佐村河内守さんの記者会見を見て、「物語圧力」をめぐるいろいろなことが見えた。
今回は、そのことについて書いてみたい。


佐村河内さんの会見で面白かったのは、居並ぶ記者が「本当は聞こえるのではないか?」という予見に基づき、質問をしていたことだ。――というより、無理矢理にでもそういう物語に当てはめようとしていた。そういうバイアスが、あの記者会見場に充満していたのである。

なぜそういうバイアスがかかっていたかというと、その方が「面白い」からだ。その方が物語として分かりやすいし、シンプルだからである。
つまり、佐村河内さんがどこまでも嘘つきで、今この場でもまだ嘘をつき続けている――というシンプルで分かりやすい物語に、記者会見そのものを収斂させようとしていたのだ。

しかし、事実はそうそう面白くはない。佐村河内さんの耳は本当に聞こえていなかった。
そういうあまり面白くない物語こそが、ほとんどの場合「事実」なのである