Vol.160 結城浩/少女アルファの冒険 - 結城浩ミニ文庫/若いときに学ぶ/合理性の行き着く先にあるもの/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年4月21日 Vol.160

はじめに

おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

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新刊の話。

先週から今週にかけて全国の書店さんに、新刊

 『数学ガールの秘密ノート/微分を追いかけて』
 http://note5.textfile.org

が並び始めました。いやあ、ほんとにうれしいです。 特にここ数年はTwitterを通してリアルタイムに読者さんの声が聞こえるので、 うれしくてうれしくて…感謝の気持ちでいっぱいになります。

今回はいつものように結城の《サイン本》がいくつかの書店さんに並びました。 また、紀伊國屋書店さんの店舗では、結城が描いた《メッセージカード》特典が、 秘密ノートシリーズにつくというイベントも行われています。

《サイン本》のほうはもうほとんど完売になってしまったと思いますが、 紀伊國屋書店さんの《メッセージカード》特典のほうはまだ残っているはずです。 もしも機会がありましたらよろしくお願いいたします。 詳細は以下のページでアナウンスしております。

 ◆紀伊國屋書店さんにて結城浩の《メッセージカード》特典付き書籍販売
 https://bit.ly/note5kino

《サイン本》は結城が一冊一冊描くので、冊数がどうしても限られますが、 《メッセージカード》は多くの方に楽しんでいただけるので、 もしも今回好評だったら、次回以降も行いたいなあと思っております。 (企画は私の一存で決まるわけではありませんけれど)

もちろん、《サイン本》や《メッセージカード》があってもなくても、 書籍の内容に違いはありません。ただ、少しでも多くの人に楽しんでいただき、 新刊を知っていただき、読者さんが楽しく数学の魅力に触れてくれればいいなあ、 とそのように思っています。

 * * *

電子書籍の話。

さて「数学ガールの秘密ノート」シリーズの5冊のうち、 新刊発売に合わせて、まだ電子書籍化されていなかった以下のものが、 Kindle版として配信開始しました。

 ◆『数学ガールの秘密ノート/丸い三角関数』
 http://note3.textfile.org/

 ◆『数学ガールの秘密ノート/数列の広場』
 http://note4.textfile.org/

まだ「微分を追いかけて」は電子書籍化されていませんが、 編集部のほうでは電子書籍化のための準備を進めているはずです。 どうぞお楽しみに!

それにしても、2007年に最初の『数学ガール』(無印)が出版されてから、 今年で8年目です。 「数学ガール」シリーズが5冊、「数学ガールの秘密ノート」シリーズが5冊。 プラス『数学ガールの誕生』という講演集が1冊。 コミックスが全部で7冊。そして英語版、韓国語版、中文繁体字版……8年のうちに、 ずいぶん世界が広がりました。

これはもちろん読者さんの応援あってのことですけれど、 根底に「数学という学問の持つ豊かさ、美しさ、魅力」 があるからではないかと思っています。

自分が「これはいい!」と思うことを「本」という形にすることができて、 ほんとうによかったと思います。 一冊目を書くときには、8年後にこれほど世界が広がるとは、 まったく想像すらしませんでしたから!

まだ海のものとも山のものともわからない状態であっても、 一つ一つの仕事をしっかりやることがいかに大事か、 改めて感じている次第です。

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電子書籍でメモを取る話。

先日ある方に教えていただいた「kindleを使った効率的な読書メモの取り方」 という動画が興味深い。Kindle版の本を読んでハイライトした箇所を、 まとめて読書メモのように管理する方法とのこと。

 ◆kindleを使った効率的な読書メモの取り方
 https://www.youtube.com/watch?v=3HH-A1kAef4

要点は、kindle.amazon.co.jp にログインして、 "Your Hilights"というリンクをたどると、 自分がKindle本で付けたハイライトをまとめて見ることができるということ。

 ◆Your Hilights (amazon.co.jp)
 https://kindle.amazon.co.jp/your_highlights

結城はKindleに限らず、「自炊」してPDFにした本を多数持っています。 メモを取るときにはスクリーンショットをとり、 画像としてEvernoteに保存することが多いかもしれません。

