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【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 第四話第一章「虚舟」
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【連載物語】『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 第四話第一章「虚舟」

2022-04-15 20:57
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    第四話第一章 虚舟  

    著:古樹佳夜
    絵:花篠

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    ■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について


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    [本作に関する注意]---------------------------------
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    また、内容を無断で改変、改ざん等を行うことも禁止します。

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    ◆◆◆◆◆神社◆◆◆◆◆

    光のどけき春の日
    風に煽られた桜の花びらが、さらさらと音を立てて宙を舞う。
    花びらは忙しなく地面に降り積もり
    赤い鳥居や、小さな境内社を、白のまだら模様にかえる。
    神社には誰もいなかった。
    麗かな春の風景を見つめているのは、
    鳥居の前の二匹の狛犬だけだ。
    右の狛犬は口を大きく開け、
    左の狛犬は口を閉じていた。
    と、思いきや……

    吽行「ふわ〜……」

    左の狛犬が、大きな欠伸をしたのだった。

    阿行「吽行。人の子が見ていたらどうする」
    吽行「居ない、大丈夫だ」
    阿行「まったく、石像が欠伸をするな。おかしいだろう」
    吽行「阿行はいいな。いつも口を開けていられるのだから。私だって、たまには口を開けたくなる」
    阿行「閉じておけ。それがお前の仕事だ」
    吽行「ふん……」

    苦言を呈された狛犬は不満そうに口を閉じた。

    魚売り「ふう、ふう」

    神社の階段を、棒手振りの魚売りが息を切らせながら登ってきた。

    まずい、と狛犬たちは背筋をいっそう伸ばして、
    微動だにしないように努めた。

    境内に近づいてきた魚売りは狛犬たちの前で一礼し、
    鳥居を潜ってまた礼をする。
    それからパンパンと、柏手を打った。

    魚売り「神様、今日も河岸で仕入れた魚は、全部売り切れました! 長屋のおかみさんたちも喜んでたし、感謝感謝です」

    大きな声で、今日の成果を報告している。
    その横で、狛犬たちは男をチラリと横目で見た。
     
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