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【第4章】おかざき真里×橋本麻里 『空海』を語り尽くす!トークイベント完全レポート【全6章】
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【第4章】おかざき真里×橋本麻里 『空海』を語り尽くす!トークイベント完全レポート【全6章】

2021-12-22 12:00

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    2021年10月13日(水)から 12月25日(土)まで、ミュージアムシアター(東京国立博物館内)と、ミュージアムシアターチャンネルで上演中のVR作品『空海 祈りの形』。
    2019年初演時には漫画家・おかざき真里、美術ライター・橋本麻里による記念トークイベント「『阿・吽』ミュージアムシアターコラボ おかざき真里と橋本麻里の「空海」徹底放談会!」が開催され、チケットは即日完売。その大好評イベントの内容を、全6章にわたってまるごとおとどけします。
    第4章となる本記事では、舞台となる「東寺」建立にまつわる歴史と背景に触れ、『阿・吽』作中で、空海が嵯峨天皇の皇后・橘嘉智子に約束したあの「立体曼陀羅」について迫ります。

    ※この記事の内容は、2019年トークイベント開催当時のものです。


    <登壇者プロフィール>

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    おかざき真里 漫画家 
    博報堂在職中の1994年に『ぶ~け』(集英社)でデビュー。2000年に博報堂を退社後、広告代理店を舞台にした『サプリ』(祥伝社)がドラマ化もされるなど大ヒット。現在は「FEEL YOUNG」で『かしましめし』を連載中。2021年5月「月刊!スピリッツ」連載の『阿・吽』(小学館/監修・協力:阿吽社)が完結。

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    橋本麻里 日本美術ライター/永青文庫 副館長 
    日本美術を主な領域とするライター、エディター。永青文庫副館長。新聞、雑誌への寄稿のほか、NHK・Eテレの美術番組を中心に、日本美術を楽しく、わかりやすく解説。近著に『かざる日本』(岩波書店)、ほか『美術でたどる日本の歴史』全3巻(汐文社)、『SHUNGART』(小学館)、『京都で日本美術をみる[京都国立博物館]』(集英社クリエイティブ)ほか多数。

    >>>【第3章】はこちら

    空海が託された東寺、その伽藍の配置を読み解く

    橋本麻里(以下:橋本):第2部は、いよいよVRのほうにまいります。

    おかざき真里(以下:おかざき):はい。東寺の話からですね。

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    橋本:
    正式名称は「教王護国寺」です。「東寺」といっているのは通称ですね。東寺があるということは、当然「西寺」があるよね、ということになる。奈良にも当時、東大寺と西大寺があったのと、同じことです。桓武天皇の治世下で、南都/平城京から、長岡京を経て、平安京へと遷都するのですが、――その辺りの事情は『阿・吽』の中でも描かれています。

    大きな権力を持つ南都の大寺には、豪族の子弟たちが多数入っていました。彼らは生家の意向を体して、国に対して政治的な介入を行うようになっていきます。それが妨げになるとして、現在も有名な南都の七大寺に対し、遷都にあたって新都・平安京へついてくることを禁じたのです。


    桓武天皇が、豪族たちに牛耳られた寺院が平安京でも権勢を揮うことを望まなかったため、平安京にはまず寺がありませんでした。その都には、碁盤の目の一番下、南端に「羅城門」が作られるわけですが、門を挟んで東西に平安京鎮護のための「東寺」「西寺」という寺が新たに造営されます(東寺には空海が、西寺には守敏僧都が入り、官寺として発展)。両寺院は国家によって作られたのです。


    おかざき:ちなみに空海は晩年、西寺の和尚さんと雨乞い対決をするんですね。神泉苑でやります。

    橋本:最初は海外からの外交使節を迎えるために作られた鴻臚館(こうろかん)という建物があったのですが、それが寺へと転用されます。既存の南都七大寺の勢力下に入らない寺がまず作られ、空海のそれまでの実績によって、嵯峨天皇から東寺を託されることになります。それが823年のこと。空海は50歳ですから、東寺が完成するのはまだこの先のお話。そうして、密教の教えの中心となる建物として講堂の建立に着手とあります。

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    橋本:これが伽藍の配置図です。

    おかざき:ちょっとこの伽藍の配置図、覚えておいてください。案外大事です。ちょっと私、このあと話したい。

    橋本:いえ、このまま話していいですよ。

    おかざき:え、いやいやいや。大丈夫です。

    橋本:はい(笑)。

    橋本:伽藍配置は時代によって変わっていきます。現在もっとも一般的な伽藍配置は、敷地の中心に金堂があって、塔や講堂、食堂があり、その周囲を回廊が囲むという形式でしょう。いずれにせよ、中心には金堂が置かれます。

