Vol.174 結城浩/数学ガールの特別授業(ICUHS編)(4)/自分を発見する - 本を書く心がけ/中断の効用 - 文章を書く心がけ/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年7月28日 Vol.174

はじめに

おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

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偏差値の話。

ここしばらくWeb連載「数学ガールの秘密ノート」は「やさしい統計」シーズンです。 先週は、偏差値と標準偏差についての数学トークでした。

「偏差値」というのは現代日本で非常によく使われる単語ですよね。 偏差値について、受験に関わる人はいつも意識していますし、 へたすると大学に入ってからも意識するかも。 でも、意識している人数に比べたら、 偏差値の「定義」をきちんと言える人数はずっと少ないはず。 今回のミルカさんはそのあたりをきちんと突いていましたね。

 ◆第124回 散らばりの驚き(後編)
 https://bit.ly/girlnote124

世の中にはそういうことは意外と多いです。 ふだんから気に掛けているけれど、正確な定義を知らない概念。 正確な定義を知らず、その意味を明確に理解しないまま、 一喜一憂するというのは考えてみればおかしなものですね。

などと上から目線で書きましたが、 結城自身、今回の「やさしい統計」シーズンを書いてみて、 初めて正確に偏差値の意味を学ぶことができました。 そしてその偏差値が持つ意味についても。

「やさしい統計」シーズンの残りは6回分ありますので、 これからも統計に関した「やさしいけれど大切な話題」 を中心に紹介していきたいと思います。 ご期待ください!

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新刊の話。

先週は『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』の初校読み合わせがありました。 比較的にスムーズに進み、短時間で終了しました。 今回の結城メルマガの配信予約をするくらいのタイミングで再校のPDFが届くはずです。

また、現在は暫定版として公開されている書籍カバーデザインも、 新しい正式版が結城に届くはず。確認するのが楽しみです。

再校のチェックが終われば、ほとんど結城の手から離れることになるでしょう。 あとは出版を待つばかり。うれしいですね。

アマゾンの予約状況もたいへんよく、出版社の営業さんからも喜ばれています。 みなさん、応援ありがとうございます! アマゾンに現在掲載されている8月15日発売予定は難しいと思いますが、 8月末日までには刊行の運びとなるでしょう。どうぞご期待ください!

 ◆『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』
 http://www.hyuki.com/cr/

そうだ。いつもの無料サイン本プレゼント企画もアナウンスしなくては……

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結城浩(ミニ)書店の話。

『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』の出版に関連して、 ある書店さんから依頼がありました。

書店の店舗内に、 結城の書籍と結城が選んだ書籍を並べた「ミニ書店」を作るという依頼です。 フェアのようなものですけれど、結城が本を選ぶことで、 「結城浩っぽい」コーナーができるのではないかということ。 その書店さんではよく行う企画のようです。

結城は三つのテーマに分けて17冊を選びました。 プログラミングの本、数学を楽しむ本、そして数学を深める本です。 また公開できるタイミングになりましたら、 Twitterなどでアナウンスしたいと思います。

本を選ぶというのは楽しい作業ではありますが、 なかなか時間の掛かるものでもありますね。 でも、書店さんから依頼されるというのはたいへん光栄なことだと思います。 感謝ですね。

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徒然草の話。

昔、はてなダイアリーというサイトに書いていた日記のファイルを整理していて、 吉田兼好の徒然草を現代語訳に翻訳したものが数点出てきました。 なつかしいなと思い、あらためてnote(ノート)のマガジンとして公開しました。

 ◆徒然草
 兼好法師の「徒然草」から気に入った段を現代語訳でお届けします。
 https://note.mu/hyuki/m/m7758fdc5d61f

このマガジンで公開しているのは、以下の段です。

「良き人の物語するは(徒然草 第五十六段より)」。 これは、品のいい人はどのような話し方をするかを語ったもの。

「この木、無からましかば(徒然草 第十一段)」。 これは、人間はなかなか俗っぽい考えから離れられないというもの (吉田兼好の一ひねりがありますが)。

「夕べには朝あらむことを思ひ(徒然草 第九十二段)」。 これは、人には自分が気がつかないような怠け心があるという話。

それからもちろん「つれづれなるままに」という序段です。

……と紹介文を書いていて思ったのですが、 これってこの結城メルマガで扱っている題材と同じですね! 当たり前のことですけれど、結城は自分に関心のある題材を選び、 それを翻訳していたのだなあと改めて思いました。なるほど。

「古今和歌集を読む」のときも書きましたが、 このように古文を現代語訳するというのは優雅な楽しみだなあと思います。 いつもと違う気分になって文章に接するのですが、 ぐるりと一回りして、現代の自分との共通点を見出したりする。 それはまさに温故知新というものではありますまいか。

 ◆古今和歌集を読む
 古今和歌集(こきんわかしゅう)から親しみやすい歌を読みます。
 やさしい解説付き。ちょっぴり優雅な言葉の時間をあなたに。
 https://note.mu/hyuki/m/mfa4fe40c022b

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Twitterの話。

Twitterでいろんな人のツイートを見ているのは楽しい。 「なるほどなあ」や「そうそう、私もそう思う!」というツイートがあると、 「お気に入り」にして「リツイート(RT)」する。

ところで、「そうそう、私もそう思う!」と感じても、 RTをためらってしまうようなツイートもある。 それは、ツイートの最後の一文で他の人を罵倒しているツイートである。

RTすらしないのだから、ここに例を挙げるのはためらうので、 少し抽象化し、伏せ字を使って説明します。

 最近の○○って○○だと思います。
 昔は○○といえば○○だったのに、
 どうして最近は○○になっちゃうのかなあ。
 こないだ見た○○なんて、まったく★★★だ!

