私は2009年防衛大学校を退職した。長く外務省にいて、公務員生活を終えた。

 その後の定職は特になかった。

 もし、この時点で大企業の顧問の職を提示されていたら、文句なく受け入れた。

 もし、どこかの大学教授が提示されていたら文句なく受け入れていた。

 しかし、それらはなかった。

 結果としてそれが幸いした。

 誰にも拘束されないが故に、自分の述べたいことを述べられる環境を得た。

 それは、日本の文人が求めた環境でもあったのだ。

 その当時、時間があったから、本を読んだ。その中の一つに中野孝次著『清貧の思想』がある。

 読んだ人もいるだろう。幾つかの記述を紹介しておきたい。

「 日本にはひたすら心の世界を重んじる文化の伝統がある。ワーズワースの「低く暮し、高く思う」という詩句のように、現世での生存を能う限り簡素にして心を風雅の世界に遊ばせることを