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かつてぼくのニコ生の司会をしてくれていたアニメ研究家の小新井涼さんが、『鬼滅の刃』のヒットの構造を分析するKindle本を出した。
そこで、今日はこの本を紹介したい。
小新井涼さん(りょうちん)は、元々ワタナベエンターテインメントの養成学校を卒業したタレントで、ぼくの妻・岩間よいこのお笑い時代の元相方である中村涼子さんと知り合いだった。そして、中村涼子さんと一緒にラジオに出てトークしていたのだが、妻が聞いていたそれをぼくもたまたま聞いて、「なんて頭がいい人だ」と感心し、ニコ生の司会をお願いした。そうしたところ快諾してもらい、そこから長い間ニコ生の司会をしてもらっていた。おかげで、もうずいぶんと古いつき合いになる。
その間にりょうちんは、単にタレントだけではなく、まず明治の大学院に通って修士を取り、今は北海道大学に通って博士号を取ろうとしている。専門はアニメだ。彼女はアニメを学問的に研究している、文字通りの「研究家」だ。そういう人はこれまであまり――というか、もしかしたら誰もいなかったかもしれない。そんな開拓者精神も併せ持つ人なのである。
りょうちんは、頭の回転も速いが記憶力もいい。そして勘もいいから向かうところ敵なしのように思えるが、しかし一つ弱点がある。それは「いい加減さ」がないところだ。ぼくのようなデタラメさ、適当さがない。不真面目さがないのだ。
もちろん、全ての人が不真面目に生きる必要はないが、りょうちんにそれがあったら鬼に金棒かなと思っている。そんなりょうちんが『鬼滅の刃』を分析した本を書き、献本してくれたので早速興味を持って読んでみた。以前にこのメルマガでも書いたが、ぼくは『鬼滅の刃』のマンガは好きだが、アニメはあまり好きにはなれなかった。それでもそのヒットの構造には興味があったので、ぼくの興味にまさにどんぴしゃの本でもあった。
読んでみて思ったのは、やはりとても真面目な内容だな――ということだ。しっかりとデータを集め、研究者らしく徹底的に客観的に読み取ろうとしている。
こういう地道な仕事をしてくれる人はありがたいし、世の中に絶対に必要である。ただ、正直にいうとこういう仕事はそのうち大部分がAIに取って代わられるとも思う。データを集めて客観的な分析をするだけだったら、むしろ機械の方が得意なこともあるだろう。だから、りょうちんにはやっぱり「その奥」へ行ってほしいと思った。
この本は、データベースとしては非常に有効だが、「その奥」が描かれていない。この作品はまず若者がハマって、それがやがて子供にも伝播していった――という構造が説明されているのだが、ではなぜそれが「大正」という時代を舞台にしていたのかとか、あるいは「鬼」という敵の概念はどのようなもので、どのように構築されたか?――といったところまでは言及されていない。
「大正」や「鬼」というのは、現代の子供たちにはほとんど親和性がないだろう。それにもかかわらず、現代の子供たちはなぜこの作品が好きになったのか?――というのは実に興味のあるところだが、そこまでは考察されていない。
おそらく、それを考察するには「心理学的」なアプローチが必要なのだ。そして心理学というのはきわめてデタラメな学問なので、今のりょうちんには最も必要なものかも知れない。
りょうちんには、ぜひ修士を取るとはいわないまでも、それなりの深度で「心理学とは何か?」ということを勉強してもらいたい。そうすれば、彼女のアニメ研究はもっと深度を増すのではないか。
りょうちんは、不思議なことに自分自身を軽視するところがある。そのため、自分自身を客観的に見られていない。「軽視する」というのは客観的に見ているようで、実はその反対だ。きわめて主観的な見方なのである。
そのため、りょうちんは自分のことをよく知らない。まず「なぜ自分はアニメを見るのか?」ということを徹底的に分析していない。おそらく「幼い頃、アニメが友だちだったのですよ」くらいで終わっている。あるいは、「好きなアニメがあったんですよ、そこからハマりました」くらいにしか考えていない。
ぼくは違う。ぼくはもっと自分をよく知っている。自分を知るというのは、、もっと深く自分の好みを分析するということだ。
例えばぼくは、子供の頃にアニメが好きだったが、その中でも好き嫌いがあるということがやがて分かった。最初は『マジンガーZ』や『デビルマン』なども楽しんで見ていたが、次第に飽きてきた。『宇宙戦艦ヤマト』もそれほどハマレなかった。
一方で、強烈にハマったのが『アルプスの少女ハイジ』と『母をたずねて三千里』だった。『ルパン三世』も好きだった。なぜか『侍ジャイアンツ』も好きだった。そして生まれて初めて『未来少年コナン』を見たとき、世界がひっくり返った。ぼくがまさに好きな世界がそこに展開されていたからだ。
後になって分かったのは、これらは全て宮崎駿がかかわっていたことだ。意外なことに、『侍ジャイアンツ』にも少しだけかかわっていたのだ。
そこから分かったのは、ぼくはアニメが好きなのではなく、ジブリでもなく、宮崎駿が好きだ――ということだ。彼のことを、アニメーターという存在すらまだ認識できない6歳の頃から、強烈なファンとして追いかけていた。
というふうに、自分の意識を超えた好みまで、ぼくは自分自身を心理学的に分析している。それが「自分を客観的に見る」ということであり、りょうちんにもそれをぜひしてみてほしいとこの本を読んだ思った。
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