    最初の寺として知られる飛鳥寺の場合、3つの金堂に囲まれた塔が何より重視されていました。それが7世紀の法隆寺になると、金堂と五重塔が敷地の中心に、正面を向いて並立する。塔と金堂は同等のものとなり、中心が2つに分裂するのです。東寺では五重塔は回廊の外に出され、敷地端に置かれている。そして金堂と講堂を並立させた配置から、講堂と金堂をもっとも重要視していたことがわかります。


    おかざき: ここからは深すぎますので、あまりそこら辺までは掘らないように。

    橋本:はい。当初は五重塔が最も重要視されていたということです。なぜかというと、そこにお釈迦様の舎利、遺骨が収められているからなんですね。そのシンボルとして塔(ストゥーパ)が建つ。仏教は当初、仏像のような具象的な礼拝対象はなく、塔が――それももともとは土饅頭のような墳墓だったといいますが──釈迦その人を偲ぶよすが、シンボルとして扱われていました。

    もうひとつ、仏像以前のシンボルに、釈迦の足跡を表したという仏足石があります。やがてそれらは仏像という具象的な形に結実し、その仏像を安置する金堂が伽藍の中心になっていきます。


    それから長い時間を経て、金堂と講堂が並び立ち、そこに膨大な数の仏像が納められた伽藍が成立するのです。これが平安時代初期の当時の伽藍配置ということになります。

     

    時代を超えて平和を願う、灌頂院と秘密の修法

    橋本:次に、灌頂院のお話に進みましょう。この建物は空海によって作られ、敷地の南西の端の方に置かれています。普段公開されていないので、入ったことがある方、内部をご覧になったことがある方は少ないと思います。また塀で囲まれているため、なかなか外から内部を伺うというわけにもいきません。

    そういうわけで、認知度は低いかもしれませんが、非常に重要な建物です。建物自体は何度も燃えたり建て直されたりしているので、現在のものは江戸時代のもの。空海がと申し上げたとおり、平安時代から存在していました。


    ここで何をしているのかというと……たとえば後七日御修法(ごしちにちみしほ)ですね。正月の1月8日から7日間にわたって行われる修法です。こちらが「後」というくらいですから、「前」ももちろんあります。正月の元日から7日間続けられるのは、本来神道の儀式。そのあと仏教のターンへと変わり、後七日御修法ということで、玉体安穏、国家鎮護のため、秘密中の秘密の修法が催されます。これについては何か、おかざきさんも描く予定などありませんか?


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    おかざき:これについては、いや、描かないです。

    橋本:ずる~(笑)! 後七日御修法は今でもやっております。

    おかざき:これはでも、東寺展特別展「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」、2019年)でも壇が展示されていますよね。

    橋本: たしかに展示されています。あんなもの出しちゃっていいんですか?

    おかざき: 本当ですね。

    橋本:秘密中の秘密といった端から、ですが。加えて伝真言院曼荼羅と呼ばれる、両界曼荼羅も出展されています。その金剛界と胎蔵界の曼荼羅を本尊としてかけ、壇を築いて修法を行う。そこで何をやっているかは、さすがに教えて下さいません。

    何か世の中とはかかわらずに粛々と修法をやっているように思いますが、時事問題と無縁ではありません。玉体安穏、国家鎮護を担う寺ですから、たとえば鎌倉時代の元寇に際しては、敵国調伏の修法(大元帥法)を修しています。そして現在まで、修法は続けられています。


    おかざき:そんなときも。あらら~。

    橋本:そこから神風が吹き起こったという説もありますね。

    おかざき:あ、そうなんだ。あれはそういうことなんですね。なるほど。

    橋本:いや、そういうことかどうかはわからないですが(笑)。そういう国家の大事に関わる、非常に重要な儀式の壇が、ペロッと公開されているわけです。でも、見たことがある人は激レアなので、本当にそうかどうかわからないですよね。

    おかざき:わからないですよねぇ。

    橋本:展示用。実はもっと……。

    おかざき:あるかもしれない。

    橋本:あるかもしれない(笑)。本当はこうしているという、大事なところは抜いてあるかもしれないですね。というような罰当たりなことをいっていますが、1週間にわたって営まれ、国家安寧、五穀豊穣というとなんだかのどかな感じがしますが、なかなか厳しい修法なのです。はい、次にいきましょう。

