前回、競争というものには、絶対的な価値を競うものと、相対的な価値を競うものとがあるという話をした。
ただこの両者は、明確に区分されるわけではない。競争というのは、どんなものでも絶対的な価値と相対的な価値が入り交じっている。
例えば、オリンピックの100メートル競走でいえば、たとえ20秒かかったとしても、同じレースでそれより速く走る人がいなかったら金メダルである。これなどは、絶対的な価値の低さと、相対的な価値の高さが同居しているといえよう。

陸上競技というのは、絶対的な価値というものが「記録」という形で比較的見えやすいために、相対的な価値とのバランスを計るには格好のモデルだ。
特に、1991年に東京で行われた世界陸上で、カール・ルイスとマイク・パウエルがくり広げた走り幅跳びの競争は、絶対的価値と相対的価値とが相互に顔を出しながら、まだら模様を描いていて見応えがあった。

この試合は単に見ているだけでも面