クセ、習慣的なふるまいは、やめるのが難しいもの。良いこと(毎晩の歯磨きのような)でも、悪いこと(爪を噛むような)でも、脳にこびりついてしまっているから。
「何かがトリガーになっていてやめられない。みんな何かの行動に脳が反応していて、気持ちよさを感じています。結果として、まさにクセになって繰り返してしまうんです」(マサチューセッツ大学の神経学者、ジャドソン・ブルワーさん)。
すべての習慣、良いものも悪いものもこのループに乗っかっていく。ループが強いほど、断ち切るのが困難に。クセが身に付くのに関係する脳の領域には2つがあるんです。
ひとつは、脳の「辺縁系の基底神経節」と呼ばれている場所。車の運転や靴ひもを結ぶようなことと関係しています。もう一つは、「前頭前野皮質」という場所。複雑な問題を解決したり、意思決定をしたりするカギとなっています。
基底神経節はいつもの行動を無意識にできるようにする一方で、前頭前野皮質は新しいことを学んでいくことに関係してきます。この2つが関係しながら、脳は「クセのループ」にしがみついてしまう。クセを断ち切るためには無意識にやってしまうクセを、意識的な努力で変えていくのがポイント。
「どんなことでも脳は修正していけますから」とカルフォルニア大学サンフランシスコ校の神経科学者アダム・ギャザレーさん。
最近までは、意志をもって、自分からクセから抜け出そうとしていくのが大切と思われていました。ですが、そこは変わっていて、クセのトリガーになるものを除いたり、ほかの快感につながるものを見つけたりする方法が大切だと考えるようになっています。
「脳のシステムを乗っ取るアイデア」とブルワーさん。治療が必要なクセもありますが、 “悪いループ”を乗っ取るやり方はより穏やかなものとのこと。
6つのよくあるクセ、「浪費」「携帯の見すぎ」「髪いじり」「爪噛み」「ガム噛み」「遅刻グセ」をどう退治するかを見ていきましょう。
やめるには:まず感謝
何かをきっかけに「買い過ぎてしまう人たち」。人生の不安なのか、またはキラキラしたものの刺激かわかりませんが、モノ自体が快感につながりますし、それを見つけるスリルも心をつかむからなんでしょう。
「インターネットが買い物のペースを劇的に加速」とゴールデンゲート大学名誉教授で心理学者のキット・ヤーロウさん。「脳は刺激が大好き」(ギャザレーさん)ですから、はまってしまうんです。ショッピングが簡単になり、手っ取り早く。スマホをタップすれば“自分へのご褒美”があっという間。
何が問題かといえば、脳がこのスタイルについていけていないこと。買い物グセになるまでのスピードが高速化。「クセのループは以前より速く回り、より強くなった」とヤーロウさん。
アプリを消去し、宣伝メールを解除すれば一時的にはよくなるかも。でも、もっと救いになるのは「感謝の気持ち」だそう。「衝動買いしそう!」と思ったら、既に持っているものを確認。それで持っているものに感謝。「買い物の快感に置き換えていく」とヤーロウさん。感謝が衝動をおさえこむというのは研究からわかったことでもあるんです。
2.携帯チェック
やめるには:ケータイというトリガーから距離を
最近の研究によれば、人々がスマホをスワイプ、タップするのは一日に平均2617回。年にほぼ100万回にとどく計算。
なぜ引き付けられる?「クルミを探すリスなんです。動物が食べ物をあさるように私たちは情報をあさってしまう。いわば心の“報酬”になる状況に。テクノロジーで情報へのアクセスが簡単になって、無限の情報がポケットや手に。もっともっとと探し続けるのが簡単で、いつまでもトリガーがあって、クセが強化され続けてしまうんです」(ギャザレーさん)
解決法はトリガーから距離を置くこと。まず携帯の置き場所を変える。使えない携帯はスワイプもできませんから。「のぞけないようにバッグに入れ、ジッパーで封印。夜寝る前にチェックしているなら寝室では充電しない」(ギャザレーさん)
通知をオフにするのもOK。「通知音は脳へのトリガーに。脳は新しいものが大好きで抵抗できないからです」(ギャザレーさん)。通知音を解除。あらかじめ決めたときだけ情報をチェックする習慣をつかるのです。
3.髪いじり
やめるには:手でほかのことを
髪をいじったり枝毛を探したり髪の毛をもてあそぶ…。「トリコチロマニア」と呼ばれる髪の毛を抜いてしまう不安障害。いずれも程度の問題で同じような悪いクセです。
