東京拘置所には給湯サービスがある。
佐藤優さんの「獄中記」にはコーヒーの匂いが漂っているのだが、彼の時代はUCCザ・ブレンド117というカップが2つ付いたインスタントコーヒーが売られていたらしい。
現在は40本入りのスティックタイプのものが660円で売られている。私は1度も買ったことはないが、よく売れている。
クリープスティックは254円、スティックシュガーは113円、パルスイートが540円の別売り。
私が愛飲しているのは、ココア。
週に1度、10個まで注文できる。1個に紙カップが2つ付いているので、1週間に20杯飲める。
けれど、給湯サービスは平日に10時と3時の2回、土日は10時だけ、いずれも一杯分と決まっているので温かいココアはMAXで週に12杯しか飲めないのだ。
8杯分は牛乳を買って濃厚な冷たいココアを作っている。牛乳は週に30本まで買うことができる。牛乳券というチケットが交付され、朝にチケットを提出すると2日後の昼に冷蔵庫から出したての冷えた牛乳が届けられるというシステムです。
明治の北海道牛乳。生乳100%使用成分無調整の常温保存可能品。1本200 ml、139 kcal。5月1日に届いた牛乳の賞味期限は6月6日だった。
ココアは森永ミルクココア。24gのココアパウダー2袋とマドラー2本付きで162円。1杯95 kcal。
「120 ml熱湯を注ぎ、よくかき混ぜてください」と書かれている。「おいしい飲み方」として「カップに1袋をいれ点線を目安に熱湯を注ぎ、よくかき混ぜてください」とも書いてある。
しかし、ケーリさんは明らかに点線を超えた量の熱湯を電気ポットから注ぐのだ。
120 mlどころか180 mlは入れてるね。この紙カップに200 mlの牛乳が余裕で入ることから容量は大体わかる。
薄いココアってまずいでしょう。そもそもお湯でココアを作るということ自体信じられないのだが、それはともかく自分で買った物なんだから美味しく飲みたいのに、ケーリさんに文句言うのも気が引けて、我慢しているこのストレスが悩みだった。
ところが追い討ちをかけてココアの悩みが増えてしまった。森永ミルクココアが生産中止になり、UCC泡立つミルクココアに商品変更が決まったのだ。
消費税増税でどの商品も軒並み値上がりする中で、131円という今までより30円以上安い価格設定。嫌な予感はしたけれど初回受付の5月7日に注文したものが今日12日に届いた。何と1袋17g入り。森永より7gも少ないよ。
もうおわかりかと思いますが、ケーリさんは24gの時と同じ勢いで熱湯を注ぐものだから、薄くて薄くて。規定量より多過ぎるから、付属の紙スプーンが沈没してかき混ぜられないし。 これはもう全て牛乳で作るべきか……勇気を出して「お湯少なめで」って言うべきか……というのが今の悩み。
しかしお湯で飲むことを前提に作られた調整ココアだから、牛乳で溶かすとくどいんですよね。温かい飲み物の方がほっとするし。
給湯の仕方は、高さ6 cmの幅広な黄色いプラスティックのコップを差し出され、その中に私がココアの紙コップを入れると、ケーリさんがお湯を注いでくれる。後ろから職員が「熱いので気をつけてくださ~い」と言う。
私がお礼を言い、そっと紙カップをプラスティックのコップから取り出す。そしてマドラーでよくかき混ぜて、飲む。 森永のカップは高さ9 cmで湯量の目安は6.5 cmに対し、UCCは8 cmのカップに5 cmが適量ラインとなっています。
ちなみに白湯を飲みたい、と言ってコップを差し出すのはNG。給湯は、インスタントコーヒーかココアパウダーか紅茶のティーバッグを買っている人だけが対象のサービスです。
1杯の温かいコーヒーがいかに囚人の心情を左右するか、佐藤優さんの獄中記を読むとわかるはず。
「土、日はコーヒータイムが1回になってしまうのが残念である」
「午後、気分転換のリズムをうまく作ることができない」
って深く共感します。私はココアか紅茶ですが。
佐藤さんはコーヒーを飲むたび
「ほんとうにおいしい。気分が落ち着く」
「コーヒーが心身を本当にリラックスさせました」
「至福のひとときです」
「幸せでした」
「コーヒーは本当によい気分転換になります」
「コーヒーを飲むことができるだけで十分幸せである」
とおっしゃっている。
「これもいつでも自由に飲めるのであればこれ程有り難く感じないと思います」
とわかっているところに、佐藤さんの賢く冷静な面がよく出ている。
自弁購入する商品より差し入れ売店で扱っている物の方が良質なのだから、もしやショコラティエが売ってるレベルのココアが差入屋にあるかも!と思い、私は数人にお願いした。
手紙に「今度面会に来た時、お湯に溶かして作る飲み物の粉を差し入れて。」とリクエストした。
「そういうのは見当たらなかったよ」
「置いとらんね」
「ないみたい」
などと、残念な回答が続いている。 年下のカントリーマアム君に面会室で「忘れないでね!」と確認したら「あっ、ジュースだよね。うん、わかってる」と言われた。彼にとってココアや紅茶はジュースなのかなぁ……と思いつつ「じゃ、またね」とお別れした。
届いた差し入れは「ふりかけ」。
全然わかってないし。
ふりかけは飲み物じゃないでしょ!
