けれども、ちょっと恐ろしいことを聞いた。そういうふうに自分の病気をカミングアウトする人は、次の就職が一気に難しくなるのだそうである。それは、そういう病歴のある人を、企業が雇おうとしないからだ。
なぜ企業がそういう人を雇わないかと言えば、理由は二つある。
一つは、その人が自分の会社で働き始めた場合、また病気になられたら困るからだ。仕事が滞るのはもちろん、人材募集や教育にかけた時間や労力が丸々損になってしまう。だから、そういう病歴のある人はなるべく避けようとするらしい。
もう一つは、そういうふうにネットに書かれたりすると、自社の評判が下がってしまうという心配がある。特に、同情や励ましのコメントを多く受けていればいるほど、会社が悪者にされる危険性は高まる。だから、触らぬ神に祟りなしで、そういう人は雇わないようにするのだ。
ところで、企業側がそういうふうに考えていたりすることを、自らの病歴をカミングアウトする人はよく分かっていなかったりする。あるいは、分かっていてもそれと戦おうとする。だからこそ、ネットでカミングアウトをするのだ。
彼らがなぜそれをカミングアウトするかといえば、一番の理由は、ネットで同情や励ましをもらえるからである。そういうことを書いたとたんに、慰めの言葉だけではなく、「そういう社会と共に戦っていこう!」「おれは味方する!」などという、強く勇気づけられる言葉さえもらったりする。
逆に「そういうことを書くと自らの首を絞めることになりますよ」と注意を促してくれる人はほとんどいない。いたとしても、すぐに周囲から「おまえはブラック企業の味方なのか!」などとバッシングを浴びせられ、意見ごと封殺されてしまう。
そうして、ネットで病歴をカミングアウトする人たちに、もっとカミングアウトしろ、もっと社会に呪詛を振りまけ、とけしかけるのだ。
なぜ、こういうことが起こるのか?
なぜ、こういう自分の首を絞めるような行為をする人を誰も止めないのか?
それどころか、後押しさえするのか?
今回は、その理由について考えてみた。
コメント
コメントを書く日本では、緊密型の情報共有ネットワークが社会関係資本を内側へ向けて閉じさせようとしているということでしょうか。
>>1
そうですね。内側に向けて閉じさせているというより、異物を排除して流れを効率化、スリム化しようとしている感じでしょうか。簡単に言うと「村八分」。村八分がなぜ行われるかというと、村八分にされる人以外の社会がうまく回るからなんですね。違う言葉で言えば「全体最適」でしょうか。多くの人を最適化するために、一部を切り捨てる。これはどこまでもモラルの問題がつきまとうので線引きが難しいですが、しかし線引きをしないという選択を人類がしたことはこれまでないですね。必ず一部は切り捨てられ続けてきました。ですからおそらく、そのバランスをどうするかというのが問題なのですが、これは永遠の課題かもしれません。
実体験としても、物凄く共感出来る文章でした。
僕も一時期、精神的に物凄く辛い目にあいましたが、同情されても助けてくれる人は全くいませんでした。
辛いとか痛いとかいってたら、逆に雇ってくれなくなるのは、物凄く肌で感じてしまって、それ以来、全く言わなくなりましたね。
>>3
ぼくも同じです。30代で仕事に行き詰まった時、助けてくれる人や味方は誰一人いなくなりました。でも、それはぼくだけではなく、みんなそうなんですよね。日本社会はとにかく厳しいなと思いましたが、でも厳しいからこその利点もあるんですよね。そういうことを教えてくれる大人もあまりおらず、自分で学ばなければならないところもまた厳しいなと思いました。
自分の病歴をカミングアウトした人を応援してるネット民が、実は無意識に彼らを殺そうとしてるってなかなか壮大ですねー
ブラックが嫌いだから、これをきっかけに叩きたい、戦いたい人がカミングアウトした人を無邪気に応援した、くらいの方がネット民っぽいなと思いました。ぽいだけですけど。
>>5
そうですね。
もちろん応援している人は、「ブラックを叩きたいから、カミングアウトした人を応援する」という気持ちでいると思います。ただしそれは、あくまでも表層部分での話で、その下には、また別の思いが隠れているというのが、ぼくの考え方です。