「毛を抜いていれば髪はなくなり、目立つほどのハゲにつながって、感情的、心理的、社会的な苦しみが生じていきます。もっとも髪をもてあそぶのは障害ではありません」と不安障害を専門とするヒューストンの心理学者スザンヌ・モートン・オダムさん。
病気とは言えない段階の髪いじりはいろいろなトリガーで始まります。例えば、心にぽっかり穴が空いているとき、退屈によるイライラ、髪型などがキマっていない不安など
良い解決法があります。髪をもてあそんでしまいそうなとき、別のもので手をふさいでしまうのです。手を握りしめたり、ストレス解消のボールを握ったりする。「手のひらにどろどろしたローションを塗ってみるなど。その後髪をさわりたくないはず」とオダムさん。
4.爪噛み
やめるには:好奇心
43歳、3児の母であるアマンダ・マスケラリさんは、爪噛みをやめるためにあらゆることをしたそう。爪にひどい味のする光沢剤を塗ったり、手首でゴムバンドを鳴らしたり、セラピストとも会い、祈るばかり。「爪噛みを克服しようと、ネイルシールの販売まで手を出したほど。でも結局、やめられず」
「爪噛みは見た目をきずつけたり、自傷行為に走ったりする行動を含めた、身体に対する繰り返し行動の一つ。きっぱり辞めるには、気持ちがカギ」とブルワーさん。
脳でクセを意識できるようにする「マインドフルネス」。無意識のうちに脳が習慣づけている事柄を意識するんです。習慣のループを断ち切るように。
「クセは習慣の積み重ね。気持ちいいと感じていることで操られてしまっている。もっと心地良いものを探して、変えていけるんです」とブルワーさん。
対処法になるのは、「自分が何を、なぜしているのかという好奇心」。「爪噛みでストレスが解消するかもしれませんが、意識を向けてみる。よくよく考えると、痛々しく恥ずかしいものだったりします。好奇心を持って自分を見つめてみると、爪噛みする前の段階で心が満たされたりするんです」(ブルワーさん)
5.ガムをくちゃくちゃする
やめるには:考えの中にある「できない」を「しない」に
「チューイングガムをくちゃくちゃしてしまうからといって、病気とはいえません。でも不快に感じる人がいるのは確か。くちゃくちゃ好きな人たちは、動きや音にはまってしまう」(モートン・オダムさん)。
「そんな行動を断ち切る初めの一歩も“意識すること”。単にそのクセを自分で見つめる。ポストイットに記録して机に貼り付けていくだけでも少しずつ行動はなくなっていきます」とボストン大学不安障害センターのエレン・ヘンドリクセンさん、
「普段の考えで“できない”と思うときに、そこの言い回しを“しない”に変えると衝動はおさえられる」とヒューストン大学教授でセルフコントロールの専門家のヴァネッサ・パトリックさん。
「ガムをくちゃくちゃできない」と思ったときには、自分を失い、コントロールできない状態になりがち。そうではなく、「ガムをくちゃくちゃしません」と拒絶の考え方にすると、自分自身をコントロールしやすくなってきます。
6.治らない遅刻グセ
やめるには:時間で計る
36歳のジュリー(仮名)は、いつも15分遅れで、走ってばかりの生活。珍しくないでしょう。ある研究によると、慢性的に遅刻しているのは20%の人だそう。
「いつも時間はもっとあると考えてしまうんです。でもどれくらいの時間が過ぎたかわからず…。洗濯物をたたんだりメールを打ったり、もろもろの用を全部終わらせたくなってしまう。後回しできなくて」(ジュリーさん)
遅刻グセで苦しんでいる人は時間の感覚が不正確。克服のカギは自分の用事がどれくらいかかるか具体的に把握すること。朝の支度をする、約束のため車で出かける、そのほかの用を足す、それらの時間を計って、書きとめておいてください。交通渋滞に備えて時間に余裕も。そして一日の具体的なプランを立てるんです。
セルフコントロール専門家、パトリックさんの研究で見つけたのが、「ジャスト・ドゥ・イット・メソッド」。計画を立てて、余計な事を考えずにそれを守る──。これがとても効果的。慎重にやりすぎたり、うまくやり繰りしたりすると、どんどん遅くなってしまう。計画を立てることは他の選択肢を排除するということ」(パトリックさん)。計画をクセにしてしまうのは、冒頭でご説明した脳の「基底神経節」のクセのループの裏をかいて、クセにならないように。
Evelyn Spence / 6 Notoriously Bad Habits And How To Break Them (For Good)