一月に、念願だった文楽の『桂川連理柵』を大阪で見た。
「花菜ちゃん、枝雀の胴乱の幸助を見てごらん」
と、小沢さんは十年前に演じた枝雀寄席のビデオを貸してくれた。
明治期くらいまでは、浄瑠璃を『音曲の司』と呼んで素人が熱心に稽古をしていたことが、古典落語の『寝床』や『稽古屋』『軒付け』『浄瑠璃息子』『くしゃみ義太夫』などを聞くとよくわかる。その時代の人は、文楽が好きで、話の筋を知っており、会話の端々に文楽の話題が上がる。文楽が生活に密着しているのである。
文楽の大夫は、一人で何役も語り分け、情景描写もする。落語家と通じるものがある。こういう繋がりに伝統芸能を見る楽しさがある。
九十四年二月の最初の午の日には、小沢さんと赤坂の日枝神社を詣でてから、東京の国立劇場で心中宵庚申を観た。文楽や落語に浸りながら、私は今年の旅打ち日程表を作った。
競馬は四月の桜花賞までGIレースがない。
競艇は三月に最上位グレードのSG競走が、競輪も三月にグレード制が施行された現在はGIと呼ばれている特別競輪が始まる。
競輪と競艇は、週末の一レースで勝負が決まる中央競馬とはレースの仕組みが全く違う。競艇のSG競走は一節6日間の開催で最終日の優勝戦で勝者を決める。
当時は一年に6節だった。
年末の賞金王決定戦のみ、各選手が3日間3レースのトライアル競走を行い、得点上位の6名が最終日の優勝戦へ進出する。通常は準優勝方式で、初日から4日間総当り戦の予選競走を行い、得点上位者が5日目の準優勝戦に進む。
競馬と違い、競艇と競輪は勝ち上がっていく様を見るのも楽しみのひとつなので、最終日の優勝決定戦だけ見るというのではつまらない。グレードが一番高いSG競走だけでも年間三十六日間の開催になる。
私は、福岡の植木通彦のファンだった。競艇選手は、他の競技より現役選手として活動する期間が長いので、年長者も多い中、私は二十六歳の植木に目をつけた。