、中野孝次著『清貧の思想』(文藝春秋、一九九六年)。

・(海外で)何かにつけて日本及び日本人について質問されるわけである。

 私は話を求められるたびにいつでも「日本文化の一側面」という話をすることに決めて来た。内容は大体日本の古典―西行・兼好・光悦・芭蕉。池大雅・良寛などーを引用しながら、日本には物作りとか金儲けとか、現世の富貴や栄達を追求する者ばかりではなく、それ以外にひたすら心の世界を重んじる伝統の文化がある。

ワーズワースの「低く暮し、高く思う」という詩句のように、現世での生存は能うかぎり簡素にして心を風雅の世界に遊ばせることを、人間としての最も高尚な生き方とする文化の伝統があったのだ。それは今の日本と日本人をみていてはあまり感じられないかもしれないが、私はそれこそが日本の最も誇りうる文化であると信ずる。

・いま地球の環境保護とかエコロジーとか、シンプル・ライフと