結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年9月8日 Vol.180
はじめに
おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
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新刊の話。
びっくりしました。
先日刊行したばかりの『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』が、 早くも増刷することになったのです(!)
◆『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』
http://cr.textfile.org/
個人で本を書く仕事をしていると「増刷になります」 という出版社からのメールは本当にうれしいものです。 結城の生活を支えている大事な収入だからという理由だけではなく、 それだけ多くの読者さんが応援してくださっていることを感じるからです。
ご購入くださった方、応援くださっている方に心から感謝です! 今回は2003年の第1版、2008年の第2版に続く第3版ですが、 このすべてを毎回ご購入くださっている方もいらっしゃいました。 感謝いたします!
ところで、本書の「電子書籍化」については、 多くの方から質問をいただいています。 編集部で作業をしており、刊行するのはまちがいありませんが、 刊行時期についてはアナウンスできる情報はまだありません。 たいへんもうしわけありません。
公開できる情報が入手できしだい、 アナウンスしていきますので、お待ちくださいね。
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「結城浩ニュースレター」の話。
「結城浩ニュースレター」というのは、 結城浩の活動を短いメールでお知らせするという無料サービスです。
先日「結城浩ニュースレター」の第2号を配信いたしました。
◆結城浩ニュースレター(2015年9月1日)
http://www.hyuki.com/newsletter/backnumber/2015-09-01.html
上のページをごらんになっても分かるとおり、 結城メルマガのように読み物が掲載されているわけではありません。 結城が関わっているWebページを案内するようなイメージですね。
現在では早くも350名以上の方が登録してくださっています。 感謝です。
もしも登録がまだでしたら、ぜひあなたも! 月に一回、多くても二回の頻度ですので、邪魔にはならないと思います。
◆結城浩ニュースレター
http://www.hyuki.com/newsletter/
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さて、もう一つの新刊の話。
現在結城の中で一番ホットなのがこれです。 秋の刊行に向け、せっせと 『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』を書いています。
◆『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』
https://bit.ly/girlvector
先週末にようやく第5章までをレビューアさんに送りました。 ここまでで第1章から第5章がまとまってきたので、 いったん編集部に原稿ファイルを送ります。
そして、エピローグなどをまとめながら、 レビューアさんからのメールをもとにブラッシュアップしたいと思います。 今週から来週がひとつの山場。応援してくださいね!
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Webサイトの話。
こんなWebサイトを見て、なるほどと思いました。
◆People Don't Buy Products,
They Buy Better Versions of Themselves
https://bit.ly/buybetterself
日本語にするなら「人々は製品を買うのではない。 よりよいバージョンの自分自身を買うのである」 とでもなるでしょうか。
もう少しパラフレーズするなら、
「顧客は、製品の機能を買うのではない。
製品を通して手にいれられるバージョンアップした顧客自身を買うのである」
といってもいいでしょうね。 これはたいへん印象深く、また学ぶべき価値のある考えだと思います。
たとえば結城の新刊『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』 の宣伝文句を考えるとしましょう。
「現代の暗号技術に合わせてアップデート!」
あるいは
「楕円曲線暗号やビットコイン!」
というのは「製品の機能」をアピールしているわけです。
でも、もしも「製品の機能」ではなく、 「製品を通して手にいれられるバージョンアップした顧客自身」 という視点で宣伝文句を考えるとどうなるでしょうか。
「情報セキュリティスペシャリストへの第一歩!」
あるいは
「セキュリティ問題の本質を理解!」
などになるかもしれません。
つまり、
「この本は何を書いているか」
(製品の機能)
という視点から、
「この本を読むことで、あなたはどうなるか」
(バージョンアップした顧客)
という視点に移るということですね。
なるほどなあ、と思いました。
著者としては、自著を紹介するときについ、 「自分ががんばったところ」や「自分が努力したところ」 をアピールしがちですので、この視点の切り替えは難しいかも。
Evernoteのキャッチフレーズ(タグライン)は "Remember Everything"だそうです。 マルチデバイスとか、クラウド技術とか、シェア最大とか、 そういう「製品の機能」が最初に来るのではない。 そうじゃなくて、顧客が求めるもの、バージョンアップした顧客自身の姿である、 "Remember Everything" を伝えていると。
なるほど。
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コラムを書いた話。
結城メルマガには書いていなかったかもしれませんので改めてご紹介。 情報処理学会誌「情報処理」2015年9月号に巻頭コラムを書きました。 PDF形式でどなたでも自由に読めますので、ぜひどうぞ。
◆「伝わらなければ意味がない」
http://www.ipsj.or.jp/magazine/9faeag0000005ai9-att/kcol-yuki.pdf
なお、「情報処理」の巻頭コラムの一覧は以下にあります。 すがやみつるさん、平田オリザさん、由美かおるさん、円城塔さんなど、 たいへん多彩な方々が書いていますので、ご覧ください。
◆「情報処理」巻頭コラム一覧
http://www.ipsj.or.jp/magazine/kantocolumn.html
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書籍執筆の話。
二十年前、結城は編集長さんにこんなことを言いました。
「たくさん売れなくてもいいので、
結城の本がロングセラーになって、
必要としている方にいつか届くことを願っています」
すると、編集長さんは、
「そういう本をベストセラーにするのが私の仕事です。
ロングセラーとベストセラーの両方を願ってもいいではないですか」
と返事してくださいました。いまでもよく覚えています。
そんな風にして編まれた結城の本は、現在トータル41冊。 (本という形を取った冊数。改訂などを含めています) 以下にその一覧があります。
◆結城浩の著書一覧(PDF)
http://www.hyuki.com/pub/pubs.pdf
そして、最新の41冊目が『暗号技術入門第3版』となりました。
二十年間、本の執筆をずっと続けてこれたのは、 ひとえに読者さんあってのことです。 買ってくださる方はもちろんのこと、
「もう入門書は自分じゃ読まないけど、
結城さんの本は安心して紹介するよ」
と言って応援してくださる読者さんのおかげです。
私は繰り返し「感謝」を伝えたい。 まちがいに対する「謝罪」もありますが、まずは感謝です。 結城の本を読んでくださる方、紹介してくださる方、 応援してくださる方に、深く、深く感謝したい。
コミカライズされたり、韓国、中国、台湾、アメリカ、タイなど、 たくさんの国向けに結城の本が翻訳されています。 「数学の魅力がわかったよ!ありがとう!」 というメールが、アメリカの少年や韓国の女性から来ます。
ありがたいことですね!
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それでは今週の結城メルマガを始めます。 今回は「再発見の発想法」のコーナーで「パターンマッチ」というお話です。
それから、ここ何回か連続して書いている、 「小さなサイトを作りつつ」の関連で、
ドメインとセルフブランディング
の話を書きましょう。本を書こうと思っている人、 書いている人には少し参考になるかもしれません。
どうぞごゆっくりお楽しみください!
目次
- はじめに
- 再発見の発想法 - Pattern Match(パターンマッチ)
- 小さなサイトを作りつつ(3) - ドメインとセルフブランディング
- 知的生産現場と情報の流れ - 仕事の心がけ
- おわりに