このようなツイートですね。 ○○には名詞や形容詞的なものが入り、 ★★★には侮蔑の言葉や罵倒の言葉が入ります (あなたの語彙で補ってください)。

この最後の一文「こないだ見た○○なんて、まったく★★★だ!」 がなかったらRTしたくなるような主張なのに、 ★★★という侮蔑の言葉が入っているのでRTをやめてしまうことも多い。

私は★★★という侮蔑の言葉を自分のタイムラインに流すのがいやなので、 RTを行わない。それだけのこと。でも「もったいないな」とも思う。 最後の一文を除いたら、きっと広い人の賛同を得られるつぶやきなのにな。 そんなふうに思ってしまうのである。

この最後の一文が「なからましかばよからまし(なかったらよかったのに)」 と思ってしまう。

といっても、このツイートをしている人を責めたいというのとも違う。 Twitterはもともと自由につぶやく場所であり、 そのツイートをしている人をフォローする/しないは、 私自身が決めていることですからね。

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翻訳の話。

先日実施したハングル版「数学ガールの秘密ノート」サイン本無料プレゼントで、 当選者のおひとり(詩衣さん @krxiahfan)がお礼のツイートをしてくださいました。

 ◆詩衣さんのツイート
 https://twitter.com/krxiahfan/status/623705345152516096

ここに登場したハングルが読めなかったので、 ふと思ってGoogle翻訳に掛けてみたところ、 「数学ガールの秘密ノート数列の広場いただきました!」 と完全な日本語に変換されました。すごいですね。

 ◆スクリーンショット

0a63408d84ba529098a6ace802332c83.png

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GoogleのSpotlight Storiesの話。

Googleが、360度の映像作品を楽しめる Spotlight StoriesというアプリのiOS版を出しました。

 ◆グーグル、360度エンタメ映像アプリ「Spotlight Stories」のiOS版リリース
 http://japan.cnet.com/news/service/35067865/

さっそくiPhone 6でダウンロードして動かしてみました。 なるほどこれは新感覚のムービーという感じですね。

 ◆Google Spotlight Stories By Google, Inc.
 https://itunes.apple.com/app/google-spotlight-stories/id974739483

簡単にいえば、自分が映像世界の中に入り込んで、 スマートフォンという窓を通してその映像世界をながめているような感覚です。 上下左右にスマートフォンを動かすと世界の「そっち方向」が見える。 スマートフォンを動かして、登場人物の一人をずっと追いかけていくこともできる。

たとえば、"Windy Day" という作品は、 ネズミが帽子を追いかけるという単純な(でもすごく楽しい)ムービーです。 キャラクタを追いかけてぐるぐるiPhoneを回して眺めてしまいました。

 ◆Windy Day(スクリーンショット)

2015-07-28_windy.png

また、"Duet" という作品では、 「男性側」と「女性側」を別々に追いかけることができ、 ひとつのムービーを多視点で体験することができます。

 ◆Duet(スクリーンショット)

2015-07-28_duet.png

何度も見ていると飽きてくるといえば飽きてくるのですが、 この仕組みを生かした映像手法やトリックが今後出てくれば、 おもしろい作品が作れそうですね。

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もう一つ、iPhoneアプリの話。

まだ使い込んでいないのですが、 「Forest: スマホ中毒の解決法」というアプリを入れてみました。

 ◆Forest: スマホ中毒の解決法
 https://itunes.apple.com/jp/app/forest-sumaho-zhong-duno-jie/id866450515?mt=8

 ◆スクリーンショット

2015-07-28_forest.png

Forstをいったんセットすると、 画面がロックされたような状態になり、何もできなくなります。 最低30分以上「スマートフォンをいじらない」と、 ご褒美として「木」が成長します。 スマートフォンの誘惑にまけていじってしまうと、 「木」は枯れてしまいます。

「スマートフォンをいじらない」というネガティブな方向を、 「木を枯らさないようにする」というポジティブな方向に向けたのがおもしろい。

スマートフォン中毒にかかっている人は試してみてはいかがでしょう (と、他人事のようにまとめてみました)。

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さて、それでは今週の結城メルマガを始めましょう。

今回は、

 「数学ガールの特別授業(ICUHS編)」

の第四回目をお送りします。 先日結城が国際基督教大学高等学校(ICUHS)で行った講演を、 読み物形式にしたものです。 「問題と解答」という概念を軸にして、 数学に限らない「考えること」や「学ぶこと」の意味を問いかけます。 今回は最終回ですね。

なお、過去の「数学ガールの特別授業」は以下からバックナンバーをたどれます。

 ◆数学ガールの特別授業
 http://www.hyuki.com/girl/lesson.html

では、どうぞごゆっくりお読みください!

目次

  • はじめに
  • 数学ガールの特別授業(ICUHS編)(4)
  • 自分を発見する - 本を書く心がけ
  • 中断の効用 - 文章を書く心がけ
  • おわりに