菅義偉官房長官は慎重に判断する姿勢を変えていないが、麻生太郎副総理兼財務相、甘利明経財財政担当相、高村正彦自民党副総裁らは増税に傾斜した発言を続けている。

はたして消費税は引き上げるのか、それとも引き上げを延期するのか。引き上げるとしても、当初予定の2014年4月に8%、15年10月に10%へという2段階路線を修正し、たとえば1%ずつといった小刻みな引き上げに修正するのか。

結論がどうなるにせよ、この問題を最終決断するのは安倍首相以外にない。逆に言えば、いまの段階で政府与党内からどんな声が上がっていようと、安倍が「こうする」と言えば、そうなる。アベノミクスを引っさげて参院選に圧勝した安倍の方針に弓を引いてまで抵抗するような閣僚や自民党幹部はいない。

安倍総理は消費増増税を延期するだろう

そこで、安倍がどうするかが唯一最大の焦点である。
閣僚らの増税傾斜発言の裏側には、もちろん増税に執念を燃やして、糸を引いている財務省がいる。ということは、増税問題とは安倍が財務省の意向をどう受け止めて対処するか、という問題でもある。

新聞はじめメディアは、安倍が日本経済の現状をどう見立てて、それに消費税引き上げがフィットするか否かという観点から増税問題を論じるケースがほとんどだ。言い換えれば、経済政策問題としての消費税問題である。だが「安倍・菅vs財務省」という政治的構図でみれば、消費税問題とは実は「政治主導か官僚主導か」という政治のあり方をめぐる問題でもある。

むしろ「日本の政治そのもの」と言ってもいい。そういう観点から、安倍はどうするかと考えると、私は「増税を延期する可能性がかなり高い」とみる。

なぜか。
それを整理するには、アベノミクス第1の矢である大胆な金融緩和と2%の物価安定目標設定という政策がどうして実現できたか、なぜ黒田東彦日銀総裁を選んだか、という問題を考えてみればいい。

安倍は今回の消費税引き上げ問題でも、黒田日銀の指名に始まる第1の矢と同じ発想で対処する、と考えるのが自然である。黒田日銀の誕生と金融緩和、物価安定目標こそが「安倍政権の原点」であるからだ。

いまとなっては、黒田日銀は「すでにそこにある存在」になった。だが、それはけっして自然とすんなり決まったわけではない。財務省との激しいバトルの末に、安倍が勝ち取ったものだ。多くの読者が覚えているだろう。財務省は当初から、総裁には武藤敏郎元財務事務次官を強力に推していた。

麻生副総理は武藤敏郎元財務事務次官を日銀総裁に推していたが

財務省の意を汲んで武藤総裁実現に汗をかいたのは麻生である。
財務省は安倍対策に麻生を押し立てる一方、主な新聞やテレビ局には幹部が絨毯爆撃して「武藤がいかに日銀総裁にふさわしいか」を力説して歩いた。その結果、NHKはじめ主な新聞、テレビは決定ぎりぎりまで「武藤最有力」と報じ続けた。財務省得意の外堀を埋める作戦である。

だが、私の知る限り、安倍が武藤総裁の可能性を真剣に考慮したことは、ただの一度もない。最初から武藤は除外していた。最終的に武藤を選ばず、黒田で決着したのは承知のとおりだ。
そのとき、麻生はどうしたか。

麻生は武藤を推していたものの、最後は「これは総理のご判断。総理が決めれば、私は全面的にそれを支える」と言って、総理の決断に委ねた。麻生は立派だった、と思う。さすがに内閣総理大臣経験者である。

安倍が黒田を選んだのは、けっして財務省や日銀の意を受けたわけではない。たしかに黒田は財務省出身だが、ナンバー2の財務官当時、その前の国際局長時代から金融緩和と物価安定目標政策に熱心だった。読売新聞やフィナンシャルタイムズにも、その線で寄稿している。現役の官僚でそこまで出来る人は生半可ではない。

そして、ここが肝心なのだが、そもそもアベノミクスの柱である大胆な金融緩和と物価安定目標は財務省や日銀から生まれた政策ではない。それは2006年の第1次政権が倒れた後、野に下った安倍自身が徹底的に経済と経済政策を勉強して身につけた政策である。

今回の安倍以前の政権では、自民党でも民主党でも経済政策を作ってきたのは事実上、霞が関だった。そして金融政策は日銀まかせだった。内閣総理大臣が自前の、いわば手作りの経済政策で勝負したのは、実に今回の安倍政権が初めてなのだ。そういう意味で、アベノミクス第1の矢はまさしく「政治主導」の政策である。