「石鹸のこと」 2014年5月14日
留置場では「植物物語」という固形石鹸しか売っていなかった。
埼玉の拘置所に移り、薬用石鹸ミューズと牛乳石鹸の無添加せっけんも買えるようになった。
東京では「牛乳石鹸、よい石鹸」でおなじみ昭和3年発売の赤箱と青箱しか売っていない。赤が108円、青が86円なので、私は赤箱を買っている。
なぜか知らないが、東拘では箱から出して交付されるので、説明書きが読めないのです。赤と青の違いは未だに謎。
私の場合、下着とタオルハンカチを洗うのは香りの良い化粧石鹸を使っているが、洗濯用として埼玉ではミヨシマルセル、東京ではカネヨの「あおかく」という植物性、無香料、純石けん分98%の固形石鹸が売られている。
私はこのあおかくを掃除と食器洗い用に買っている。拘置所が支給する液体洗剤は薄過ぎて役に立たないんです。しかも埼玉はなくなれば補充してくれたのに、東京は月末に1度だけと決まっている。この洗剤の質と量で、1日3度の食器洗いがきちんと出来るとは思えません。
差し入れではラックスの化粧石けんが売っている。その名も「ビューティーソープ」。フレッシュフローラルの香り。成分に「ラベンダー花エキス」と書かれてあるこの石鹸の芳香は、アロマセラピーになってます。男女問わず、石鹸の差し入れは喜ばれると思うなぁ。
そう言えば佐藤優さんは
「化粧石鹸については、市販の石鹸よりも泡立ちがよく、手に優しい。使い残しを保釈のさいに持ち帰ろうとしたが、官給品なので認められないということで、あきらめた。」
と書いていた。
ん~これはどうかなぁ。拘置所で支給する石鹸は刑務所製なのだけど、御世辞にも質は良くない。 刑務所の文化祭では、粉石けんが人気商品だと埼玉で聞いたことがある。
埼玉では横浜刑務所製が使われていたけれど、麗子さんは「刑務所で作る物なんて安いだけよ」と言っていた。
私は埼玉で掃除用に官給品の化粧石鹸を貰っていたけれど、これで顔や体を洗っていたら肌はボロボロになるに違いない、と思ったものです。
麗子さんが私に官物の石鹸をくれるようになったのは、私が大量に石鹸を消費するのを見兼ねて「あなた、よくお掃除しているからこれ使っていいわよ」と言い、白い化粧石鹸を渡してくれたのがきっかけ。
東京にいる今よりいっぱい使っていたからびっくりしたみたい。私が申し訳なく思っていたら「釈放や移送になった人が使っていた残り物がたくさんあるんだけど、これを使ってくれると助かるわ。遠慮しなくていいのよ、刑務所で作ってる物なんだから」と言われ、色んな形の石鹸をたくさんもらうことになったのです。
こういう事は職員の胸三寸で決まるから、快適な拘置所ライフを送るには、職員との良好な関係の構築と維持にかかっていると言っても過言ではありません。仲良くなり過ぎると事故に繋がるので、適切な距離感を保つ匙加減が大切です。
よく考えると、12年の11月に差し入れ請け負い業者が矯正協会から民間企業になり、ミヨシマルセルから東邦ウタマロ石鹸に変更されたことを思い出した。ウタマロは買う必要がなかったので値段は記録してないが、ミヨシマルセルは1個50円だった。あおかくは143円也。
東京拘置所では、私物のない人に対し2週間ごとに半分の石鹸が支給されている。1個を半分に割るのはケーリさんの仕事。新聞紙を広げて、廊下で石鹸を切っている姿を見てびっくりしたことがある。結構な力仕事です。生のカボチャを包丁で切る感じで力を込めて大変そうだった。
グレーの洗濯用石鹸と白い化粧石鹸を半分ずつ渡され、たとえ使い切っても2週間経過しないと新しい物は渡されない。
私はこれを人権問題だと思っている。
1ヶ月に1個の石鹸で清潔に保てるだろうか。
官給品が市販の物より良質と感じるかはともかく、男性だって手や体を石鹸で洗うでしょう。
月に1個じゃ足りないわよね?
ちなみに自弁だと化粧石鹸は月に8個、洗濯石鹸は4個まで買える。差し入れは1度に2個まで。月に10個の石鹸を使う私はおかしいのだろうか。
巷では、石鹸やシャンプーを使わないタモリ式が注目されているらしいけど、毎日ゆっくり入浴できるとしても手足や陰部には石鹸が必要ですよ。
液体洗剤や液体ソープを使っている世間の人には、生活の全てを固形石鹸で取り計らうことが想像しにくいのかもしれない。
拘置所の処遇を、こうした細かい事から改善していこうと考える人はいないのでしょうか。
石鹸、ちり紙、寝具。まずはそこから。