浅田真央さんは、個人戦の前半、ショートプログラムで大きく出遅れ、後半のフリーで自己ベストの見事な演技を見せた。それを見て、この結果には、真央さんの無意識が発したある一つの「メッセージ」が込められているのではないか――そう思ったのだ。
ところで、以前、面白い話を聞いたことがある。それは、「遅刻をする人」というのは、基本的にいないらしい――ということだ。いや、もちろん電車が遅れるといった外的理由で遅刻をする人はいるだろうが、寝坊やうっかりなど、内的理由で遅刻をするようには、人間はそもそもできていないのだという。
人間は、誰でも本質的には時間をちゃんと守れる生き物なのだそうだ。その証拠に、会社にはいつも遅れてくる人が、ゴルフなどにはいつも一番乗りで来るというのは、よくある話だ。
ではなぜ、人は寝坊やうっかりで遅刻するのだろうか?
それは、その人の無意識に「行きたくない」という抑圧が働いて、その作用で遅刻してしまうのだそうである。それが例えば会社に遅刻するのだとしたら、それは軽度の出社拒否だというのだ。
それを聞いて、ずいぶんと腑に落ちた。ぼく自身は、意識と無意識のずれが比較的少ない方なので、寝坊やうっかりで遅刻するというのがほとんどない。
しかし、ぼくの知人に遅刻の常習犯がいて、「なぜいつも遅刻するのだろうか?」と不思議に思っていたのだが、「深層心理ではそこへは行きたくなかったのだ」と解釈すれば、いろんなことが腑に落ちたのである。
その彼は、もともと気が弱く、気の進まないことにも嫌とは言えない性格であった。そのため、行きたくないところにでもつい「行く」と返事をしてしまうのだけれど、その結果が、遅刻という形で表れているのだった。
しかも、彼は意識と無意識との乖離があるため、自分自身では「自分がそこへ行きたくない」ということには気づけていなかった。それが、彼をして遅刻の常習犯たらしめていたのである。
翻って、浅田真央さんである。
ぼくは、彼女を何度か取材した経験から、彼女がもうずっと、点数や順位にはこだわっていないことを知っていた。バンクーバー以降、点数や順位で一喜一憂したことは一度もなかった。彼女は、勝っても自分の納得いく演技ができていなければ不満そうだったし、負けても自分の納得いく演技ができていれば満足そうに微笑んでいた。
そうして、彼女はソチを迎えたのである。そこでも彼女は、基本的には点数や順位を気にせずに滑りたいと思っていた。それとは無関係に、自分の納得いく演技をすることだけに集中したいと思っていたはずだった。
しかし、それができなかったのだ。それは、
コメント
コメントを書くあ...すごく腑に落ちる。
そうかもしれないですね。
あと、修験者みたいな雰囲気を1人だけ醸し出していたのがとても印象的でした。
すごく良い仮説。
これは日本中のいろんな人に読んでもらいたいです。
さすが!の素晴らしい記事!
SPの後にTwitterで#GoMaoのハッシュタグを作ったのは、ウズベキスタンのミーシャ・ジー選手です。四回転無しで世界に勝った最後くらいのスケーターのジェフリー・バトル氏も、Twitter上でFSでの彼女への応援を呼びかけました。高橋大輔選手はSPを見て涙し「まだおわったわけじゃないから」と語りました。
スケーターで彼女に熱い支持をよせる人々には男子スケーター、そして若い世代の女子スケーターが多いです。
男子の場合、長らく四回転ジャンプが冷遇されてきましたから…それでもアスリートとして自らの限界に挑み、また競技の新しい地平を拓くために挑戦を続けたのです。失敗して評価が下がろうと多くの男子スケーターが挑みました。選手生命を縮めた人もいますが、彼らは挑戦を決して悔いていません。そして今も挑み続けています。
浅田選手は「夢追い人」だと思います。そして、スポーツなのに「挑戦が出来ない」現ルールへの苛立ちを隠さない人々(それが彼らなりの競技愛といいますか)のアイドル。勝ちを要求する人々にとっては裏切り者かも知れません。しかし、個人的には競技ファンとして浅田選手の肩を押したい思いは棄てられないのです。