70年代まで、日本では(あるいは世界でも)大多数の人が「無意識」に生きていた。しかし70年代の10年間を通して、徐々に意識的な人が増え、1980年代になると、その割合が逆転した。

それは、当時の流行歌に暗示的に現れている。例えば『北の宿から』という70年代を代表するヒット曲があるが、これは70年代のちょうど半ば、1975年のヒット曲だ。
面白いことに、この曲は「無意識人間」から「意識人間」への変身を示唆している。無意識的な内容で始まりながら、やがて意識的な内容へと変化するのだ。

まず、一番の歌い出しが、
「あなた変わりはないですか/日毎寒さがつのります」
である。
これは、いわゆる手紙の「定型文」だ。誰でも真似をすれば書けるもので、つまりは「無意識」人間のためのツールである。

ところが、この曲の2番の歌い出しはこうである。
「あなた死んでもいいですか/胸がしんしん泣いています」
言うまでも