Vol.370 結城浩/AI技術の進化にともない教育はどうあるべきか/不安ばかりが先行して行動できない/プログラムを作るのが苦手/再発見の発想法/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2019年4月30日 Vol.370


目次

  • 座学は得意だがプログラムを作るのが苦手 - 学ぶときの心がけ
  • 不安ばかりが先行して行動できない
  • 点数が低いと名前が貼り出されてしまう - 学ぶときの心がけ
  • AI技術の進化にともない教育はどうあるべきか - 学ぶときの心がけ
  • パレートの法則 - 再発見の発想法

はじめに

結城浩です。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

* * *

古いWebページの話。

先日、Webサーバの古いファイルを整理していました。1997年ころにイギリスに家族旅行したときの記録です。整理といっても削除するわけではありません。HTMLの書き方があまりにも古かったので、

  • 適切なCSSを指定して読みやすく
  • スマートフォンからも読みやすいようにレスポンシブデザインに
  • 文字コードをシフトJISからUnicodeに

という修正をしたのです。なんということでしょう、ちょっと修正するだけで驚くほど読みやすくなるのです。以下にビフォー・アフターのスクリーンショットを示します。

◆ビフォー

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◆アフター

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◆イギリス旅行記
https://www.hyuki.com/tripeng/

現在はホテルでインターネットを使うというのはまったく当たり前のことですし、WiFiが自由に使えるのも当然です。でも、1997年のこの時代はホテルのアナログ電話線のケーブルに直接モデムを繋いで通信を工夫していたのです。時代ですねえ。

* * *

ことわざの話。

「たくさんの実例を受け取って、そこからパラメータの適切な値を定めていき、たとえ、いままで見たことがなくてもそれなりに振る舞えるように調整していくというのは……」

「わかった!『郷に入れば郷に従え』だね!」

「違うよ」

「じゃあ『朱に交われば赤くなる』かな?」

「違うよ。『機械学習』だ」

* * *

30年後の日本の話。

「30年後の日本はどうなっていると思いますか」という質問をいただきました。

結城には、まったく想像もつかないです。30年前(平成元年、1989年)の時点でいまの日本の状況が想像つかなかったと同じように、30年後の日本は想像がつかないです。想像付くことといえば、30年後に結城自身がこの世にいない可能性はだいぶ高いということくらい(85〜86歳なので……)。

30年前というと、iPhoneが登場する18年前。i-modeが登場する10年前。日本のインターネットが生まれてから5年後。そんな時代に、現在のスマートフォンが生活に浸透している状態は予想できなかったです。それと同じような変革が30年後までにはあってもおかしくないですね。

Wikipediaで30年前の日本の出来事を調べてみました。

  • オフコース解散。
  • 富士通が「FM TOWNS」発表。
  • 新宿駅・渋谷駅にJR初の発車メロディを導入。
  • 消費税法施行。消費税率は3%
  • 「ゲームボーイ」が発売開始。
  • 『スター・ツアーズ』がオープン。
  • 村上春樹『ノルウェイの森』

30年後の日本がどうなっているかは想像も付きませんが、でもきっと30年後の世界でも、線形代数と微積分が重要であることは変わらないと予想します。逆行列を理解しようとする学生さんや、εδ論法に悩んでいる学生さんがいるでしょう。

ところで、30年前・30年後に関連してこんなことを思いました。

それは「〇〇は役に立つのか」という問いが出たときには「〇〇が役に立つ有効期間」を考えてみるのは良い習慣だということ。比喩的にいうなら、役に立つかどうかは瞬間でわかるものではなく、時間で積分した結果でわかるものだということ。

「ものすごく役に立つけど短い期間しか役に立たないこと」なのか「ほどほどにしか役に立たないけどそれが一生続くこと」なのか。どんな知識や経験も、有効期間があるものです。目の前の「役立ち度」だけに注目するのではなく「○○が役に立つ有効期間」にも注目する。

若いときほど長期的に役に立つ知識や技能を大切にしたいものです。歳を取ってくると、すぐに役立つ知識や技能がうれしいかもしれません。あなたはどう思いますか。

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じっくり考える話。

私たちはしばしば「じっくり考える」という表現を使います。「大事なことだからじっくり考えないといけない」のような表現はふつうに見聞きしますよね。

ところで「じっくり考える」といったときには二つのパターンがありそうだなと思いました。

一つは「考えているあいだ、結論を定めないようにするパターン」で、もう一つは「すぐに暫定的な結論を出すけれど、それを最終的な結論とはしないパターン」です。

どちらのパターンが正しいか、という話ではありません。考える内容によってどちらの場合もあるはずです。

先入観を避けたいときや、少しでも結論を出してしまったら後から変えるのがとても難しいときには「考えているあいだ、結論を定めないようにするパターン」がいいでしょう。

後から修正は効くけれど、ともかくいますぐに何らかのアクションを取らなくてはいけないときには「すぐに暫定的な結論を出すけれど、それを最終的な結論とはしないパターン」がいいでしょうね。

「じっくり考える」ときに、どちらか片方のパターンしかできないとしたらよろしくありません。一回決めてしまったらひっくり返せないのに、暫定的な結論をうっかり口にして失敗する場合があります。逆に、すばやく方向性を決めなくてはいけないのにモタモタする失敗もあるでしょう。

結城の場合、一人でプログラムや文章を書いているせいもあって「すぐに暫定的な結論を出す」というパターンをよく使います。プランAとプランBがあるけれど、どっちにしようかなと考えるとき、まずはプランAでいくか!と考えて進む。プランAを進めながら、この方向でいいのかなと「じっくり考える」ことを続けるのです。まちがったとなったら戻ればいい。プランBに切り換えればいい。

しかし、他の人が絡んでくると「すぐに暫定的な結論を出す」というのは非常に危険です。他の人の作業がごっそり無駄になってしまう可能性があるからです。「このあいだ、プランAで行くって決めたじゃないか!」というトラブルがいかにも起きそうです。

「じっくり考える」と決めたときには、この「じっくり考える」とはどういう意味なのかに注意した方がよさそうですね。

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平成の話。

2019年4月30日は平成最後の日ですね。

自分の仕事を振り返ってみると、結城がこれまで書いてきた51冊の本はすべて平成の時代に書かれたものであることに気付きました。

◆結城浩の著書一覧
https://www.hyuki.com/pub/books.html#pubs

「主な著書を書いた年」と「シリーズを開始した年」を表にするとこのようになります。

◆「主な著書を書いた年」と「シリーズを開始した年」の表

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この表に年齢も入れたのは「本を書きたいと思っているけれど、年齢を理由にためらっている人」にエールを送りたいからです。

結城が最初の本『C言語プログラミングのエッセンス』を書いたのは30歳のときでした。「数学ガールの秘密ノート」シリーズを開始したのは50歳の年でした。31歳のときに書いた『C言語プログラミングレッスン』の改訂版を56歳になる今年に出版しました。

人生は長いようで短いもの。年齢がどうであれ、題材が何であれ、もしもあなたが「本を書きたい」と思っているなら、ぜひ令和の時代に本を書いていきましょう!

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最新作の話。

令和の時代、結城が最初に出版する本は『数学ガールの秘密ノート/ビットとバイナリー』です。

ようやく第4章までレビューアさんに送付できました。ここまでの章に関するレビューメールもぞくぞくと届き、執筆はまさに佳境です。

あとは、第5章とエピローグ。がんばって書いていきます!

◆『数学ガールの秘密ノート/ビットとバイナリー』
https://bit.ly/hyuki-note11

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では、今回の結城メルマガも、どうぞごゆっくりお読みください。