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【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 第四話序章「狛犬」
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【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 第四話序章「狛犬」

2022-04-02 20:36
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    第四話序章 狛犬


    著:古樹佳夜
    絵:花篠

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    ■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について


    ※本作『阿吽』のご感想・ファンアートなどは 
    #あうんくろねこ をつけてツイートいただけますと幸いです

    [本作に関する注意]---------------------------------
    本作(テキスト・イラスト含む)の全部または一部を無断で
    複製、転載、配信、送信、譲渡(転売、オークションを含む)すること、
    あるいはSNSなどネット上への公開・転載等を禁止します。
    また、内容を無断で改変、改ざん等を行うことも禁止します。

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    ◆◆◆◆◆不思議堂◆◆◆◆◆

    その日、吽野は上機嫌で、阿文に話しかけた。

    吽野「阿文クン、春だね」
    阿文「ああ。そうだな」

    店内の片付けをしていた阿文は、
    手を止めることなく受け答えした。

    吽野「春といえば、なんの季節かわかるかな?」
    阿文「そうだな……うーん、桜の季節……かな?」
    吽野「それ! いやー俺たち気持ち通じ合っちゃってるよね〜」
    阿文「それはよくわからないが」
    吽野「あらそうなの?」
    阿文「そういえば、ちょうど今、裏手の神社は桜が満開だったな」
    吽野「そうだよね! てなわけで、今からお花見に行きたいなと、思いまーす!」

    春の陽気に当てられて、
    開放的にでもなっているのか。
    阿文はいつもと違う様子の吽野にギョッとしつつも
    素晴らしい提案に乗り気になった。

    阿文「いいじゃないか。じゃ、僕はおむすびでも握ってこようか。先生、具は何にする? おかか? 梅?」
    吽野「あ、待って。その前に、君に力仕事を手伝って欲しいんだ」
    阿文「はぁ? 力仕事? 花見に行くんじゃないのか?」
    吽野「花見だよ。花見のついでに店番も手伝って欲しいのよ。そういうの、得意でしょ?」
    阿文「店番……? なんのことだ」


    ◆◆◆◆◆神社◆◆◆◆◆

    吽野と阿文は今、桜の下にいる。
    花びらが暖かい風に舞い、
    頭上では鳥が囀っている。

    吽野「いや、本当にいい天気。雲ひとつない快晴、桜は満開、絶好の蚤の市日和だね!ほらご覧? 参道に骨董がずら〜り並んでいるじゃないか!」
    阿文「神社の蚤の市に出店するなんて、聞いてなかったぞ!」
    吽野「ごめんごめん。伝えるの忘れてたんだ。怒んないで」
    阿文「不思議堂から商品を運び出すのは骨が折れたぞ……」
    吽野「おかげさまで露天に商品も並べられた。いや、よかったな〜。阿文クンは俺より手際がいいから」
    阿文「少しは反省してくれ。前もって準備をしておいてくれたら、こんな苦労しなかったんだぞ」
    吽野「はいはい、そんなぐちぐち言わないで。もしかしてお腹減ってるのかな? ほら、おにぎりでも食べて、一休みするといい」
    阿文「それは僕が握ったものだ!」

    吽野は阿文を宥めるように言ったつもりだった。
    けれど、阿文の返事は手厳しかった。
    仕方なしに、吽野は風呂敷を解いて、
    おにぎりを取り出し、頬張った。

    吽野「(もぐもぐ)あ、これ梅だ。すっぱい」
    阿文「はぁ、まったく、先生の計画性のなさは直らないな」

    阿文の小言は、すでに吽野の耳には入っていない。
    吽野の興味はすでにおにぎりからは逸れていて
    先ほど広げたばかりの、不思議堂の商品に移っていた。

    吽野「(もぐもぐ)ねえ、この持ってきた皿、売れるかな?」
    阿文「うーん、店でも売れ残ってるからな。値引きしたらどうだ」
    吽野「だよね……こだわりの品だけど、もう店内は在庫でパンパンだし……」
    阿文「大して売れないからな」
    吽野「もう、失礼だな」
    阿文「せっかくたくさん運んだんだ、できるだけ売って、帰りの荷物を減らそう」
    吽野「あ、」
    阿文「あ?」
    吽野「あっちの露天商が売ってる置物。気になるな。店に仕入れたい」
    阿文「はぁ? まだ1つも売れてないのに、仕入れるなんて!」
    阿文「ごめん、ちょっと行ってくる」

    吽野は素早く立ち上がった。

    阿文「あ、ちょっと!」
    吽野「すぐ戻るから、店番よろしく」

    吽野は人混みを避けながら
    露天商が広げている商品に向かって歩んでいた。
    あっという間に姿が見えなくなる。

    阿文「ったく! 」

    阿文は苛立ちを隠さなかった。
    少しでも気分を散らそうと空を見上げ、
    独り言を口にする。

    阿文「はあ、ただの花見だと思ったのになぁ……いつも先生の行き当たりばったりで調子が狂いっぱなしだ」

    話し相手もいなくなり、
    阿文は春の陽気と、のどかな風景を前に、
    ぼんやりするしかなくなった。

    阿文「それにしても桜が満開で綺麗だな。青い空に薄桃色の桜の花びらが映えて……」

    阿文「ん? あの像……」

    ふと、阿文の目に入ったものがあった。

    吽野「ただいま〜」

    そこに、吽野が嬉しげな笑みを浮かべて帰ってきた。
    どうやら、いいものが買えたようだ。
    一方の阿文は、見つけたものに目を奪われていた。

    阿文「先生、あそこの社殿の前に並んでいる像は……」
    吽野「ああ、狛犬だね。阿吽像だよ」
    阿文「だよな? 阿吽像は対のはずだ。でも、あれは右側の像がない」
    吽野「ああ、そのことね。ずいぶん前からなんだよ。気づかなかった?」
    阿文「……そうだな、今初めて気づいた」
    吽野「……本当?」
    阿文「先生は理由を知っているのか?」
    吽野「……さてねぇ」

    吽野は、懐に携帯していた煙管を取り出し
    一服しようとしていた。

    阿文「……あ! 先生! 何体置物を買ってるんだ!」

    阿文はようやく、吽野が仕入れた品に気づいた。

    吽野「かわいいでしょ。獅子の像だよ」
    阿文「似たような置物が不思議堂にもたくさんあるじゃないか」
    吽野「しっくりくる感じを探してんの。まだまだ修復には時間かかるからね」
    阿文「しっくり? 修復? 一体なんのこと言ってるんだ」
    吽野「ん、ナイショ。こっちの話だから、気にしないで」
    阿文「怪しい……」

    吽野のはぐらかしが気になりつつも、
    阿文はそれ以上を追求しなかった。


    [続]

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    ■本章は、2022年4月5日『不思議堂【黒い猫】』生放送の
    ch会員(ミステリにゃん)限定パート内にて、
    浅沼店主と土田店員が生朗読を行う予定です
    ぜひ、物語と一緒にお楽しみください
    (※朗読は、本章の全編ではない場合がございます)

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    ブログイメージ
    『不思議堂【黒い猫】』店舗通信
    更新頻度: 不定期
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