    幾度も戦火を乗り越えた傷跡と、21体の立体曼荼羅

    橋本:ではまた、伽藍の配置図に戻りますね。

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    3つの御堂が一直線上に並ぶ配置で、「仏法僧」を表すといいますが、まずは「食堂(じきどう)」ですね。「しょくどう」と読まないでください。僧が斎食する堂宇です。ここにあった本尊・千手観音像、四天王像が1930年、火災で焼損します。


    文化財指定されていたものが、被災したためにその価値を失い、指定を外されることがあります。いったん外れたらそのままになるのが通例ですが、東寺食堂の四天王像については、一回丸焦げになったけれど、修復がうまくいきます。これ以上の破損・劣化がないということがわかったため、重要文化財に戻すという決定がなされました。非常にめずらしいことですね。


    おかざき:そうですね。

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    橋本:そして講堂。ここに立体曼荼羅を構成する21体が並べられています。東寺伽藍の中心的な建物として空海が建立しましたが、1486年に起こった山城国一揆で、建物自体は一度焼失してしまいます。仏像も何体か焼失しましたが、当時から残っているものもあります。

    創建当時の仏像は現在、国宝に指定されており、あとから作られたものが重要文化財、あるいは指定なしということで、公開されています。かつては秘仏とされてきたのですが、1965年にはじめて内部を一般公開しました。

    京都で有名なところですと、平等院の鳳凰堂もそうですね。もともとあそこは藤原道長・頼通ら、藤原家の人々のプライベートな仏堂なので、一般に見せるもの、人が集まるものではありません。東寺の講堂、平等院の鳳凰堂も、人が建物内部に立ち入るものではなかったんです。

    お坊さんたちが法要のために建物内に入ることはありました。ですが鳳凰堂であれば目の前に池があり、その反対側に遥拝所が設けられています。たとえば室内に置く厨子の場合、扉を開け放つと厨子の中に仏像が安置され、それを外から拝みます。それと同じで講堂も鳳凰堂も本来中に入ることはできない。あそこは仏の世界で、人が入る場所ではないんですね。こういう時代なので内部の一般公開が始まり、東寺といえば講堂を見に行くのが当たり前という状況になってしまいました。


    おかざき:そうですね。麻里さんね、どんどん深くいっちゃうからね。

    橋本:あ、すいません。

    おかざき:はい(笑)。

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    橋本:その講堂に、こうして並んでいるわけです。

    おかざき:そうなんです。これが私、とても不思議で。本当に何も知らなかったので、初めて見たときに、曼荼羅というとやはりこう、安定する円を基調にしていて、ようするに正方形じゃないですか、すべてがね。

    なのに東寺の講堂では、どうしてこれが長方形なんだろうというのが、ずーっとやっぱり謎なんです。私、麻里さんにもずっと食って掛かって「これ、なんで長方形なんですかぁ?」と聞いていますよね。

    橋本:それは、東京国立博物館の研究員の人に聞いてくださーい(笑)。

    おかざき:そうなんです(笑)。まぁ、じゃあVRのほうへいっちゃいましょうよ。

    >>>【第5章】へ続く
     






    東寺講堂 立体曼荼羅を詳細な解説とともに鑑賞できる、
    VR作品『空海 祈りの形』
    本編配信は終了しました。(2021年10月13日~12月25日)

    弘法大師 空海が、言葉では表現できない究極の教えを伝えるために作り上げた「祈りの形」とは。
    804年、空海は留学僧として唐に渡り、密教の正統な後継者となります。
    そして、人々を救う真の教えを日本に持ち帰りました。
    823年に東寺を帝より託された空海は、密教の教えの中心となる建物を講堂と位置づけ、その建築に取りかかります。
    講堂内部に空海が作り上げたものとは、言葉では表現できない究極の教えを伝えるための世界。

    密教彫刻の傑作とされている東寺講堂 立体曼荼羅の魅力をVRで解き明かしてゆきます。

    監修:東京国立博物館、真言宗総本山教王護国寺(東寺) 制作:凸版印刷株式会社

     

    二人の天才の旅路、奇跡のクライマックス!2021年5月遂に完結!
    おかざき真里『阿・吽』(小学館/監修・協力:阿吽社)全14巻が発売中!

    https://www.shogakukan.co.jp/books/09186712
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    「この世ならざるもの」を招き寄せ、日常を聖化する〈かざり〉の営み。その術式を闡明する。
    橋本麻里の新著『かざる日本』(岩波書店)が、2021年12月より発売中!

    https://www.iwanami.co.jp/book/b596548.html
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