このKindle本のハイライトをまとめて見ることができる機能は、 なかなか便利ですね。

 * * *

息子に数学を教える話。

この春休み、今度高校一年生になる息子に数学を教えていました。 息子の書いた答案を見ながら、結城はこんなことを言いました。

「数学の答案は小論文なんだよ。 自分が何をどんなふうに考えたかを相手に伝えるために書く。 計算の羅列を見せるために書くんじゃないんだよ」

そう言いながら(これってどこかで聞いたようなセリフだな)と思っていました。 検索してみると、大阪府立大学の嘉田勝先生の以下のツイートでした。

 「数学の試験答案は作文というか小論文という意識を、
 受験生も大学生も持ってほしいなあ。」
 https://twitter.com/kadamasaru/status/572376996149272576

さらにさらに(自分もどこかに書いてた記憶があるな)と思い、 記憶をたぐってみると、 『数学ガールの秘密ノート/式とグラフ』の第2章(p.25)にありました。 高校生の「僕」が中学生の「ユーリ」に諭すセリフです。

 僕「問題を解いて解答を書くときには、読む人に対して、
   ・私は、こんなふうに考えました。
   ・だから、こんなふうに解いていきます。
   ・ほら、ちゃんと解けたでしょう。
   みたいにアピールするんだよ」

結城はよく、文章を書く原則として《読者のことを考える》といいますが、 数学の答案も同じであると思っています。 もちろん試験時間に限りがあるときには難しいかもしれませんが、 何かを「書く」という行為は必ず、 「書かれたものを読む相手」につながらなければいけません。

これは、深い話です。

何かを書くときには、かならず相手につながることを考える。 これは、相手とぺらぺら話すという軽い意味のコミュニケーションじゃなく、 もっと深い意味での「コミュニケーション」に通じると思います。

何のために書くのか。

そういう問いにも通じる話なのです。

 * * *

文章の話。

先日、

 「接続詞をなるべく使わない方がロジカルな文章が書ける」

という主張を見かけた。しかし、これにはいまひとつ納得しかねる。

 「接続詞を使わなくてもロジカルな構成がよくわかる文章を書こう」

ならば理解できるのだが。特に声高に議論をしたいわけではないけれど。

接続詞は大事な道具である。 文章を使って複雑な構造を作り出していくとき、 読者をきちんとナビゲートするために接続詞は有効である。

接続詞を適切に使うこと、そして使い過ぎないことは大事だ。 しかし、減らしたほうがロジカルになるわけではない。 文章をロジカルに整えた結果として接続詞が減ることはある。 もしかしたら、私が見かけた方は、そういうことが言いたかったのかもしれない。

たとえば(←接続詞登場)、 「しかし」が4個も5個も連続するような文章は何かがおかしいだろう。 論旨を見直して文章を整えれば「しかし」の数はグンと減る。

 「Aである。しかし、bである。しかし、Cである。しかしdである」

のような奇怪な文章は、

 「A、Cである。しかしb、dでもある」

みたいにシンプルになるかもしれない。

しかし(←接続詞登場)、 接続詞が減るのは《結果》であって《目的》ではない。 指標としてチェックに使ったり、 推敲の際に注意するポイントとして使うのはいいけれど、 減らせばロジカルになるわけではない。

 * * *

四月という季節。

新しい学校、新しい職場、新しい環境で、 新しい活動を始める人も多い。

ある人が「これまで学生だった人が、 TA(Teaching Assistant)になる」ことについて書いていたので、 ふと思ったこと:

生徒が教師に変わるときというのは、 いままで黒板に向かっていた人が黒板を背にするときである。 すなわち、いままで見てこなかった世界の半分を見始めるときなのだ。

「教えられる立場」から「教える立場」に変わる春。 その変化はどんなに大きな「学び」をもたらすだろうか。

 * * *

さて、それでは今週の結城メルマガを始めましょう。

今回は、すごく久しぶりに「結城浩ミニ文庫」をPDFでお送りします。 この企画は、結城のシリーズ化されていない《単発もの》の文章を、 「文庫本」ふうにまとめてお送りするものです。 中には実験的なものも混じっております。

今回は『少女アルファの冒険』というお話で、 中学生の女の子のお話です。 「算数ガール」に近いかもしれませんね。 PDFをダウンロードしてお読みください。

その他、 「仕事の心がけ」のコーナーで「合理性の行き着く先にあるもの」、 「学ぶときの心がけ」のコーナーで「若いときに学ぶ」 という読み物をそれぞれお送りします。

では、結城メルマガをゆっくりお楽しみください!

目次

  • はじめに
  • 少女アルファの冒険 - 結城浩ミニ文庫
  • 合理性の行き着く先にあるもの - 仕事の心がけ
  • 若いときに学ぶ - 学ぶときの心がけ
  • おわりに