閉じる
閉じる
×
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
木野龍逸の「ニッポン・リークス」
2016/7/14(No.043)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
[目次]
1.東電福島第一原発事故トピック
【No.43】炉心溶融問題、第三者委員会の調査は東電の免罪符に──再調査の必要性が高まる
2.メルマガ後記
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1.福島第一原発事故トピック
炉心溶融問題、第三者委員会の調査は東電の免罪符に──再調査の必要性が高まる
<推認と推測で結論を出し、東電を免罪した第三者委員会>
福島第一原発の事故発生から2か月後に東電がようやく炉心溶融(メルトダウン)を認めた問題で、東電が調査を依頼した「福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会」(以下、第三者委員会)は6月16日に報告書をとりまとめて公表した(http://www.tepco.co.jp/press/release/2016/1300003_8626.html)。
これを受けて、東電が事故から5年後に炉心溶融の基準を「発見」するきっかけを作った「新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」(以下、技術委員会)は、6月28日に第三者委員会、30日に東電をそれぞれ召致してヒアリングを実施した。
ヒアリングのほか、第三者委員会が東電に報告書を手交した直後に東電本店で行った記者会見などから、調査手法や報告書の記載の裏側にある事情が少しずつ判明した。わかったのは、およそ中立公平な調査手法とはいえない調査方法であったことに加え、調査が極めてずさんであったということだった。
報告書の内容をざっくりいえば、事故発生直後に東電は「炉心溶融」という言葉を避けていた「可能性が濃厚」だが、理由は社内に炉心溶融という言葉を避ける「雰囲気」があったためであって意図的な隠蔽ではないとしていた。さらに、5年後に発見されたのはマニュアルの存在を忘れていただけだった、という主旨だった。
一方で、報告書には考察の過程や結論部分に「推認」が6回、「推測」が4回、「可能性が濃厚」という表記が2回、出てくる。詳細は後述するが、これでは事実がどこにあるのか判然としない。しかも、報告書で書かれていることと5年前の記者会見の状況を照らし合わせると、明らかに認識が違うと思われる部分もあった。
このような報告書に、技術委員会の委員らは苛立ちを隠さなかった。
「結果的に東京電力を免罪している。そういう意味で、国民を愚弄した報告書だと言わざるをえない」。6月28日の技術委員会では居並んだ第三者委員会の弁護士に向かって、立石雅昭委員が強い調子で批判した。その言葉には、東電が繰り返してきた情報隠しがまた行われたうえ、きちんと検証されていないことに対する不満がにじみ出ていた。
新潟県の技術委員会は、東電が2002年から繰り返したトラブル隠しを受けて、柏崎刈羽原発の安全な運転を確保するため、新潟県が2003年に設置したものだ(http://www.pref.niigata.lg.jp/genshiryoku/gijyututop.html)。現在のメンバーは16人で、福島第一原発の事故に関しては、公開の本会議の他、情報発信の在り方、東電の事故対応、高線量下での作業など6つのテーマについて個別の委員会を設けて調査を継続している(http://www.pref.niigata.lg.jp/genshiryoku/1356771524701.html)。国会や政府が短期間で報告書をまとめて、それ以降の調査を放置しているほか、原子力規制委員会も不明瞭な調査しか行っていないため、現在では唯一の事故調査機関となっている。そんな技術委員会からすれば、今回の問題は東電の体質が変わっていないという証左でしかなかったといえる。
東電は2016年2月にメルトダウンの基準を「発見」した後に第三者委員会を設置。3月17日に第1回会合が開かれた。委員会開催にあたっては、多数の関係者、自治体や記者などから、公開で会議を行うよう要望が出ていたが、最後まで非公開で行われた。東電は第三者委員会の判断だとしているが、実際の理由は不明だ。
そもそも、第三者委員会の委員構成からして疑問があった。委員会のメンバーは3人で、うち2人は2013年に東電が国会事故調の調査を妨害した問題を検証した時にも携わった、元仙台高裁長官の田中康久弁護士と、元東京地検特捜部副部長の佐々木善三弁護士だった。佐々木弁護士は、都議会などで強い批判を浴びた舛添要一東京都知事の第三者調査にも関わっていた。つまり東電と舛添元知事の調査を同時並行で行っていたことになる。
ところで国会事故調の調査妨害問題について、田中弁護士らの第三者委員会は東電社員だけにヒアリングを実施し、妨害を告発した事故調委員側にはなんの問い合わせもしないという手法で、意図的な妨害ではなかったと結論づけていた(検証・福島原発事故・記者会見3/岩波書店に詳述)。そして予想通りというか、同じことが今回の調査でも起きたのであった。第三者委員会はまた、東電社員だけにヒアリングを実施していたのである。
批判は外部からも出た。インターネット上では、過去に九州電力の第三者委員会を引き受けた郷原信郎弁護士が、「「マムシの善三」、東電「第三者委員会」でも依頼者寄りの“推認”」と題したブログを発表(https://nobuogohara.wordpress.com/2016/06/17/)。ずさんな調査を批判するとともに、「このような「第三者調査」をのさばらせておいたのでは、弁護士の第三者調査そのものへの信頼が著しく損なわれてしまうことになりかねない」と警鐘を鳴らした。
この記事は有料です。記事を購読すると、続きをお読みいただけます。
入会して購読
この記事は過去記事の為、今入会しても読めません。ニコニコポイントでご購入下さい。