Vol.284 結城浩/仕事の心がけ/レトリカル・クエスチョンと対話の難しさ/自己肯定感/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年9月5日 Vol.284

はじめに

おはようございます。結城浩です。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

もう九月ですね!

ここ数日は急激に寒くなり、 「もう秋なんだなあ」と思うことが多くなりました。

あなたは、いかがお過ごしでしょうか。

 * * *

note(ノート)の話。

2017年9月1日から、この「結城メルマガ」を、 note(ノート)の継続課金マガジンでも配信するようになりました。 これで、

 ・まぐまぐ!
 ・ニコニコチャンネル(ブロマガ)
 ・note(ノート)

という三つの配信プラットホームのどれでも「結城メルマガ」 を講読できるようになりました。

 ◆結城メルマガ
 http://www.hyuki.com/mm/

内容は同一ですので、 読者さんの立場からすると複数の講読をする意味はありません。 しかし、先週もお話しした通り、 配信スタイル(コンテンツのデザインなど)は異なりますので、 自分に合ったプラットホームを選択できるメリットがあるといえます。

note(ノート)での配信には「初月無料」というサービスがあります。 購読開始した月で試し読みを続け、その月が終わる前に講読解除すれば、 まったく課金されません。言い換えると、 ひと月分は無料で読めるということです。 電子的なコンテンツは紙の本のような「立ち読み」が難しいので、 このような「初月無料」サービスはいいですよね。

現在「結城メルマガ」をnote(ノート)以外で読んでいる方も、 ぜひこの「初月無料」サービスをご利用いただければと思います。

 ◆結城メルマガ - note(ノート)
 https://mm.hyuki.net/m/m73f865053b52

配信開始してからまだ一週間も経っていないのに、 すでに、数名の方が講読開始してくださっています。 ありがとうございます!

 * * *

筆記具の話。

結城は筆箱(ペンケース)を持っていません。

ほとんどの書き物はMacBookとiPhoneで行うからでもありますし、 あまり高価な筆記具を持たないからでもあります。

ボールペンや安価な万年筆をたくさん買い込んでおき、 かばんの中のポケットにざらざらと入れています。 何か手で書きたいなと思ったら、かばんに手を突っ込んで、 最初に手に触れた筆記具を使って書きます。

そのくらい大ざっぱ。 そのくらいこだわりなしです。

何だかだらしないようなイメージを受けるといやなので、 念のため言い訳を書いておきますね(小心者)。 結城は筆記具にこだわることよりも、 書き始めまでのスピードを重視しているのです。

自分のお気に入りの筆記具でなければ書けないとすると、 筆記具を探す時間が必要になります。 ペンケースの中に筆記具を入れていたら、 書き始める前に「ペンケースを開ける動作」のための時間が掛かります。 それがいやなのです。

結城はかばん以外にも筆記具をあちこちに置いています。 食卓のまわりにはボールペン数本が必ず置いてありますし、 もちろん自宅の机にもボールペンが散らばっています。 寝床のまわりにもありますね。

そんなふうにあちこちに筆記具を置きたいので、 高価な筆記具は避けたいのです。 筆記具は消耗品だし、なくなっても気にしない。 そんな感覚を持っています。

筆記具にはこだわりませんが、 書かれたものの方にはこだわります。 ていねいに考えて書きますし、 そして、書き終えたものはすべてiPhoneで撮影し、 なくならないようにEvernoteに入れておきます。 何に分類されるかわからないメモもたくさんありますが、 とりあえず撮影して保存します。

未来の自分がこのメモを活用してくれたら楽しいな、 と思いながら。

 * * *

文字の混乱の話。

『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』を執筆したときに、 「文字の使い方」でかなり悩んだ部分があります。

積分に出てくる「区分求積法」という面積の求め方を説明するときには、 実際の面積よりも「小さい数」と「大きい数」で《はさみうち》を行います。

実際の面積を表す文字として「S」を選んだとします。 面積はSで表すことが多いので、これは自然です。

Sよりも小さい数を表す文字として「より少ない(Less)」から「L」を選び、 大きい数を表す文字として「より多い(More)」から「M」を選びます。

このような文字選択は自然なのですが、ちょっと困ったことがあります。 それは、

 L < S < M

という不等式になってしまう点です。 実際は以下の図のように添字がついて L_n < S < M_n ですが、 細かい話はさておきます。

 ◆『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』の一部

2017-09-04_lsm.png

L < S < M という不等式は、見方によっては不自然です。 なぜなら、洋服のサイズを考えると、 Lはラージ(大)、Sはスモール(小)、Mはミディアム(中)ですから、

