ぼくは歩くのが速いらしい。今まで女の子たちから幾度となくそう言われて来たのできっとそうなのだろう。言われるたびに相手に歩調を合わせてきたけれど、繰り返し言われ続けていることを思うと根本的なところで人と歩調を合わせるのが苦手なんだと思う。
行進も苦手だった。前の人にぶつかったり、ぶつからないように列をはみ出したりしていた。義務教育の通知表には九年間ずっと「協調性がないです」と書かれ続けた。
ラッシュ時の駅のような混雑した場所を歩くのも苦手だ。ぶつかって大事になるのが自分でも分かっているからそういう場所は極力歩かないようにして生きてきた。
なるべく人を避けて、人と歩くのを避けて、自分のペースで歩いてきた。ランニングが好きなのも誰とも歩調を合わせなくていいからなのだろう。自由に走れるからだろう。おそらくぼくにとって誰かと歩調を合わせることは自由を奪われるに等しいことなのだと思う。ぼくは自由を奪われるのが何より嫌いなのだ。それは死ぬまで変わることのない性分だと思っていた。