結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2013年6月18日 Vol.064
はじめに - マシンが壊れた!
おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
先週から今週に掛けて(私にとっての)最大のニュースは、
『数学ガールの秘密ノート/式とグラフ』がアマゾンで予約開始!
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になるはずだったのですが、個人的には、
「自分がいつも使っているマシンが壊れた」
ことの方が大きな影響を与えるニュースとなりました。
結城がふだんやっている文章書きの仕事というのは、 ノートパソコンと身体一つがあれば場所を選ばずに どこでもできるはずです。原理的には。 でも実際には補足すべき条件があります。
ノートパソコンが一台
あればいいのではなく、
(自分用によくチューンナップされた)ノートパソコンが一台
あればいい、なのですね。
結城が使っているWindowsマシンはLenovoのThinkPadです。 ちょうど一週間前、起動した直後から反応がおかしくなりました。 簡単なアプリは起動するのだけど、EvernoteやFirefoxなど 仕事で使うアプリがのきなみハングアップしてしまいます。
「まあ、再起動すればよくなるだろう」
という目論見もむなしく、再起動しても状況は変化せず。 長い話を短くすると、水曜日に修理に出すことになって しまいました。
* * *
マシンを修理に出したとしても〆切はやってきますので、 仕事の環境を整える必要があります。 さいわい、最近の仕事環境はクラウドに大半おいてありますので 非常用に確保した代替マシンに移すのはそれほどたいへんではない と判断しました。
代替マシンというのは子供がふだん使っているThinkPadです。 子供が学校に行っている間使わせてもらうことにしました (このあたり、ちょっと情けないですね)。
「クラウドに仕事環境を置いてある」というのは、 具体的にどういうことかというと、 資料のような長期的に使うものはDropboxに、 普段書いている原稿ファイルはSugarSyncに、 自分のアイディアメモはEvernoteにおいてあるという意味です。
Dropbox, SugarSync, Evernoteというサービスを利用して、 必要なファイルは常時サーバ上においてあります。 ですから、たとえ自分が使うマシンが切り替わったとしても、 サーバから新しいマシンにファイルを持って来れば シームレスに作業は継続できることになります。
また、代替マシンで行った作業(具体的にはファイル内容の変更) も常にクラウド側に反映されますから、 修理されたマシンが返ってきた後もシームレスに 作業が継続できるはずです。
…はずでした。
でも、現実世界はなかなかそううまくはいかないのが常。
* * *
最初にお断りしておくと、クラウドを使ったことで、 代替マシンへの移行が容易だったのは事実です。 マシンが壊れる前、ふだんからクラウドを使っているので、 その点については移行でパニクることもありません。
問題は、クラウドに入れていないファイルがいくつかあったことです。
・アプリケーションの設定ファイルやレジストリ
・よく使うバッチファイルや小さなツール類
・銀行関連のセンシティブなファイル
以上のファイルはクラウドに入れていませんでした。 そして、そのことを自分で気づいていませんでした。 マシンを修理に出すということになり、
「えっと、このマシンがなくなってもほんとうに大丈夫なのかな?」
と改めて「真剣に」考えて初めて、 不足しているファイルの存在に気づいたのです。
上記のファイルは外部ハードディスクに保存することにしましたが、 いざやろうとしてみると、マシンが壊れかけているため なかなか作業が進まない! これには焦りました。
もう一つの問題は代替マシンがいささかパワー不足だったことです。 ファイルとしては移行が済んだのですが、いざ外で作業してみると 電池の持ちが悪い…。ということで、これまでとは異なる仕事の 進め方をしなくてはならなくなりました。
* * *
クラウドは便利だが、忘れていたファイルがあった。 代替マシンはパワー不足。 ということですが、マシンが壊れて気づいた「良いこと」もあります。
まず、前倒しで仕事をせざるを得なくなったこと。 予想外の状況に備えて、早め早めに動いて仕事を進めるようになりました。 夕方から夜にかかることも多いWeb連載の準備が早めに済みました。 はからずも、強制的に〆切が作られたような状況でしょうか。
「早目に終わらせる気になればできるじゃないか。
ふだんどれだけ集中力を落としてやってるんだ」
と自分に言いたくなりましたよ(苦笑)。
それからもう少しデリケートな「文章の書き方」への影響もありました。 文章をばたばた書いて、ばたばた直すといういつものパターンをちょっと変えて、 一呼吸分だけ文章を頭で練ってからエディタに吐き出すというパターンになりました。 ふだんと違う環境で書かざるを得ないので、 強制的に「無駄な動きを減らした書き方」の練習をさせられている感じでしょうか。
文章は何度も読み返して直しますから、 結果的にはいつもと同じ文章ができあがるのですが、 その第一歩をちょっぴりていねいに踏み出す感覚です。
その結果として、正確に測っているわけではありませんが、 トータルの文章執筆時間が短くなったように思います。
いつもは、ファイルのあちらこちらを参照しながら書いている文章を、 足元からじっくり固めて書いている感覚です。
(なんだかわかりにくくてすみません。 具体例を挙げるとわかりやすいんですが、 それはいつか「フロー・ライティング」のコーナーででも)
* * *
ThinkPadが壊れたのは6月11日でした。 奇しくもAppleの新製品情報が公開されたWWDCの直後です。 結城が「MacBook Airがまたほしくなったなあ」とつぶやいた 直後にThinkPadが壊れてしまったのです。
家内にこの話をしたら「すねて機嫌が悪くなったのね」と笑っていました。
そうかもしれません。
マシンを修理に出すことになって、なんとなく(?)Apple Storeの サイトを眺めているうちに、新しいMacBook Airが欲しくなりました。 家内に購入の「予算申請」を打診してみたところ、
・お仕事で使う機械だし、
・今回のように使っている機械が壊れたときの対処は必要でしょ!
ということで、購入許可が下りました。 まあ確かに、お仕事のマシンが壊れたときに、 子供にマシンを貸してもらうというのはまずいですよね。 緊急時の対処としてはさておき…
* * *
さて、ながながと書いてきましたが、マシンが壊れたことで
・ふだん気づかなかった重要ファイルの存在に気づき、
・いつもと違う書き方を強制されることで文章を書く訓練になり、
・新しいMacBook Airがやってくる!
という素敵な展開になった一週間、というお話でした。
* * *
マシンの修理とMacBook Airの到着を待ちながら、 今回の結城メルマガは子供の代替マシンで書いています。
さて、今回の結城メルマガは先週の予告から変わって、 「数学ガールの誕生(9)」をお送りします。 それでは今回も結城メルマガをお読みください!
目次
- はじめに - マシンが壊れた!
- 本を書く心がけ - 講演「数学ガールの誕生」(9)
- Q&A - 思ってもいない言葉を相手に投げかけてしまう自分
- 次回予告 - 講演「数学ガールの誕生」(10)