 S < M < L

という順番の方が自然だからです。

説明の文章を書いているとき、 このような「文字の混乱」はときどき起きます。 何しろアルファベットは26文字しかありませんから、 どうしようもないのです。

小さい方はS'として、 大きい方はS''のように「記号」を付加する手もあります。 しかし、微積分では「'」は別の意味を持ってしまいますし、 そもそも、文字に記号を付加すると必要以上に 「難しい数式」っぽくなってしまいますので、 それは避けたいですね。

結局、悩んだ末に、

 L < S < M

という順番で押し切ることにしました。

ちょっと似た話として、 コンビニのコーヒーマシンについているボタンの文字があります。

普通サイズのコーヒーを「レギュラー(R)」として、 大きいサイズのコーヒーを「ラージ(L)」としましょう。

このときコーヒーのサイズ順にボタンを並べると、

 (R) (L)

になりますが、これはたいへん奇妙です。 なぜかというと「左(L)」側に(R)のボタンが来て、 「右(R)」側に(L)のボタンが来るからです。 これもまた不幸な「文字の混乱」です。 このコーヒーマシンの場合には、 普通サイズを(小)とし、 大きいサイズを(大)とでもすればいいのでしょうか。 でも、それだと、 「普通サイズ」が「小さい」という印象を与えてしまいますので、 お店としては避けたいでしょう。うーん……

このような「文字の混乱」を避ける万能の方法はありません。 《読者のことを考える》という原則を踏まえつつ、 自分がいま書いている文章ではどれがいいかを考える必要があるのです。

 * * *

理解できるように説明する話。

結城は、幼稚園か小学一年くらいのころに、

 「10円と5円を合わせると15円になる」

ということがどうしても理解できませんでした。 理解できなくて、くやしくてくやしくて泣きじゃくり、 懸命に説明してくれた姉と祖母を困らせたことがあります。

 姉「ここに10円があるとするの、わかる?」
 私「わかる(頷く)」
 祖母「それからここに5円を置くの、わかる?」
 私「わかる(頷く)」
 姉「で、合わせると15円になるの」
 私「わかんないようっ!(泣く)」

姉も祖母もていねいに教えてくれたと思うのですが、 「10円と5円を合わせると15円になる」 という基本的なことを教えるのは難しいですよね。

当時の結城も幼くて、

 「何がわからないのか」
 「どうして理解できないのか」

を自分の言葉で表現できなかったわけでしょうし。 そして、泣きじゃくった理由の一部には、 「何がわからないかすら説明できない悔しさ」 も含まれていたと思います。

もしかしたら、その経験を通して私は

 ・相手が理解できるように説明することは大事
 ・どこがわからないのか、当人が説明できるとは限らない

ということを深く理解したかもしれません。そしてそれは、 現在の仕事のどこかに役立っているかもしれませんね。

少し似た話で、小学一年生になった結城は、 「十二」を「102」と書いて、 先生に「違いますよ」と言われたことがあります。 このエピソードは『プログラマの数学』に書きました。

「位取り記数法」を知らなかったんですね、私は。

 ◆『プログラマの数学』
 http://www.hyuki.com/math/

 * * *

女の子の話。

ある朝、結城が駅まで歩いていると、 向こうの方から小さな女の子が歩いてきました。

その女の子は、 キャラメルの箱をスマートフォンに見立てて、 「画面」をタップしてから耳に当てます。 そして、おすまし顔で、

 「もしもし? あのことだけどね…」

と言いながらトコトコ歩いてくるのです。 忙しいビジネスウーマンのようなそぶりで。

ところで、そのすぐ後で、 今度は大人の女性が歩いてきました。

その女性は、 本物のスマートフォンを耳に当て、 キリッとした表情で、

 「メール読みました。その件ですが…」

と言いながら歩いてきます。

まるでプチ・ドラマを見ているようで、 ほっこりした朝の出来事でした。

 * * *

それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。

どうぞ、ごゆっくりお読みください!

目次

  • はじめに
  • note(ノート)での配信開始にあたって - 仕事の心がけ
  • レトリカル・クエスチョンと対話の難しさ
  • 自己肯定感について
  • おわりに